潜入
「あれは多大な失敗でしたがおかげで槍の勇者として召喚されたので結果OKなのですぞ。輝かしいオープニングだったのですぞ」
「何を訳の分からない事を……ただ……槍の勇者が女装して潜伏してるなんて思いもしないとは思いますけど、知らない顔でばれませんか? 目立ちすぎると思いますけど」
「目立って良いのですぞ。新学期に合わせて来た才女、目立つ女に豚は嫉妬の炎を燃やして嫌がらせに走る……樹の望む健全な学園に良い撒き餌と俺もなるのですぞ」
豚と言う生き物は秀でる存在に嫉妬して数限りない悪さをする下劣生命体なのですぞ。
俺が転校した豚学園は箱入り養豚場だったのでそんな感情も起こし辛い調整をされていましたが、それでも俺に噛みついてきた豚は一定数おりましたぞ。
うえ……反抗的だった豚との思い出が脳内で再生されていきますぞ。
ともかく、そんな箱入り養豚場か聊か怪しい赤豚が在学していた学園なのですからきっと俺に噛みつく奴がボコボコ出てくるはずですぞ。
「元康さんにしては真っ当に聞こえなくもないですが……あなた女性と話ができないじゃないですか」
「豚語翻訳はユキちゃんに任せるのですぞ!」
「任されておりますわー!」
「ユキさんは忙しくて翻訳を任せられないから元康さんじゃなくて僕が来たって話でしょうが! それとも何ですか? 僕が潜伏して翻訳手伝えって事ですか!」
「確かに今夜はユキちゃんに任せて居ますが常任してもらうには難しいですな。ユキちゃんのレースを妨害してまではしたくないですぞ」
「くぬぬ……レースで忙しいのが悔しいですわ」
ふむ……ここでユキちゃんにお任せできない問題が浮上ですぞ。
そうですぞ! ここで名案が閃きましたぞ!
「ではモグラを俺のお供にさせましょう!」
モグラは錬に剣術を教わり、ライバルと助手に魔法を教わり、俺に裁縫を教わってすべてをこなす奴ですぞ。
「ここでイミアさんですか? 確かに彼女なら頼めば良いとは思いますが……勉強熱心な方なので多言語を習得したそうですからね」
「適任ですぞ! 何より魔法もしっかり使えるし俺たちがしっかりと教えていますからな」
モグラならばユキちゃんほどではありませんが翻訳できるでしょう。
いざという時にリースカやその他の連中を豚から助ける事は出来るでしょう。
「まあイミアさんなら地面に潜れますし……一旦尚文さんに相談することになるでしょうけど、それなら元康さんが授業をすれば良いと思いますよ」
「樹、お前のやりたい改革と俺の改革は異なるので、それでは本末転倒なのですぞ」
「……これは一本取られましたね。とにかく! もう僕を意味もなくからかいに来ないでください!」
「しっかりと警戒をするのですぞ。ではユキちゃん、帰りますぞ」
「はいですわ! お待ちしていますわー!」
っと、俺は念入りに樹を注意したのですぞ。
そして樹の部屋の窓から飛び降りてユキちゃんの元に戻りポータルで帰還しました。
この際、夜間に俺が樹の部屋まで行った際の出来事でしばらく学園の夜に名もわからぬ絶世の美女が居たと話題になったそうですな。
まあリースカも翌日には復学し、俺も女装しての学園任務を行う事にしたのですぞ。
そうして夜、村に帰還した俺はお義父さんがいらっしゃるお義父さんの家へと向かい扉をノックしますぞ。
家の中ではキャッキャと賑やかな声が聞こえておりました。
「はーい」
ガチャリと扉を開けたお義父さんが俺を見て絶句しておりました。
室内にはお姉さんのお姉さんにパンダ、そして子供たちとお姉さん、今日はサクラちゃんも来ているようですぞ。
「えっと……どちら、さま?」
それから連れているユキちゃんにお義父さんは視線を向けました。
ここは一発お義父さんにも通じるかやってみますかな?
「あらー? モトヤスちゃんどうしたのー?」
おお! お姉さんのお姉さんが一目で見抜いてしまいましたぞ。
相変わらずこの手の感覚は鋭敏ですな!
「え!? 元康くんなの!?」
「そうですぞ!」
「いや、ですぞ言われても声まで高いし、どうなってるの? ラフえもんやフィロ子ちゃんの道具とかユキちゃんが代弁でもしてるの?」
マイクの機能をオフにして地声で話しますぞ。
「フォーブレイの技術者に頼んで作ってもらったのですぞ」
「あ、そ、そうなんだ。これは素直に凄いと思うけど……」
さーて、行きますぞー元康、頼れるお姉さん作戦ですぞー!
ずいっとお義父さんに詰め寄り、優しく頬に触れて微笑みますぞ。
「頼れる元康お兄さんが困るのでしたら頼れるお姉さんはどうですかな?」
「えっと……あのね、だからなんで元康くんはそんなに俺への距離が近いというか、ものすごく詰め寄ってくるわけ?」
おお、お兄さん路線よりも逃げが弱い気がしますぞ。
外見の力は偉大ですな。
「もちろん、お義父さんの好みを実証ですぞ」
「素直に言えば良いってもんじゃないよ! というかまだ続けてたの!?」
「あらー」
「お姉さんのお姉さん、それとパンダ! これはどうですかなー?」
「ああん?」
パンダが機嫌悪げに俺を見ますぞ。
「槍の勇者の変装に関しちゃ感心するけどね。で、アンタはどうなんだい?」
パンダはお義父さんに尋ねておりますな。
「いやいや、ラーサさんと同じ意見だと思うよ?」
「俺としてはこの反応からして別のループで助け船を出す際に採用しても良いかと思ってますぞ」
「待って、なんかそれ実行すると本気でそのループの俺が変なものに目覚めそうだから、割と本気で勘弁してほしいんだけど……」
「素の俺では拒絶されたり助けられない時にやるのですぞ」
「だから正体を知った俺の思考が混乱しそうで困るからやめて!」
なぜかここでフレオンちゃんと再会した時のループのお義父さんが思い出されますが、気のせいですな!
「善処しますぞ」
「モトヤスちゃんも頼れるお姉さんになりたいのね」
「お義父さんやフィーロたん、フィロリアル様たちに頼られたいのですぞ」
それが俺の生き甲斐ですからな! どうですかな?
「本当に勘弁してね。とはいえ……はー……凄いなー身長高いけど一目じゃ判断しづらいや。肩幅とかどうなってんの?」
「上げて寄せているのですぞ。かなり窮屈ですな」
我が家伝来のヨガみたいな感じですぞ。
豚の学校潜伏時に練習した杵柄ですな。
「そう……元康くんって……で、一体どうしたの?」
「ああ、そうですぞ。実は――」
と、俺は樹の所に抜き打ちで突撃したことを説明しましたぞ。
「樹も一発で騙せました。これで樹の作戦に一役買えるのではないですかな? 豚のあぶり出しですぞ。肉汁があふれ出ますな」
「元康くんってやることがなんでもかんでも突き抜けてて唖然とするしかないね」
はぁ……と何故かお義父さんが深くため息を漏らしていますぞ。
「それで……」
「ユキはレースに参加しなくちゃいけないことがこんなに悔しい事は無いですわ」
「うん。ユキちゃんは忙しいし、ほかにフィロリアル達に任せるにしても翻訳を続ける根気があるか怪しいからわかるんだけどね」
「そこでモグラの登場ですぞ」
「元康くんは相変わらずイミアちゃんをモグラ呼びするね。なんでイミアちゃん?」
「翻訳に適した人選でありますし、みんなで色々と教えたのでこの際、経歴を増やすために連れて行くのはどうかと思ったのですぞ」
「まあ……イミアちゃんの事を考えたら悪くないとは思うけど……元康くんも色々と教えてあげてるからね。うーん……」
「お義父さん、元康お姉さんのお願いですぞ」
マイクをオンにしてお義父さんに胸を張りながらお願いですぞ。
豚の悩殺ポーズは反吐が出ますからな。
むしろ任せなさい! がお義父さんには効果的と見ますぞ。
「ああもう……わかったよ。ちょっとルーモ種のみんなに相談しておくよ」
そんな訳でお義父さんはモグラたちへと話を通してくださいました。
モグラ本人は学園への通学はしないそうですが俺の手伝いはしてくださる事になったのですぞ。
「あの……なんで私がお手伝いを?」
「モグラ、これも潜入任務なのですぞ」
「はぁ……盾の勇者様も私を入学させるか悩んでましたけど……」
「お義父さんはお優しいですからな。学ぶのも良いですぞ」
「ウィンディアちゃんやガエリオンちゃんの方が詳しいと思います」
ふむ……モグラのこの応答、お姉さんを連想しますな。
お義父さんがモグラがお姉さんに似ててかわいいというのはわかるような気がしますぞ。
ちなみにお姉さんはお姉さんのお姉さんと一緒に子守りの手伝いをなさっております。
お義父さんも最初は反応に困っておりましたが、樹の手伝いになるならと許可をくださいました。
暴れるのはダメだという訳で豚をその場で処分はしてはいけないという複雑な条件でしたがな。
「ではモグラ、しっかりと豚語を訳するのですぞ。では行きますかな!」
「は、はい」
コツコツ、と教室内に女装した俺が入り込み、自己紹介をしますぞ。
「ごきげんよう。モト=ノースヴィレッジですわ」
お前の苗字、確かにそう訳するとこの世界っぽいよな。俺はロックバレーって感じなのに……とやさぐれてしまった脳内のお義父さんがおっしゃっているような気がしますぞ。
「わ、わああ……」
「ブブ」
「ブ」
ふふ、男共は俺の変装に見惚れ、豚共は嫉妬にまみれた醜い眼光を向けておりますな。
「皆さん、これからどうぞよろしくお願いしますわ」
ぞ、と付けたくなるところをぐっと我慢ですぞ。
ふふふライバルよ。ここで俺が大きくポイントを稼いでお義父さんに有能であると樹に言わせてやりますからな!
目に物を見ていろですぞ!
こうして俺の潜伏が始まりましたぞ。
俺も女装しての学園生活を少ししているのですが、案外不便ではありませんぞ。
「モトさんって色々と詳しいですし、服作りがとても上手なんですね。憧れちゃいます」
モグラが何となく豚が言っていることを翻訳してくれましたし、学園内に獣人の雌が混じっていたりするので臆せず話せば輪に入った風は装えましたぞ。
「そこまで難しくないですぞ――ゲフン。ある程度余裕のあるポンチョとかから始めると自信が持てますわ。それと最初はパッチワークでポーチ辺りから始めると良いと思いますわ」
で、魔法授業はドライファ詠唱を速攻で行い、実技での才能をマジマジと見せつけ、調合学は今までの経験で気付け薬を速攻で作成を終えますぞ。
休み時間になると男子生徒は元より、豚共も集まって輪が形成されましたぞ。
この世界に来る前だった場合は、豚共が視界によく映っていましたが、ここで男子生徒とも付き合いをすればいいのですぞ。
それから複数のクラスの生徒が集まって、樹の授業を聞く時間になりましたな。
「ぶええええ……」
「ここが樹くんが教える所なんだね」
リースカとラフえもんも教室に入ってきましたぞ。
ラフえもんに関しては樹が遣わしたゴーレムと言う事でリースカの警護をすることになっているんだとかですな。
「えーでは授業を始めます。前回も言いましたが僕は新米なのでどうぞお手柔らかに……」
樹が教壇に立って授業開始ですな。俺は後方の席に座って様子を確認ですぞ。
「まず何の話をしましょうかね」
「はい」
ここで俺が挙手ですぞ。
樹、リースカを彼女だと紹介するのが遅れていますぞ。
「……えー、他に居ませんか?」
露骨に挙手した俺を樹は無視をしようとしてますが、タイミングを逃して他の生徒は手を上げませんぞ。
ちなみに初日の夜にしつこく樹の所へ行こうとした生徒は謹慎になったそうですな。
「では、あなた」
「弓のー、勇者様はー、彼女とかいるってー、聞いたんですがー、誰ですかー?」
「……(あー……この槍の勇者、撃ち殺したいですねー)」
樹が張り付いた笑顔に青筋を浮かべて俺を視線だけで睨んできました。
なんですかな? この程度、噂を聞きつけた奴が絶対に聞いてくる話ですぞ。
そもそもリースカを囮に使うという話だったのを忘れてますぞ!
「はい。いますよ。そこに出席しているリーシア=アイヴィレッドさんです。故あって大変な状況で僕が救い保護をした後、懇意にさせていただいています。その隣にいるのはラフえもんさんで色々と協力して下さる特別なゴーレムです。皆さん。この方々に無礼な事は無いようにお願いしますね」
ざわざわと教室が騒がしくなりました。
そこからは樹の授業第二弾が行われつつ、他の教員からの質問に答えて行きましたな。
特に問題なく樹の授業は終わりましたぞ。
さて、後はどうなるかですな。
リースカの方は樹が監視しているでしょう。
……さて、まあ、ここで豚共独自の嫉妬的な嫌がらせはチラホラ確認されましたな。