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【17】着信

 和弥は悩んでいた。それは、真夕に対する気持ちよりも、朋子からもたらされるプレッシャーに対してだった。

 彼女は知っている。

 真夕が以前にも増して、女性としての魅力が増した事を。

 その理由までは当然判らないはずだが、どうやら和弥と真夕の間に何かがあったと思っているらしい。

 男と女に起こる必然的な出来事。それが、真夕の魅力に磨きをかけたのだと思っているのだ。

 最近の学校では、休み時間になるたびに朋子は和弥の教室へ来る。

 完全に真夕との関係を疑っている。と言うより、もはや少しでも自分以外の女性と接触させまいとしているのだ。

 和弥自身、真夕への思いが在る以上、朋子が勘ぐる気持ちを否定できない。

 それよりも寧ろ、和弥はこの先朋子に別れを告げる際、どうしたらいいかと言う事に悩んでいるのだ。

 和弥の気持ちは既に、朋子のものではなくなっていた。




 和弥の父親は未だに入院したままで、度々真夕が夕飯を作っている。

 父親が入院して1週間もすると、母親も手が空くようになり食事の仕度をするようになったのだが、和弥の母親が少しでも休めるようにと、時々真夕が夕飯に招いた。

「悪いわね、マユちゃん。あなた、お料理上手だから、きっといいお嫁さんになるわね」

 和弥の母親は、真夕がGIDによって男性の性自認を持っていた事を知らない。

 母親が留守がちな真夕は、それなりに料理が出来るのは以前からだったが、まるで押し殺されていた母性本能が湧き出るように、和弥の面倒を見た。

 明らかに女性ホルモンが活性化しているのだ。その証しに、胸が少しだけ大きくなって、下着を買い換えたりしている。

「和弥も大変だね」

 夕食の時、真夕が言った。

「そんな事もないよ。お前こそ、俺の分まで飯作ったりするの、面倒じゃないのか?」

「どうかな? 別に、一人分も2人分も変らないでしょ」

 真夕はそう言いながら笑って「それに、大変の意味が違ってる」

「えっ?」

 和弥はポカンとした顔で、真夕を見た。

「学校でさ。朋子ちゃんに完全監視されてるでしょ」

「ああ、その事か」

 和弥が小さく笑って肩をすくめたその時、彼の携帯電話が鳴った。

「ほら来た」

 真夕が笑うと、和弥は携帯の液晶モニターの表示を確認して

「シッ」

と、口に人差し指をあてるジェスチャーをして「もしもし」

 勿論、電話の相手は朋子だ。

「もしもし、今何してたの?」

「晩飯だよ」

「お母さん、お父さんの病院に行ってるんでしょ」

「いや、もう夜は帰ってくるんだ」

「そうなんだ」

 和弥が電話に応える姿を、真夕は悪戯っぽい笑顔で見つめながら、ご飯を口に運んだ。

 すると、今度は真夕の携帯が鳴って、慌ててキッチンから出て行く。

「今の音、何?」

 朋子が言った。電話の向こうに真夕の携帯の着信音が聞こえたのだろう。

「ああ、お袋の携帯が鳴ったんだ。病院からかな……」

「随分今時の着メロなのね」

「お、俺が設定してるからだよ」

 和弥は何とか言い逃れるのだった。


「もしもし」

「ああ、俺。今どうしてた?」

 みんな同じ事を訊くのね…… 真夕は和弥に意味も無くそんな事を訊いた事がないので、何だかおかしく思った。

「今、夕食よ」

「ねぇ、今度の土曜日、バイクで出かけないか?」

「香織は?」

「彼女は関係ないよ」

「そうもいかないでしょ」

「もう少し寒くなると、バイクじゃあまり出かけられないし。少しだけ、いいだろ」

「でもねぇ……」

 真夕は考えながら、キッチンで朋子と話す和弥をチラリと見た。

 何かに笑っている。彼女が盗み見した電話越しに笑う和弥のその姿は、なんだか楽しそうに見えた。

「いいわ。ちょっとなら」

 真夕は秀雄に向かってそう言った。

 待ち合わせ場所と時間を決めて電話を切ると、和弥が、廊下に顔を出して

「誰から?」

「うん…… 秀雄」

 真夕はそう言いながら少しだけ笑みを浮かべて、携帯を折り畳んだ。



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