露骨なチュートリアル
「最初の世界の尚文さんって色々と参考にするのが難しそうな方ですからね。何かしらの手段で飛べる魔法でも開発したと思うべきでしょうね」
「ガエリオンの話でもそうだったしな」
「俺なんだけど性格が随分と違うからねー努力したら出来るかも知れないけど、今はそれよりも出来る事を考えよう」
「ペックルである尚文さんが活躍しそうな所を考えると無難に水中ですよね」
「ペンギンだからねー」
「……」
ここで錬が途端に黙り込みましたな。
「錬さんは泳げませんもんね。そう言った所は無難に尚文さんに任せるのがよさそうですよね」
「問題は力業でどうにか出来る場合だね」
お義父さんが俺の方を見ましたな。
お望みとあらばやりますぞ。
「元康さんなら海を割るとか平気でするでしょうしドライブモードの一種で潜水も出来そうですね」
「もう元康一人でどうにかなるんじゃないか? 嗅覚も俺並みにあるだろ」
「それを言ったら元も子も無いよ。イヌルトじゃないと入れない空間とか仕掛けがあるんじゃない?」
「仕掛けに関しては各々誤魔化しが出来るって事で良いじゃ無いですか」
「まあね。一番の問題はさ……道中の隠し部屋とかにある品を100階に到達するまでに集めないと俺達が元に戻れないとか……ありそうじゃない?」
お義父さんの言葉に樹と錬が揃って黙り込みましたぞ。
「ありそうな仕掛けではありますよね。ゲーム知識が中途半端に活躍しては居るけど効率は悪い場所……という所な訳ですし」
「結局は初めてみたいな場所であるのは変わらない訳だしな」
「注意深くして、それっぽい道具を見つけたら入念に調べましょうか」
「そうだね……魔物の姿になっちゃって元の姿に戻るために冒険って感じだけど、昔のゲームとかでチラホラ見た題材だなー」
「尚文さんってこの世界に似たゲームは知らない様ですけど、別のゲーム知識はありそうですよね」
確かにそうですな。
こういう時はお義父さんの方が知らない事に対する知識はある気がしますぞ。
「まあね。単純に塔を攻略するゲームとかだと魔物じゃないけど騎士が塔の中でアイテムを集めて最上階に居るボスを倒し、捕らえられた彼女と宝物を取り返すって奴が最初に出てくるね。初見じゃ絶対に見つけられないだろってアイテムがあって事前知識が必須だったよ」
「現在の状況じゃ冗談じゃ無さそうなんで参考程度に聞きますけど、それはどんな?」
「特定の魔物を倒すとか、壁を何度も叩くとか、魔物の攻撃を一定数受け止めるとか、画面の上端から下端まで移動するとか」
と、お義父さんが説明している途中で錬と樹は耳を塞ぎましたぞ。
「尚文、空気を読んでくれ! 俺達がそんな状況だったらどれだけこの姿で居なくちゃいけなくなると思ってるんだ」
「そうですよ。そんなトライ&エラーが出来るのは元康さんだけで十分ですよ!」
なんでここで俺の名前が出てくるのですかな? お義父さんに命じられればこの元康、錬と樹がいなくてもやり遂げますぞ。
「確かに元康くんに任せればどれだけ時間を掛けてもやってくれそうだね」
「お任せあれですぞ」
「その間僕たちは愛玩動物のまま過ごす事になりますけどね。一生のうちに元に戻れるか疑問ですよ」
「とにかく、この可能性は没って事で別の知識は無いのか?」
「なんか立場が逆転してるような気がするけどー……他だと塔を攻略しながら元の姿に戻る薬の材料を集めて登るってシンプルなアーケードゲームがあったなー後でそのキャラクター達がパズルゲームで再登場するんだけどね」
お義父さんは本当、いろいろなゲームに詳しいお方ですな。
俺も結構やりこんでいると思って居ましたがお義父さんを知ると初心者も良いところだったのを痛感しますぞ。
「こっちは俺達の状況に似てるな」
「まあ、こっちの場合は一度の挑戦で最上階まで行ければ取り残しとか無いから上手なら必要なアイテムが揃うんだよ」
「ボスに期待って事ですね。何かそれらしい代物があったら一時帰還は諦めましょう」
「後は魔物の姿になって世界中を巡って呪いを解除するってゲームとかもあるけど、ちょっと違うから気にしなくて良いね」
「しかし……尚文さんの世界だけか分かりかねますが日本のゲームっていろんなシチュエーションがありますよね」
樹の意見は尤もですな。
俺も知らないゲームが沢山あるのですぞ。
「どちらにしても注意深く探して行くしか無いだろうね」
「話は戻るのですが、錬さんは嗅覚、僕は木登りか壁登り、尚文さんは泳ぎだとして元康さんは何でしょうかね?」
「ウサウニーの特徴って事になるよね」
俺はここでピクピクと耳を動かして見せますぞ。
「このウサウニー元康イヤーでどんな物音も聞き分けられますぞ」
「地獄耳というのは否定しませんけどね。ダンジョンの攻略で元康さんが出来そうなギミックの話をしてるのですけどね」
「耳で鞭みたいに引っかけて移動とかやりそうだけど、それも違うよね。無難な所だと足が速いとか……地面を掘るとかかなー?」
「穴掘りはペックル以外でも出来そうな能力じゃないですか」
確かに犬もリスも兎も地面を掘る習性がある生き物ですからな。
「じゃあジャンプ力?」
「先ほど飛べる事を証明しましたよね」
「まあ、ジャンプ以外だと、ウサウニーの特徴って所だと足の速さとかなんじゃない? こう……時間制限ある所とかを素早く移動するって感じで」
「その辺りがゲーム的なギミックがあるのなら無難な所ですか」
確かに今の俺はとても身軽ですぞ。
動きの速さとジャンプになら自信がありますな。
「なんか元康さんが一々ポーズを取っているのが非常にうっとうしいですね」
「あんまり気にしないようにするとして……ああ、物音……壁とか叩いて空洞とか見つけるとかもありそう」
「匂いで見つけられない隠しアイテムの発見ですか、ありそうですね」
「元康くん。定期的に壁を壊さない程度に叩いていってみてよ」
「分かりましたぞ」
なんて感じに俺達が進んで居ると……3階へと向かう途中で壁画がありましたな。
そこにはイヌルトらしき壁画があり、匂いを嗅いでアイテムを手に入れる絵でしたぞ。
錬もここで、ここぞとばかりに変な匂いがすると壁を調べて隠された道具、武器の強化に使うオレイカル鉱石を見つけましたな。
「わー露骨なチュートリアル」
「親切過ぎて涙が出てきますね」
「ここを作った連中遊んでるだろ」
「壊されていない点は評価すべきじゃない? 今までの事を考えると元康くん達無しじゃ俺達ほぼノーヒントだったみたいだし」
「確かに……これはどうやら波の黒幕の息が掛かっていない迷宮という事なんでしょうね」
「クリアすると何か良い報酬を見つけられると良いね」
「で、次の壁画は……想像通りリスーカは壁登りみたいだね」
リスーカが壁を登って行く壁画が記されておりましたな。
おや? 天井にも張り付ける様ですぞ。
「天井にも手をつけて行動可能か……飛ぶとはまた違うけど縦横無尽に動けるね。アクションゲームだと樹はフックを射出する銃や弓で、機動性を確保出来る感じかな?」
「僕だけ行けても……とは思いますけどね。その先に何かアイテムがあるならやるしかありませんが」
「出来る事がスライムとかが操作キャラクターと同じ感じの動きだね」
「あー……確かにそんな動きが出来そうですね」
「お義父さん。もっと身近な生き物がいますぞ。壁や天井を動く……樹には羽と触覚をつけて黒く塗ると良いですぞ」
「その喧嘩買いますよ! 誰が精神害虫ですか!」
調子に乗って正義を振りかざす樹など精神害虫と同じですぞ。
「まあまあ……」
「開拓生物とは一体何なんだろうな……」
っと出てくる魔物達を倒しながら進んで行くと……今度はウサウニーの壁画ですぞ。
地面を掘っておりますな。




