変身魔法
それからしばらく経ったある休みの日の昼ですな。
「えーっと……」
学園も休日なので村にポータルで戻っていた樹が本を片手に部屋で何やらしてますぞ。
俺、お義父さん、錬が丁度そろってそんな樹に声を掛けた形ですな。
「何やってるの樹?」
「ああ、ちょっと授業でやる魔法の予習をしてましてね。一応僕は見ているだけでも良いそうなんですがせっかくの機会ですから覚えてみようとしている所です」
「教師ってのも大変なんだな」
錬が樹の弄っている水晶玉を覗き込みながら言いましたぞ。
「へー……生徒と一緒に学ぶって奴だね」
「で、どんな魔法なんだ?」
「ええ、今回予習しているのはポリモーフ。変身魔法と呼ばれる代物ですね」
「そんな魔法があるんだね。もしかしてフィロリアルのみんなやガエリオンちゃん。サディナさんたちが使ってる魔法?」
「それは違う魔法らしいですよ。あくまで人間が一時的に姿を変える魔法だそうです」
ふむ……そういえばお義父さんの話ではメルロマルクの魔法屋でそんな話を聞いたとか言ってたような気がしますな。
「メルロマルクの魔法屋に変身用の服を作るための糸車があるのはこの魔法用ですかな?」
「かもしれませんね。生憎と変身して姿を変えた者は魔法を使えばすぐにわかるそうですけど、過去には潜入などにも使われたそうです」
今でも影はこの魔法を使ったりしているそうです。と樹は続けますぞ。
「なんか面白そうだね。俺もちょっとやってみたいな」
「ふむ……それは望んだ動物とかに変身できるのか?」
「猫とか犬の魔物がメジャーらしいですね。一部ではネズミにもなれるそうですよ」
「うわー……魔女って感じで夢があるなーちょっと使って村のみんなを驚かせたりしたら楽しそう」
……おや? ぼんやりと思い出せますぞ。
「確か平和になった世界でお義父さんがその魔法を試しに使って……姿を変えていた覚えがありますな」
こんな魔法があるんだなと直ぐに元の姿に戻っておりましたぞ。
「勇者も使えるんだこの魔法。聖武器が弾くとかしないんだね」
「自らの意思で発動させるからじゃないですか? ただ、僕たちの場合はすぐに正体を見抜かれそうですけどね」
「そうだけどさ。なんか異世界って感じで良いね。攻撃魔法とか回復魔法とかそんな直接的な魔法ばかりじゃないし試しにやってみようよ」
「そうだな。面白そうだ」
錬もやる気ですぞ。なら俺もお義父さんに続きますぞ。
「どうやるんだ?」
「まず小部屋で魔法陣を描いて、触媒が村の倉庫にあったのでそれを部屋の中心に設置。変身したい人が魔法陣に立って魔法を使えば良いようです」
おや? そんな触媒があったのですな。
誰かが購入して倉庫に入れていたのですかな?
「なるほど、こんな感じか」
「ええ、後は魔法ですね。皆さんにも掛けてあげますね。浮かんでくる文字は……」
と、俺たちが揃ってその触媒を見て魔法を唱えるとそれぞれの武器と触媒、そして部屋の魔法陣が光りましたぞ。
「お! なんか凄そう」
「ふむ……」
「ですな」
武器が反応するとは驚きですぞ。抵抗しているという訳でもなく、魔力の流れを感じている形みたいですな。
「あ、上手く掛かりそうな感じがするね」
「敵意ある魔法じゃないからって事か?」
「ガエリオンちゃんの話す竜化の魔法だと聖武器が弾くらしいからね。あくまで一時的って事で良いんじゃない?」
と、お義父さんも錬も、変身魔法と言う奴に興味津々と言った様子ですぞ。
俺も楽しみですな。
『力の根源足る弓の勇者が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者たちの姿を変えよ』
「アル・フォーフェアリーモーフ!? ってちが――!」
そしてバフっ! と煙が一瞬で巻き起こりましたな。
視界が煙で包まれて何も見えませんぞ。しかも何処からか布が被さってきました。
「ゲホゲホ……樹、煙立たせすぎだよ」
「煙い。というか魔法名が違ってなかったか」
「ええ、アル・ポリモーフって魔法が発動するはずだったんですよ」
「アル・フォーフェアリーモーフって名前でしたな」
「失敗って事かなー」
なんて会話をしているうちに直ぐに煙が消え失せて行きました。
布をどかして周囲を確認しますぞ。すると目の前には……お義父さんの服が脱げ落ちていましたぞ。
それは樹も錬も同様でしたな。
モゾモゾとお義父さんの服の襟の部分から……盾を持ったサンタ帽子を被ったペンギンが出てきましたぞ。
「え、えっと……」
ペンギンが樹の服が脱げて丸まっているところに顔を向けると同様にリスが服から顔を覗かせておりますぞ。
そして錬の服が転がっているところからは……何故かキールが顔を出しております。
さらにペンギンは俺の方へと顔を向けました。
このペンギン……見覚えがありますぞ。カルミラ島などで伝えられる原住民、ペックルにそっくりなのですな。
お義父さんがかなりの頻度で手に入れる着ぐるみとそっくりですぞ。
「えーっと、ポリモーフが上手く掛かったのかな? リスーカ」
「誰がリスーカですか。服の準備が必要って書いてあったのを忘れてましたね」
モゾモゾとペンギンは……声と盾を持っているお姿からしてお義父さんですな。
丸まった服から抜け出し、折りたたんでおりますぞ。
「なるほど……結果的に成功したって事で良いんだな。リスーカ」
このキールっぽい奴が何やら喋っておりますな。
みんな脱げた服から出て確認しておりますぞ。
「だから誰がリスーカですか。それを言ったらあなたはペックルで、そっちはイヌルトでしょうが」
「えーっと銃を持っているって事は樹で良いのかな?」
「はい。そうですよ」
お義父さんがリスに尋ねるとリス……樹は肯定してうなずいております。
「お前はキールですな」
「違う。武器で判断しろ、ウサウニーは元康か」
キールだと思った奴に声を掛けると違うと言われてしまいましたぞ。
剣を持ったキールにしか見えませんが、おそらく声等から錬というところですな。
俺は部屋にある鏡で姿を確認しますぞ。
するとそこにはサンタ帽子を被ったウサギが槍を持って立っていたのですぞ。
その姿はまごうことなくウサウニーでしたぞ!
顔に手を当てるとモフっとした肌触りがしますな。
背は大分縮んでおりますぞ。
「何と言いますか、大分ファンシーな姿に僕たちなってますね」
「みたいだね。錬は犬……になったような感じだから実質あんまり変わらない感じかな?」
「どうだろうな。元康はウサギ……ぴったりだな」
「ああ……確かに元康くんはウサギが似合うね」
お義父さんらしきペンギンに褒められてしまいましたぞ!
「ウサウニー元康見参ですぞー!」
ピョン! ですな!
ポーズを取るとお義父さんが拍手してくださいましたぞ。ペチペチですな。
「で、なんで俺達、各地の修行場で伝わっている原住民の姿に変身してしまっているんだ?」
「さあ……僕もそこはよくわからないですよ。生徒たちの授業は見聞きしてましたし、最初に実験した際にはこんな事ありませんでしたから」
「好奇心からやってみたけどこの背の低さは不便だね。この魔法ってどうやって解くの?」
「視界に変身時間が表示されているそうですが……」
「無いぞ、樹、どんだけ強く掛けたんだ」
「そこまで難しく構築してませんよちょっと待ってください。えーっと」
樹が落とした魔法書を広げてページをめくっております。
「時間経過か解除の魔法を唱えればすぐに解けるはずです。文字は大分読めるようになってますけど、読むのに少し時間がかかりますんで」
「ちょっと貸すのですぞ」
文字に関してループしている俺の方が理解が深いですぞ。
樹が読んでいる魔法書を俺は確認しますな。
もふもふの章開始。