【13】憩いのとき
時期が大幅にずれていますが、避けては通れないクリスマスのお話です。
冷たく澄み渡る夜空には、絵に描いたような北斗七星が浮かんでいた。
「ほら、和弥それもって行って」
真夕の言葉に和弥が
「へいへい」
そう言って大皿をテーブルに並べながら「千夏さんまだかな」
加奈は、ひとりソファで寛いでテレビを観て笑っている。
「おい、加奈。お前も少しは動けよ」
「だって、あたしなぁんもできないよ」
加奈の惚けぶりは、和弥相手でも変りは無い。
「しょうがねぇなぁ」和弥が肩をすくめた。
そう言っていると、チャイムが鳴った。
和弥が玄関を覗くと
「こんばんはぁ!」
香織のやたらと通る声が、キッチンの真夕にも届いていた。
和弥は香織と秀雄を見て「役に立たないのが先に来ちゃったな」
「な、なによ、それ」
香織が口を尖らした。
「まぁまぁ、半分は当たってるし」
秀雄が笑って言う。
再びチャイムが鳴った。
「こんばんはぁ」
今度こそ千夏の声だった。
「こんばんはぁ」
リビングに入って来た千夏に向かって、真夕、和弥、香織、秀雄の4人はほとんど同時に声を返した。
クリスマス・イヴ。今夜は真夕の家でパーティーをするのだ。
料理があらかたテーブルに並んだ頃、再びチャイムが鳴った。
「誰だろう」
和弥が真夕を見てそう言いながら、玄関へと歩いて行った。
「こ、こんばんは……」
ドアを開けると、耳が半分出るくらいのショートカットの娘が、小さな顔で笑っていた。
それは、三田村亜希子だった。
「マユ先輩が、暇だったら来いって、言ってたから」
「あ、ああ、そう。どうぞ、入って」
和弥は、その一見華奢で可愛らしい彼女、というか彼を招き入れた。
「あら、亜希子ちゃん来たんだね」
「ちゃん。っていうの、やめてもらっていいですか……」
「どうしたの、目の下にアザ作って。彼氏と喧嘩?」
香織の声に亜希子は、真夕を襲って殴られたとも言えず
「いや……ちょっと、階段で……」
リビングからはそんな会話が聞こえて来た。
ドアを閉めようとした和弥は、再び外から声がするのを聞いて振り返った。
「よう、三浦」
「えっ?」
玄関口には影山の姿があった。
「マジで、来ちゃったんですか……」
終業式の帰り、和弥は影山に呼び止められた。
「明後日って、刑部はどうしてんのかな」と、彼は言った。
「ああ、彼女の家で、みんなでパーティーなんすよ」
「へぇ、そりゃ楽しそうだな。何人くらい来るんだ」
「5〜6人すね」
「ほぉ、それで、何時から」
和弥は軽い気持ちで、訊かれた事に応えていた。
真夕からも、影山本人からも、二人がどうなったのかは聞いていなかった。ただ、最近は真夕の傍に現れない影山を、完全に諦めたものと思っていたのだ。
「心配すんなよ。ほんと、遊びに来ただけだから」
影山は、不安な顔をする和弥を見て笑った。
彼は、リビングに入ると
「これ、俺から」
そう言って、いきなり真夕にプレゼントを渡した。
「か、影山さん……」
いきなり現れた影山に真夕は目を丸くした。
「ちょっとあんた、今日この場ではみんなクジでプレゼント交換するのよ。一人だけ勝手にしないで」
香織が何時もの口調で影山にそう言ったので、和弥と真夕は焦った。
「か、香織。彼、和弥の部活の先輩だから…」
「へぇ、そうなの」
こうして、星降るイヴの夜は楽しく?更けていった。