魔法学園の講師
「なんですかなライバル! 俺への喧嘩なら買いますぞ」
これでも教えるのは得意なつもりですぞ。現にこのループのお義父さん達に魔法を教えたのは俺ですからな。
「男と獣人ならある程度出来るだろうけどそれ以外だと無理なんじゃないなの?」
「確かに……そもそもなんでも力業で解決しかねないな。手本とか言って山を消し飛ばすのが容易く想像できる」
「うーん、それはそれで凄くはあるんだけどね。元康くんに任せる場合はユキちゃん辺りが付いてないと厳しいかなー……」
「余計な騒動を起こしそうなのは間違いないですね……結果、僕に白羽の矢が立つ訳ですか……」
理由は納得できますねとブツブツ樹が言っておりますが、失礼ですぞ!
この元康、お義父さんが命じればなんであろうと完遂する所存ですぞ。
「お義父さん、俺が行くべきですかな?」
「いや、元康くんが行ったらユキちゃんが過労で倒れちゃいそうだからやめよう。ユキちゃんのレースも近いしね」
ちなみにユキちゃんは現在、ゼルトブルの方でフィロリアル生産者と仙人と共にレースに合わせた調整をしておりますぞ。
ボクシングに打ち込む選手の如き剣幕で毎日体を鍛えておりますな。
ユキちゃん曰く、コースレコードの更新をしたいという話ですぞ。
ストイックなユキちゃんに最近はファンがかなり増えてきているそうですな。しかも歌って踊れる訳ですから人気も上り調子ですぞ。
フレオンちゃんも各地で話題になっており、世界はフィロリアル様の人気が徐々に増えてきております。
「ちなみに他の世界ではどうなんですかガエリオンさん」
「最初のワイルドなおふみの世界だとなおふみがご指名されていたなの。これは活躍の違いと見て良いなの」
最初の世界のお義父さんは俺たち勇者の中でも飛びぬけて評価されておりましたからな。
「まあ、最初の世界じゃ英知の賢王も居たし、ワイルドなおふみは面倒だって断っても平気なポジションだったから他の勇者が代理で行っていた時も多いなの」
「なんと言いますか……同一人物なんでしょうけど僕達の知る尚文さんよりも怠惰な方のようですね。いえ、この場合は他に忙しかったというのが正しいんでしょうかね」
「間違いないなの」
お義父さんは色々とお忙しいのは間違いありませんでしたな。
俺はフィロリアル様たちのお世話をしていろと命じられたので精一杯やっていましたぞ!
とても楽しい時間でしたぞ。
「他の世界でも似たような感じで勇者が講師に呼ばれることが多かったなの」
「フィロ子の時代にもある由緒正しい学園っきゅ」
ここでフィロ子ちゃんも学園に関して教えて下さいましたぞ。
なるほど、それほどまでに続く学園なのですな。
「そうなんだ。まあ、頼まれちゃった訳だし一応やっておいた方が良いのかな? 樹や錬は年齢的にまだ高校生なんだし、講師と言うより学生って気持ちで行ってみれば良いんじゃない?」
「色々とありすぎて学生だった事なんて完全に忘れてましたね。僕も錬さんも……とはいえ尚文さんたちだって大学生だったんじゃないですか」
「俺は三流大学でかなり適当にやっていたからなー……講師とか教授と級友たちには色々と絡まれたり頼まれたりしたけど優遇はされてたかな」
「具体的には?」
お義父さんの学生生活ですな。
平和になった後にやさしいお義父さんに聞くと時々教えてくれた話ですぞ。
「単位とかを大目に見てもらったとか他の世界で聞きましたぞ」
「あー言ってたなの。ガエリオンも聞いた覚えあるなの」
「ああ、やっぱ元康くんとガエリオンちゃんは知ってるか。うん。色々と頼まれたりした代わりにね。その辺りは上手くやっていたつもりだよ」
「前にも述べてましたが、大方変わった食材とかをもって来られて料理してあげたとかですか?」
樹の勘もなかなか鋭いですな。
「うん。ダチョウの肉とか色々とね。よく頼まれたのは筋子をイクラのしょうゆ漬けにするとか些細な頼み事かな。亡くなった奥さんの味を再現できないかって講師に頼まれたりもしたね」
なんでもお義父さんは大学の老講師に縁があって頼まれたそうですぞ。
色々と話を聞いている内にレシピが分かったとかで再現したら気に入られたそうですな。
「思うのですけど……尚文さんってどのあたりがリア充じゃなかったんですかね?」
「そりゃあ彼女とか居なかったし? 本当にリア充な人とはそこそこ距離はあったよ?」
「尚文さん。元康さんをリア充と見たら確かにそうかもしれませんが、上を見過ぎていますよ」
「俺達の知る元康くんがリア充なのかと言うと過去形なんだろうけど……」
リア充というのは錬や樹も使う日本に居た頃に充実した生活をしていた者を指す用語ですな。
俺がリア充ですかな? 微塵もそのような事は考えておりませんでしたが、豚との恋愛を第一優先に色々と絡んでいましたぞ。
今では反吐の出る面倒くさい豚共との日々ですぞ。こんな事に記憶の容量を裂く位ならフィーロたんとお義父さんたちとの思い出を記憶すべきなのですぞ。
「なんと言いますか……尚文さんって異世界に来なかったらしばらくしたら彼女とか出来てそうですよね」
「あらー? ナオフミちゃーん」
ここでお姉さんのお姉さんがお義父さんに絡みますぞ。
生まれた赤ん坊はすやすやと寝息を立てて居ますな。ちなみにこの子とパンダの子が寝る前にフィロリアル様が三名ほど遊び疲れてしまいましたぞ。
とんでもない体力ですぞ。
「確かにナオフミちゃんは魅力的だわよねーお姉さんも素敵に思っちゃったもん」
「ど、どうだろうね。あっちの世界じゃ俺は良い小間使いって程度だったんじゃないかな? 割とそういう感じの人多かったし」
「女性側も好感は持っていたけどキープ程度の認識だったのかもしれませんね。おそらく彼女ができたとかその辺りを周囲に言うだけでモテ期が襲来した可能性が……」
「樹? なんでそんな怪しんだ目をしてる訳? 正直、元康くんは別として樹ほど顔が良ければ俺より遥かに彼女とか出来るでしょ。錬もさ」
「「……」」
ここで何故か錬と樹が黙り込みますぞ。
「錬の場合は幼馴染の所為なのが大きいんだろうけど、樹の場合はどうなの?」
「……低能力者ですからね。僕の周囲では評価なんてされませんよ。ほかにも色々と理由が無い訳じゃないですけど」
「そういえば弓の勇者」
ライバルが頭に手を何度も当てて思い出すように尋ねますぞ。
「……なんですか?」
「確かお前、血の繋がらない親戚に高い能力者がいるって話をガエリオン聞いた覚えがあるなの」
そう呟いた瞬間、樹の眉がわずかに上がりましたぞ。
「どこのループの僕が漏らしたのかわかりませんが面倒な話を……」
「何々? なんか重たい理由?」
「いえ……大したことじゃないですよ。僕より年下の親戚で高い異能力を所持した方が居ましてね。あの子自身に罪は無いのですけどその所為で面倒ごとによく巻き込まれたんですよ」
「イ、イツキ様の元の世界の話ですか? 私、聞いてみたいです」
リースカが手を挙げて樹に教えてほしいとせがみますぞ。
「出来れば断りたいですね。リーシアさん、僕はあなたと似たように上を見て育った一人の人間って事ですよ」
などと樹は珍しくさらりと話題を逸らそうと必死のようですぞ。
「あー……優秀な親戚に比べられるって奴か……俺も弟が優秀だったから気持ちはわかるよ」
「お姉さんも妹や弟が居たらそんな苦労をさせちゃったりしたのかしら……ラフタリアちゃんには絶対にさせられないわねー」
「ラフー」
お姉さんのお姉さんはお姉さんとラフ種を見てつぶやきましたぞ。
このループのお姉さんはきっと大丈夫だと思いますぞ。
「良いじゃないですか。ともかく、今回は僕が講師に行くって事で良いですよ」
どうも樹は日本に居た頃の親戚に関して話すくらいなら別の事に意識を向けたいようですぞ。
「樹が続けて良いって事みたいだから、ラフえもんネタから魔法の学園でも良いけどどっちかというと魔法学校七不思議とかの方がそれっぽいかな?」
「誰がそんなボケを拾えと言いましたか! 映画撮影とかしたら怒りますからね!」
「そもそもこの学校ってどんなところな訳?」
お義父さんがエクレアに尋ねますぞ。
「フォーブレイの王都から離れた辺境にある学校で小さな町みたいな場所だ。各国の貴族は元より魔法に携わる者が在籍していた事が多い」
エクレアが地図を広げて場所を指さしますぞ。
俺は既にどこなのかは記憶しているので分かりましたぞ。
「ああ……どこなのか分かりました。ゲームの話ですが」
「そうだな。あそこか。何となくわかるぞ」
具体的には俺の知るエメラルドオンラインで言う所の魔法学園という街と所在地が完全に重なる所ですぞ。
「地下にダンジョンがありますよね」
「アンデッドと霊属性の魔物が多い狩場だ」
「スピリットエンチャントで有用となる魔物が確保できる狩場ですぞ」
ゲームの頃ではここで得られる魔物の魂アイテムがかなり優秀でみんな挙って一獲千金に人気がありましたな。
「大地の魔力が大きく流れる地でな。土地の特色から魔法が非常に使いやすくなる。過去に戦地になった場所で定期的に浄化は施しているがそれでも地下に存在する洞窟から魔物が時々出てくる地だ」
「なんかちょっと楽しそうな場所みたいだね。こう……アンデッドを相手に回復魔法で俺も戦えそう」
「なおふみ、残念ながら……」
ライバルがお義父さんに向かって残酷な宣言をしますぞ。
俺もこればかりはお義父さんに言えないのでライバルのセリフに不満を持てませんぞ。
お義父さんは徹底した回復適正なので食材や素材以外で活発化、熟成や腐敗進行は出来ないのですぞ。
アンデッド相手に回復魔法でダメージは出来ないのですな。
「あ……そうなんだ」
お義父さんが非常に残念そうな顔をしております。
ぐぬぬ……こればかりはお義父さんに出来ない事なのですぞ。
「あそこの魔法学校の方ですね。クエストも結構豊富だったんで覚えは十分ありますが……」
「ゲーム知識を元に行動して良いか悩むところだな」
「そこにある学園に講師として来てほしいってだけだし狩場とか気にしなくて良いんじゃない?」
「そうですね」
「ちなみに、確かタクトやマルティ王女も在籍していたそうだぞ」
タクトの息の掛かった者たちは一掃されたとの話なので今は健全である……と言うのをアピールしたい目論見があるそうですぞ。
「いや……在籍者からして嫌な気がするんだけど……」
「ふえぇえ……私も在籍してましたぁ……」
リースカのセリフに樹が顔を向けますぞ。
「え? リーシアさんもですか?」
「進級時の休暇で家に戻っていたらそのまま波が起こって休学になったんです」
「となるとリーシアさんは復学することになるのでしょうかね」
「は、はい。筆記は得意でしたので卒業単位は満たしてますけど……」
実技と言わない所がリースカらしいですな。
「リーシアは四種混合属性魔法の論文を実技で見せれば良いんじゃないなの? きっと十分な成績を残せるはずなの」
「そ、そこまでじゃないですよぉ……」
「かといって……樹と親し気にするリーシアさんを学園に連れてくと、面倒そうじゃない? こう……勇者の仲間って事で尊敬するか、嫉妬されるかでしょ?」
「ふえええ……」
「別にリーシアを連れてっても良いと思うなの。きっと手が掛からず助けになるなの」
ライバルがリースカと樹が一緒に学園に行くことに関して推奨しているようですぞ。
「……そうですね。ただ……今回はリーシアさんはラフえもんさんと留守番してもらった方が良いかもしれないです」
ですが樹はリースカを留守番させたいようですな。
リースカは中々優秀ですからな。学園にいるよりも村で色々とやっている方が良いという奴ですぞ。
最近は主治医も時々村に来るので主治医から教われば勉学は十分でしょうからな。
「で、ですがイツキ様が辛いのを私は我慢は出来ないですよぅ……」
「その気持ちで充分ですよ。とにかくエクレールさんたちに来た講師になる依頼に関しては分かりました。試しという事で僕が行きますよ。それから判断しても良いでしょう」
という事で樹が学園に行くことになりましたぞ。
「そんな訳で尚文さんを始めとした皆さん。僕とラフえもんさんをネタにして妙な話をしないでください。話は以上です」
「カワスミ殿の協力に感謝する」
エクレアが代表してお礼を述べましたな。
「なのなの。話はまとまったようで何よりなのー」
「弓の勇者の教鞭が始まるっきゅ」
と、ライバルとフィロ子ちゃんが微妙に引っかかる感じで、魔法学校への講師になる話は決まったのですぞ。