【9】衝動
空は青色を見せているのに、朝からチラチラと小雪が舞っていた。大奥山脈上空から、遥々冷たい風に乗ってやってくるのだ。
「はぁ……」
真夕の隣で加奈が深い溜息をつく。今日、彼女の悩ましげな溜息を何度聞いたことか……
「何よ、さっきから」
堪り兼ねた真夕が言った。
「だってさ、また今年のクリスマスもいい事ないなぁって思うと、溜息も出るじゃない」
今日は冬休み前の終業式。そして明後日はクリスマス・イヴというわけだ。
「加奈は選り好みしすぎるんだよ」
「でも……晴香みたいに誰でもいいって訳にも……」
「失礼な。誰が、だれでもいいっての?」
横で何気に聞いていた晴香が言った。
「ええっ、だって成沢でしょ……」
加奈が言った。
晴香は成沢正人と言う、隣のクラスの男の子と付き合っている。特にたいした特徴もない極々普通の男子生徒だが、何だかんだと付き合い出してもう半年にはなる。
「何よ。正人優しいんだよ。ねぇ、真夕」
「えっ……」
あまり記憶の定かでない自分に振られても困る…… 真夕はそう思いながらも
「う、うん」と肯いた。
「明後日の晩、ウチでパーティーやるけど、加奈も来る?」
「えっ、いいの?」
「もちろん」
「でもさ、みんなカップルだったらやだな……」
「大丈夫だよ。和弥とか、香織とかだし」
「そうなんだ」
加奈は、笑顔を取り戻して「他は?男の子いっぱい来る?」
終業式が終わって、掃除の時間。真夕たちの班は図書室掃除の当番だった。ほとんど終わって加奈と真夕は一緒にゴミ捨てに行った。
その帰り際
「せ・ん・ぱ・い」
真夕はその声の主が誰であるか、直ぐに判った。
「亜希子ちゃん」
「久しぶり、マユ先輩」
相変わらず細い身体で、彼女は笑っていた。
「あのう、ちょっと相談があるんですけど」
「えっ、あたしに?」
「後で、音楽室で待ってます。掃除が終わったら、来てください」
亜希子はそう言って、さっさと行ってしまった。
「あ、あの…さ…」
もう遅かった。
真夕は加奈と顔を見合わせた。
「ねぇねぇ、前にもこんな事あったよね」
掃除が終わって教室に戻り、帰り支度をしながら加奈が言った。
真夕も、4階へ通じる階段を上りながら、同じ事を考えていた。
「朋子、明後日のイヴどうするの?」
朋子は帰り支度をしながら、教室で友達と話していた。
「さぁ、どうしようかな」
「あたし達、パーティーやるけど、あんたも来る?」
友人の梨歩が言った。
「うぅん…… 遠慮しとく」
朋子の態度に梨歩は「あんた、まさか、もう他の……」
「さぁあ」
朋子がそう言って悪戯っぽく笑って見せるのを、教室の隅で帰り支度をしていたアツシは、一人で顔を紅潮させながら盗み見ていた。
朋子と利歩が教室を出て階段へ向かっていると、スッと一瞬真夕の影が見えた。
4階へ向かっている彼女の姿だった
「あ、あたし、ちょっと……」
朋子がそう言おうとした時
「あ、ごめん、忘れ物」
梨歩がそう言って、教室へ引き返して言った。
朋子は、真夕が気になりながらも、とりあえずその場を動かなかった。