フェアリーモーフ
『力の根源足る愛の狩人が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者たちの姿を元に戻せ』
「アンチ・アル・ポリモーフですぞ」
パァ……っと俺達に変身魔法を強制解除させる魔法が掛かりますぞ。
ですが……特に変わる様子はありませんな。
「ポリモーフじゃなくてフェアリーモーフって魔法でしょ。専用の解除が必要なんじゃないの?」
「単純に魔法による状態異常解除魔法を唱えたらどうなんだ?」
「ああ、そっちで良いか」
と、俺達は揃って元の姿に戻るための解除魔法を唱えていたのですが、一向に元に戻る様子が無いのですぞ。
「ちょっと待って……もしかして元の姿に戻れなくなってない?」
「い、いや、落ち着け。すぐに元に戻れるはずだ」
「ええ……じゃないと僕達どうなっちゃうんですか。一生この姿なんてことありませんよね?」
「樹、ちょっと黙ってて。君の命中の異能を疑っちゃうから」
「そうだ。お前の口が真理を貫いていたらシャレにならないぞ!」
「そ、そうですね。言いたくても我慢しましょう」
お義父さんたちが徐々に焦り始めました。
「元康くん。何か今までのループでこう言った出来事を経験してない?」
「生憎記憶にないですぞ。お義父さんが実験として動物の姿を変えているのを少しばかり見たような覚えはあるのですが……ペックル姿ではありませんでしたぞ」
あれは最初のループでしたかな?
フレオンちゃんと再会したループでしたかな?
お姉さんに抱えられていた姿を見たような気がしますぞ。
『ふふ、ナオフミ様、今度は私の番ですからね』
『くっそ! モフモフするな!』
『私に毎回してることですから我慢してください!』
おそらくフレオンちゃんと再会したループだった気がしますぞ。
ですが……あの時のお義父さんは確か猫の……っ――何か頭がズキンとしますぞ。
「元康くん? 大丈夫?」
『中々面白い話をするね。ボクがそんなに似てるのかい?』
……っ。誰でしたかな? この声は……遙か過去に聞いた覚えのあるのですぞ。
「本当大丈夫? 元康くん」
「だ、大丈夫ですぞ」
「元康じゃ頼りにならないか。こういう時に頼りになるのは――」
という所で扉をノックする音が響きましたぞ。
「ラフー」
「あの、勇者様、サディナお姉さんが――」
そこでお姉さんがラフ種を肩に乗せて扉を開けて入ってきて、俺たちを見て台詞が途中で止まりましたぞ。
「あ、ラフタリアちゃん、これはね――」
お義父さんが状況を説明しようとした所でお姉さんは扉を閉めてそのまま走り去って行ってしまったようですぞ。
「見知らぬ状況に遭遇したらその場から逃げる。適切な対応ですね」
このループのお姉さんは幼いですからな。
危険な事があったら周囲の大人に頼るように教えておりますから正しい反応なのでしょう。
「まあ……ラフタリアちゃんは正しい対応をしていると見て良いかなー……とりあえずここから出てサディナさんやガエリオンちゃんに聞いてみよう」
「そうですね。僕たちには荷が重すぎる状況になってますし、行きましょう」
「ああ、いつまでもこんな姿でいるわけにはいかない」
「では出発ですぞ」
足が軽いですな。俺が扉を跳ねて捻って開け、みんなで外へと出ましたぞ。
「えーっと、みんなは……」
お義父さんが外へ出て周囲を見渡していると……早速お姉さんがお姉さんのお姉さんを連れてやってきましたな。
「あらー」
「ね、サディナお姉さん」
「あ、サディナさん! ラフタリアちゃんありがとうね。サディナさんを連れてきてくれたんだ」
お姉さんはお義父さんの言葉に頷きましたぞ。
「あらあらあらー」
お姉さんのお姉さんは俺たちを見て何時もの様子で近づいてきましたな。
「サディナさん、こんな姿だけど俺は岩谷尚文なんだ。驚くかもしれないけど魔法でペックルに変身しちゃったみたいでさ、魔法の解除方法が分からなくて――」
「あらー」
お姉さんのお姉さんは前に出て事情を説明するお義父さんを抱き上げましたぞ。
「サディナさん? 話聞いてる? ちょっとなんでそのまま連れてこうとしてるの? 元康くんや錬、樹もそこにいるからさ。詳しい人に――」
そのままお義父さんをお姉さんのお姉さんは連れて行ってしまいますぞ。
「サディナさん? サディナさぁああ――」
あの動作、お姉さんがラフ種姿になってしまった時のお義父さんと寸分違わぬ動きですぞ。
「えー……っと」
「ラフー」
お姉さんが俺たちと連れ去られて行くお義父さんを交互に見て、お姉さんの後を追いかけて行きました。
「なんだったんだ? 尚文の頼みを聞いて連れて行った……って事で良いのか?」
「お姉さんのお姉さんのあの動き、お義父さんが気に入った魔物姿になったお姉さんを連れて行った時と同じでしたぞ?」
「好みの生き物を見つけたから捕まえて持ち帰ったって事か?」
「……皆さん、ペンギンの天敵って知ってます?」
ここで樹がポツリとつぶやきますぞ。
「シャチだそうですよ」
「お義父さん!?」
「尚文!」
バッと俺たちがお義父さんの後を追おうとした直後ですぞ。
「あ」
そこにモグラと、その後ろを着いてきたルナちゃんがこちらに気づきました。
「えっと……」
「イミア、丁度良かった! 今、魔法に失敗してこんな姿になってしまっているが俺は天木錬だ。尚文がペックル姿でサディナに問答無用でさらわれて――」
モグラは俺たちの武器を見てから事情を察したように近づいてくるのですがゾクリと、並々ならない殺気とも異なる気配を感じて鳥肌が立ちましたぞ。
何か飢えた魔物に見られたような、そんな気配が漂い始めました。
こ、この気配は……ヒィイイ……あの時のフィーロたんと似た気配ですぞぉおおおお!?
「ヒィイイイ……」
「元康さん?」
ずーん……と、モグラを遮るようにルナちゃんが前に立ちはだかり、錬へ視線を向けました。
「……かわいい」
その眼光には見覚えがありますぞ。あれはキールを見つけた時のルナちゃんのそれですぞ。
そして今の錬はイヌルト……キールとよく似た姿をしているのですぞ。
このループではキールは見つけることが出来ず、ルナちゃんはモグラを愛でる事でその欲求を解消しておりました。
もちろんモグラを愛でてはおりましたが、よりストライクゾーンに匹敵する生き物が現れたらどうなるでしょう。
「お、おい。ルナ? 何をするつもりだ! うわ!」
ルナちゃんは錬を抱き上げてその豊かな羽毛へと収納しようとし始めましたぞ。
まさに冬場のキールそのものですぞ。
「うわ! 羽毛に飲まれる――樹、元康助け――ク、クロ! ラフミー! ラフミー!」
懸命に抵抗する錬を他所にルナちゃんは俺と樹に視線を向けました。
ゾワッと俺も感じて逃げる事しか考えられないですぞ! 錬が助けを求める声が本気だったのもあるのですぞ!
ヒィイイ……フィーロたん! 許してですぞー!
「どうしたアゾット」
ここでラフミが現れましたぞ。
「丁度良い! ルナに襲われてるんだ! 下手に怪我をさせるわけにはいかないから助けてくれ!」
「ふむ……アゾット、私はアゾットの恋を応援している。相手も乗り気なのだ。しっかりと仲良くするが良い」
ラフミがきっぱりと言い切り、傍観を決め込みました。
「ふ、ふざけるな! 良いから早く助けてくれ! 縁がないのとこれは違うだろうが!」
「私はアゾットの健やかで幸せな未来を願っている未来の使者。その縁がアゾットの幸福なクリスマスへとつながるなら喜んで見届けるのが使命」
「ラフミさん、あなたって方は本当にポンコツですよね……」
激高する錬と呆れかえる樹が印象的でしたが、それよりも俺はルナちゃんの纏う気配が恐ろしくて動けませんぞ。




