パンダの部下
「よーしよし、赤ん坊ってのは可愛いもんだな。尚文」
「そうだね。これで俺も父親かー……なんか不思議な感覚だよ」
「そうね。ナオフミちゃん」
「ラーサさんも」
「……んあ?」
パンダはベッドで横になってうたた寝しておりましたぞ。
ちなみに生まれて既に数日経った状態ですな。
人間の赤ん坊でしたらまだ新生児と言う状態なのですがお姉さんのお姉さんの子供たちは乳児、生後半年以上は経過しているような元気さを見せておりますぞ。
この辺りは日本での感覚でいると大きく間違えそうですな。
お姉さんのお姉さんたちは獣人化が出来る方々であり異世界の人種なのですぞ。
「錬や樹、他の皆が生まれた赤ん坊を見に来たんだよ」
「ああ、そうだったのかい。どうだい? 元気すぎてアタイは困ってるよ。どんだけ吸うんだろうねぇ……で、飯はまだかねぇ?」
「ラーサ……よく食うわね」
「腹減るんだよ。良いじゃないかい」
ゾウがパンダに注意するとパンダは開き直るように言いますぞ。
お義父さんの料理はとても美味しいですし元気が出ますからな。
ちなみにゾウは俺たちがゼルトブルで料理勝負などをしていたりした所でお義父さんたちと一緒にパンダの村に行き、その流れでお義父さんがシルトヴェルト方面での外交などをして実家の問題を乗り込んで解決したそうですぞ。
お義父さんの話では流れ的にはシルトヴェルトに行ったお義父さんの時と殆ど変わらぬ流れで解決したそうですな。
やりましたな!
ライバルも一緒に居たのが癪ですが俺も一緒に行きたかったですぞ。
ちなみにコウもゾウと一緒に出掛けたとの話でしたぞ。
「また作ってくるよ」
パンダはお義父さんに料理を催促しているようですぞ。
ですがパンダの近くには既に完食済みの料理の皿が並んでおります。
よく食うパンダと言った様子ですな。
至れり尽くせりな状況だったようですぞ。
「尚文じゃないけど赤ん坊はかわいいな。ラーサズサ」
「ええ、とても元気な赤ん坊ですね」
「だろうねぇ。せっかくだからあやしといてくれないかい? 色々とアイツやうちの親や祖父がおもちゃを用意してるからねぇ」
パンダは部屋にあるおもちゃ箱を指さして錬や樹たちに赤ん坊を楽しませるおもちゃを用意しているようですぞ。
「いつきくん! ぼく達にも任せて! お世話ゴーレムの本領発揮だよ」
「そうっきゅ!」
ラフえもんとフィロ子ちゃんが揃って名乗りを上げますぞ。
その辺りは得意なのですな。
逆にラフミの方は錬のサポートといった様子で道具を用意しているようですな。
「ラーフー」
ラフちゃんが迅速に指揮を取るとばかりにお姉さんの頭に乗っておもちゃの太鼓を樹や錬が抱える赤ん坊に見せて振っておりましたぞ。
「ああ、ありがとうございますね皆さん。あんまり集まっては身動きできませんし、適度な距離を取りながら交代でお世話をしましょう」
「そ、そうだな。おむつの交換とかどうやるんだ?」
「こうするんだよ。ただー……まだトイレの時間じゃないみたいだよ」
「あ、トイレの時間ってわかる鳴き方をするから、その時に厠に連れてくとしてくれるよ。驚くくらい手が掛からない子達だから安心して」
「そ、そうなんですか。安心……なんですかね?」
とんでもない学習能力を持った赤ん坊達ですな。
お義父さんやお姉さんのお姉さん、パンダ曰く、お腹にいる頃に聞いて覚えたのかもしれないという話ですぞ。
「お義父さん! 俺もお手伝いしますぞ!」
「ありがとう、元康くん」
俺はライバルを見ますぞ。
「ライバル! 俺のいない所で、お義父さんに手は出していませんな?」
「してねーなの」
「元康くん、俺には身重だったサディナさん達がいるんだよ? そんな節操無しに思えるのかな?」
うっ……お義父さんが笑顔で圧を放ってきますぞ。
確かに優しいお義父さんは尽くすタイプですな。
そうでなくても、そんな誠実さに欠ける事をする方ではありません。
ライバルも無理やり迫る気はないとばかりに手を振ってますぞ。
おのれー! ですぞ!
「勇者の子供に関して過去の文献とかフォーブレイの資料とかで色々と確認を取れてるけど凄いわねー」
「野生の魔物は生まれてすぐに一人で生きれるのもいる」
フォーブレイから派遣された研究者として主治医と助手が赤ん坊の状態を観察しておりますぞ。
ライバルは助手の肩に乗りますな。
「賑やかで良いなの。お姉ちゃん」
「そうね……幸せそう」
「なのー」
ここではライバルに警戒はしつつお義父さんと話をすべきですな。
「赤ん坊の衣装はしっかりと準備しましたぞ!」
「ありがとう、元康くん。有効的に使わせてもらうよ」
それぞれ子供に合わせたパンダとシャチのデザインのベビー服を用意しておりますぞ。
パンダの子供にはシャチ、お姉さんのお姉さんの子供にはパンダの着ぐるみですぞ。
他にもいろんなデザインの服を網羅しております。
まさに山のようにですぞ!
これが俺の真心ですからな!
「イミアちゃんも服作りしているし、服飾は元康くん達のお陰で困らないから助かるよ。この前の料理大会とかもだけど元康くんは服飾系の大会とか行くと良いかもね」
「お義父さんが仰るのでしたらこの世界のトップ服飾デザイナーになって見せますぞ! 行きますぞ、モグラ!」
「え? あ、はい」
モグラに話題を振ってやるとちゃんと返しました。
こうして賑やかな感じでお姉さんのお姉さんとパンダの出産祝いは進行していくのですぞ。
錬と樹たちに任せた子供たちは仲良く楽し気な声を上げておりますぞ。周囲は若干疲れて来た感じではありますな。
そんな光景をお義父さんはパンダとお姉さんのお姉さんと一緒に見守っております。
「子供達が仲良く遊んでくれると良いよね」
「あー……そうだねぇ。思ったより成長が早そうで何よりだよ。ったく腹にいる時は元気すぎて怖かったもんだけど、驚くくらいアッサリ出て来たもんだね」
「そうだね」
「でだね……アタイが子供の時は兄弟ってのがちょっと恋しいと思ったもんさね」
「幼い頃に親と逸れて養父に育てられたんだったっけ。近所の子とかと遊んでたって話だよね」
「まあね。遊び相手や一緒に住んだなんてのも無い訳じゃないけど、やっぱり本当の兄弟姉妹ってのが欲しいとアタイは子供心に思ったのさ」
「俺は平和な世界に居たからなー……弟がいるね。色々と比べられて育ったけど兄弟仲はよかった方かな」
お義父さんが思い出に浸りながらパンダに言いますぞ。
パンダは腹を撫でながらそんなお義父さんの手を何故か握りました。
「どうしたのラーサさん?」
「アタイの子供はそんな寂しい思いはしないと良いねぇ」
「サディナさんとの子供もいるし大丈夫でしょ。二人そろって元気だよ」
何かモジモジとパンダがしていますぞ。
一体どうしたのですかな?
「……生まれるまであんなに暴れて、今じゃそれが無くて落ち着かないもんだねぇ」
会話が少し戻ったような気がしますぞ?
パンダ、お前は何が言いたいのですかな?
俺はなんとなく違和感を覚えましたが、お義父さんは優しそうな表情をしていて気付いていないみたいですぞ。
「苦労を掛けたよ、ラーサさん。流されてこうなっちゃったけど、ありがとう」
「いいさね……」
妙な沈黙がお義父さんとパンダの間に交じりますぞ。
周囲に俺たちもいるのにどういう事ですかな?
どうやらパンダは妊娠中の混乱から落ち着きを完全に取り戻したようですぞ。
「弓の勇者様、姉御の子供を俺達もお世話したいでさ!」
「そうだそうだー!」
パンダの部下達も我も我もと樹に見せろとせがんでますぞ。
「はい。凄く元気なんでしっかりと抱えてくださいね」
「ありがとうでさー! うわ! 暴れる!」
「めちゃくちゃ元気だぜ! さすが姉御の子供だ!」
「おー! 姉御に似て魅力的な人になるんでさー!」
これだけ人が居れば目を離すという事はありませんな。油断は大敵ですが安心できますぞ。
その中でお義父さんたちは話を続けておりますぞ。
「今度、体調がよくなったらアタイの部屋に案内するさね。アタイの所はなんだかんだ少数種族な集落だからねぇ……」
「え? うん。部屋には来るなって言うから入ってないもんね。パンダの村って所で俺としてはとても夢があっていい場所だよ」
「あらあらー」
お姉さんのお姉さんがここでニコニコしながら間に入りますぞ。
「アンタは来るんじゃないよ!」
ガッ! っとパンダがお姉さんのお姉さんを威嚇してお義父さんの腰に手を回しましたな。
「もう! ササちゃんったらー! そんなんじゃナオフミちゃん、わかんないわよー!」
「え? それってどういう意味?」
「ラーサ……あんだけ盾の勇者様に詰問していたのに、どういう風の吹き回しよ。ケダモノってサディナの事を言えないわよ」
ゾウが呆れるようにパンダに向かってため息交じりに言いますぞ。
ふむ……つまり仲良き事は良い事という事ですな!
「うるさいねぇ! これがアタイの性分なんだからしょうがないとあきらめる所だよ!」
「ナオフミちゃん、ササちゃんの体調が安定したら、招かれた時にお部屋に一人で行くのよー? お姉さん拒まれちゃったから別の日にお願いするわー」
「え? え?」
「アタイが良いって言ってんだから気にしないで良いんだよ! わかったね! 呼んだら部屋に来るんだよ!」
「う、うん……ラーサさんが、良いのならだけど……部屋に行く前にどこか出かけてからが良いかな」
「ふん。盾の勇者様ってのがどれだけ盛り上げできるのか楽しみにしてるさね!」
「だー! だー!」
ここで樹と錬がパンダとお姉さんのお姉さんにそれぞれ赤ん坊を抱えてもって来ました。
「お腹が空いているみたいです! ラーサズサさん! 尚文さん!」
「ああ、はいはい。さっき飲んだばっかりなのにさね……」
なんて感じでパンダは満足げに腕を組んでから、樹達から赤ん坊を受け取り赤ん坊にミルクを飲ませていたのですぞ。
「お姉さんのおっぱいが小さくなっちゃうー」
お姉さんのお姉さんもいつもの調子でふざけながらも甲斐甲斐しくお世話をしておりました。
その後の事なのですが、赤ん坊の世話で錬や樹を含めてみんなぐったりしている中、お義父さんとお姉さんのお姉さん、パンダとライバル、そして俺は疲れなく赤ん坊のお世話をしたのですぞ。
樹曰く、お義父さんたちは世話に関しては一種の才能を所持しているとか悔し気に仰っておりました。
ライバルも見ていたような気がしましたが、奴は種族的にスタミナがあるから除外ですぞ。
そうしてお義父さんとパンダがデートしてから数日後ですな。
「ほれ! お前も飲むんだよ!」
「分かってますぞ!」
「のーめ!」
「飲ーめ!」
「飲めー!」
ゼルトブルの酒場で俺と錬、樹が揃ってパンダとその配下たちに絡まれて俺は酒を飲まされたのですぞ。
用事でゼルトブルに買い出し等で来た所、ほろ酔いのパンダが俺たちを見つけて酒場に引き込んで今に至るのですな。
ちなみにパンダとその配下の話では、出産までの期間を含めて育児で色々とストレスが溜まっているだろうし、好きに羽を伸ばすいい機会だろうとお義父さんとお姉さんのお姉さんなどが育児を肩代わりして送り出してくれたそうですな。
「一体どうして僕たちがこんな場に……お酒も飲めずにお茶で付き合わされるって……」
「うっさいねー! お前たちに酒なんて飲ましたらアイツが嫌がるだろうさね! その分、槍の勇者様ってのに飲んでもらえば良いさね!」
「うっぷ……ですぞ!」
ぐびぐびと飲まされて居て、まだ泥酔というほどではありませんが中々に酔ってきているのですぞ。
今日のパンダはコロシアムで大暴れして闘士復帰で会場を湧かせていたそうですぞ。
パンダに見つかった所で既にパンダはかなり酒を飲んでいるようでした。
「こういうのは尚文さんやサディナさんのポジションだと言うのに……」
「何言ってんだい! アイツ等と一緒に飲んでいたら体が持つわけないさね!」
お義父さんとお姉さんのお姉さんはお酒に恐ろしいほど強いですからな。
しかもお義父さんは酔った姿はどこの世界でも見たことが無いのですぞ。
「姉御ー! 追加の酒がきやしたー!」
「あいよー! んっくんっく! プハー! やっぱ好きなペースで飲める酒は良いさねー!」
俺以上に飲んでいるパンダが追加の酒のジョッキに口を付けて飲み干しましたぞ。
「元康さんに飲ませてもどうにかなるとは思いますけど、こういう時こそガエリオンさんとかドラゴンに飲ませる方が良いんじゃないですか? 飲み仲間的に。フィロリアルたちは飲酒は好まないようですけど」
「ああ、アイツさね? ドラゴン連中は相手にならないねぇ」
「姉御がそれだけ酒豪なんでさー!」
「そうでさー!」
「さすがです姉御ー!」
最初の世界のお姉さんのお姉さんの話ではお義父さん、お姉さんのお姉さん、パンダで次がライバルと親とお姉さんの順番で酒に強いそうですぞ。
ゾウはその体躯に対してお姉さんと同じくらいなんだそうですな。