年代差
「お義父さん、俺はどうですかな?」
「元康くんって俺の時代とあんまり差が無いと思うけど……」
「確かにそうですな。パソコンを前に操作する形でしたぞ」
「まあ、元康くんと俺の世界ってあんまり差が無いからね。とりあえず二人に聞いてみよう。元康くんは樹の方は知ってるみたいだけどね」
「お義父さん曰く、ゲームの開発経緯が独特な話だったと仰っていました」
「へー、どんな経緯があるのかな?」
「……減るものでもないですし話しても良いですよ。ストーリーは省略しましょう。応竜を倒したらVol.1が終了でコンバート要素でやりこむってゲームでしたし」
件の応竜はタクトのドラゴンが宿してる形でしたな。
既に俺達が世界を救っている……クリアしているので気にしなくて良いのですぞ。
「結局、知識が罠だったわけだしね」
「今回はその問題は無視するとしてディメンションウェーブが開発された経緯です。ある意味、ゲーム業界で発生した革命だった訳ですし……真相はこの先を滅ぼそうとした黒幕が仕掛けた罠の可能性も大きいですけど」
「そんなにもきな臭い話なんだ?」
「ええ、まず話さねばならないゲームの話です。これはディメンションウェーブという名前ではありませんが、ディメンションウェーブはこのゲームが出なければ世に出る事は無かったでしょう」
「うん。あるよね。振り返るとその後のゲームは、全てそのゲームを基礎にしてるだろうって奴」
「カテゴリーで言えばハック&スラッシュ。このゲームの発祥は僕の世界で約三十年前、名称未決定と称される体験版だけで2TBもあるPC専用エロ同人ゲームが一大センセーションとなりました」
「名称未決定……凄いタイトルだね。何より2TBって……プログラムファイルだけでそんなにあるって凄いなー」
「そこまで凄いか?」
ここで錬が小首を傾げました。
「まあ、錬は俺達の中で一番SF的な日本出身だから2TBなんて大した数字じゃないのかも知れないね」
「こういう所は時代の差を感じますね」
「……なるほどな。同じ日本でも色々と違うのはわかっていたけど、その辺りから差があるんだな」
「ええ、まあ僕は錬さん程ではありませんよ。異能力があってもですね」
「三十年前に2TBも入れられるハードディスクがある樹の世界も凄いけどね。仮に同じ世界だったら文字通り樹は俺や元康くんをおじさんとかお爺さんって呼ぶくらいだよ」
ちなみにお義父さんの世界だと2TBは一般家庭のパソコンに入っているハードディスクとしては普通の範囲だそうですぞ。
もちろんそれ以上の容量のハードディスクもあるそうですがな。
「話は戻って樹の知っている件のゲームですな。何でもとある富豪が購入して行方知れずになったとかそんな話を樹はしていたそうですぞ」
「ええ、非常に高額で販売権を込みで売り出されたんですよ。体験版の段階でとてつもなく自由度の高いもので且つ中毒性が凄かったとの話ですね」
「なんとも凄い話だね。そっちをプレイしたらずっと遊んで居られそう」
「僕もネット内の動画とかで少し見た事がありますね。とても活気づいて、体験版なのにダウンロードされたハードディスクが高額で取引されていたそうです」
「何でも金銭に換えちゃうのは人の性なのかな……投稿者が注意しそうだけど、作った存在が謎過ぎるね」
「否定は出来ません。未だに誰が作ったのか分かっていませんし」
「案外別の世界の人だったとかありそう。それこそ、元康くんの知る最初の俺が倒した王女の本体とかね」
確かにそうですな。
それくらい、樹の時代でもオーパーツなゲームだったのでしょう。
「体験版なのに定期的にアップデートして最終的に10TBまで膨れ上がったそうです。さすがに追いつけないって事でバージョン分けがされたそうですね。最終版を入れられるハードディスクはほぼ無かったとの話ですので何個もハードディスクを連結して入れる改造が横行したそうです」
「うわ……10TBとか……化け物も良いところだね……ダウンロードするの時間掛かりそう。回線が貧弱だったら完了させるのも難しそうだ」
回線速度を考えるとダウンロードをするのさえきついですぞ。
錬はよくわからんが頷いておこうと言った様子で何度も頷いておりますぞ。
お前の時代ではへでもない容量ですな。
「で、僕のプレイしていたディメンションウェーブというゲームはその名称未決定のゲームの体験版を解析、一部を模倣して作られたゲームなんです」
「どこから敵が関わって居たのかは分からないけど不思議な経緯があって出来たゲームだったんだね」
「ええ……それで錬さんの世界のVRゲームはどんな経緯で発明されたんですか?」
「樹の例から話せば良いんだな。元々は50年位前の戦争で兵士を教育する際の機材とプログラムが発端だそうだ」
「あー……ゲームは元々戦争で作られたコンピューターを平和利用して作られたって話が俺の世界にもあるし、やっぱり大々的な技術改革って争いから生まれるものなんだなー」
確かにそうですな。発明は争いの中で生まれる物が多いですぞ。
「そこから研究が行われてネットの世界に人の意識が入れる様になった。最初にダイヴゲームとして正式に始まったのはブレイブスターオンラインだけど、その前身にして根強い対戦ゲームがあってな。設定したアバターで戦う代物だったんだけど……ネット内のアバターはその基本システムを流用した代物なんだ」
「ゲーム……とも違う感じ? ブレイブスターオンラインもそのアバターでログインする感じかな?」
「いや、ブレイブスターオンラインはネット内で使うアバターとは別に自分のキャラを作る形だな」
「なんか錬さんの世界独自の境界線があるみたいでよくわかりませんね」
「パソコンの初期にインストールされているゲームみたいな物ですかな?」
○リティアやマ○ンスイーパーって奴ですぞ。
何やら反吐が出る気がしますぞ!
「あー……確かにそんな感じなのかも知れないね。ゲームと言えばゲームなんだけど、ショボいというかなんと言うかって感じの」
「否定はしないが、根強くて規模が大きい。対戦形式の幅も広くて……完全に異世界っぽいゲームであるブレイブスターオンラインよりも人は多かったな。強いプレイヤーには王冠のアクセサリーが授けられていて、コピーして貰うにはその相手に強さを認めて貰う必要があったんだ」
対戦時にどれくらいのハンデを掛けて貰うかで勝った際にアクセサリーのシリアルナンバーなどが決められたとか錬は説明してますぞ。
本気の相手だと貰えるアクセサリーの装飾が凄いとかなんとかですな。
当然、オリジナルを所持する者はランカーだそうですぞ。四天王とか王者とか二つ名があったらしいですぞ。
何やらそっちの方が楽しげですな。
「ネット内にダイブする人全てが最初から持ってるゲームって事なら確かにそうなんだろうね。シンプルイズベストみたいな感じでさ。で、それと何か関係あるわけ?」
「ああ……ネット内移動する場合、外見を好きに弄れる訳だから人型以外にロボットとか動物とか変わった姿に出来るんだ。子供は特に動物のアバターを好むから……」
「なるほど幼い頃からネット内に入って遊んで居た錬はイヌルトみたいな姿でも違和感が余り無いって事ね」
「経験済みなら姿が変わっても問題無いという事ですか、納得の理由ですね。ちなみに錬さんはそのゲームでの腕前はどんな物だったんですか?」
「……」
途端に錬は黙り込みましたぞ。
この流れ、覚えがありますぞ!
「ああ、ヘッドショットでやられたのですな!」
「うるさい! あんな攻撃の雨の中を避けられる化け物と一緒にするな!」
「避ける化け物がいたんだ。まあゲームっておかしい位上手い人がいるもんね」
「……」
完全に図星のようですぞ。錬が忌々しそうにお義父さんをなぜか睨んでおりますぞ。
いや……お義父さんが念のためにと出していたフロートシールドを睨んでおります。
よくわかりませんな。