【4】クラスメイト
「よう、最近元気ないな」
「うるさいな、あっち行ってよ」
帰りの昇降口で近藤アツシは、目に留まった朋子に声を掛けた。
「三浦先輩と別れたんだって」
「別れたんじゃない」
朋子は靴を履いて、足早に昇降口を出た。
アツシはそれを追いかけながら「じゃあ、なんだよ」
「振られたのよ。決まってるでしょ」
朋子は涙を堪えながら「もう、その話はしないで!」
和弥と朋子が別れた事は、アッと言う間に地を這う如く広まった。関係の無い者にとっては全くどうでもいい話しだが、女の子はこの手の話に敏感に反応する。
陣中見舞いを装っては、その経緯を聞こうとするクラスメイトに、朋子はウンザリしていた。
三浦和弥に多少なりとも好意を持つ女生徒、特に上級生達は、ザマア見ろと言わんばかりに、失笑しながら彼女を見た。
好きなように勝手な事を言ってればいいわ。あんた達なんて、道端に転がっている空き缶ほどに、和弥の眼中にも無いんだから。誰も刑部真夕には勝てないの。あの二人は特別なのよ。
もう、どうでもいい…… もう誰も好きになるもんか。和弥よりも素敵な人なんて、一生現れないわ。
「なぁ、朋子」
朋子は、直ぐ後ろをアツシが歩いている事も忘れていた。
「あんた、部活は?」
「お前の帰る姿が見えてさ…… うっかりここまで来ちゃったよ」
朋子は思わず、足を止めた。正門を出て学校前の通りをしばらく歩き、もう直ぐ国道へ出る所だった。
アツシは剣道をやっている。部活に行く途中だったのだろう、自分の胴着の入った大きな黒い一本背負いの袋を担いでいた。
「バッカじゃないの」
朋子は冷ややかに笑ってその姿を見つめると、再び歩き出した。
「なぁ、どうせだから、これからどっか行かない?」
「なんであたしが、あんたと何処かに行かなくちゃいけないのよ」
「いや、だってさ……」
アツシは朋子のキツイ言い方に苦笑いを浮かべた。
「あんただって、マユ先輩が好きなんでしょ」
「好きって言っても俺の場合は、ファンみたいなもんだからな」
「バッカじゃないの。同じ学校の生徒のファンだなんて」
朋子は自分の鞄をアツシに向かって振り回した。
「だって、マユ先輩って、何となく普通と違うって言うか……」
その言葉に彼女は歩く足を緩めた。
「そうね。あの人………不思議な人」
朋子は国道へ出た所で、横断歩道を渡る為に立ち止まり「目を見て話してると、吸い込まれそうになった」
朋子は、以前音楽室で真夕と面と向かってやりあった事がある。と言っても、和弥の事で話を聞いてもらっただけ。のようなものだが。
その時彼女自身、真夕の不思議な瞳に、膝が震えたのだ。それは、緊張から来るものではなかった。彼女から感じたのは女のそれとは違う意思の強さ、それともあれが女の強さだったのだろうか。
しかし、真夕が事故で入院し、そして退院して学校へ来た時、何かが違っていた。そう、あの瞳が、あの力強い瞳が優しい輝きに満ちていたのだ。
朋子は、それが病み上がりのせいだろうと思った。
しかし、結果としては、その変化こそが和弥の心を奪い取ったのだと思っている。
いや、和弥との関係に変化があったからこそ彼女は変ったのかもしれない。
朋子はそれを考えると、いつも同道巡りを繰返し、底なしにはまってしまうのだ。
「ま、済んじまった事をくよくよ悩んでもさ」
アツシが朋子の肩を叩いた。
彼女はハッと振り返り「あんた、まだいたの……」
朋子はつい、アツシの存在を忘れていた。
青になった横断歩道を渡りながら
「あんた、マジで部活行かないの?先輩に怒られたって知らないよ」
「もう、ここまで来ちゃったし」
アツシは子供のように笑って言った。
「だいたい、あんたの家こっちじゃないでしょ」
「だからさぁ、どっか遊びに行こうぜ。このまま家までついて行くぞ」
「ストーカー行為は止めてください」
アツシの言葉に、朋子は振り返らなかったが、その顔には少しだけ笑みが零れていた。