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喋る犬と宇宙外交官  作者: メロ
喋る犬
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喋る犬 ④


 僕とコルーパは一緒に下のキッチンに降りていった。キッチンでは、お母さんが昼食を作っていた。僕とコルーパはそのすぐそばまで寄って行った。

「ねえ、母さん。今日の昼食は何?」

 僕はコルーパを横目でチロリと見ながら言ってやった。でも、コルーパは気にする事も無い。というか、その顔は自信満々だ。何でだろう?そこで僕は、こいつが犬だと言う事を思い出した。もしかしてこいつ……

「あらまあ。今日の昼食はチャーハンにしようと思ってたけれど、材料がなくなってたの。だから、今日の昼食はスパゲッティよ」

 何てこった。材料が無かったなんて。落ち込んでる僕をよそに、コルーパは僕のジーパンのすそに噛み付いて、僕を二階まで引っ張っていった。僕は部屋のドアを閉めると、怒りを抑えながら言った。

「お前、分かってたんだろう?今日の昼食がスパゲッティだって。そりゃそうだよなあ。お前は犬だもんな。匂いで分かるよなあ」僕はコルーパに顔を近づけた。「それと、お前、チャーハンの材料全部食っただろ」

 すると、コルーパは僕の鼻にがぶりと噛み付いた。僕はびっくりして飛び退いた。奴は偉そうな顔をしてるけど、僕はじんじんする鼻を押さえて、ぐしゃぐしゃな顔になっていた。僕はコルーパに近づくと、右手で奴の鼻を思いっきりデコピンしてやった。「ワッ!」という声を上げて、コルーパは後ろにぼてんと転んだ。

 しばらくの間、睨み合いが続いた。僕は鼻の痛みが治まると言った。

「ずるいぞ。お前は最初から分かってたんだ。だから、さっきの賭けはなしだ」

「負けは負けだろう?負け犬の遠吠えはやめといた方がいい。かっこ悪い。だろ?そんなんなら、最初に気づいとけばよかったんだ。今更言ったって遅いぞ」

 コルーパがすました顔で言った。そして、部屋を出て行こうとする。

「ドアを開けてくれないか?」

 僕は奴の後ろ足を掴んだ。

「でも、チャーハンの材料を食べたのはルール違反だ。男なら男らしく、堂々と勝負しろ」

 奴は僕の手を振り払うと、「そいつは悪かった。でも、賭けは俺の勝ちだ」とこれまたすました顔で言った。

「そろそろ、スパゲッティができる頃だろう。天馬は昼食を食べないのかい?だったら俺がもらっておくから心配するな」

「ふざけんな!」

 僕は思わず声を荒げた。そして、キッチンに行き、コルーパに取られないようにスパゲッティを早くたいらげ、二階の僕の部屋に戻った。僕がふてくされて部屋の中央で寝転んでいると、コルーパがとことことやって来た。

「さっきは悪かった。俺もちょっとルール違反だと思ったがこうするしか無かった」

 コルーパが頭を下げる。

「つまり、俺は時が止まったときの事を覚えている。だからといって、時が止まる前の質問や、時が止まったとき俺が何をしていたかは話す事はできない。すまない。これだけは勘弁してくれ。そのうちにちゃんと話す」

「絶対だな」僕は上を向いたまま言う。すると、奴は、ああ絶対だ。と断言した。僕はそれを聞いて起き上がった。そして、コルーパの正面にあぐらをかいて座った。

「そこでだ。俺からも質問したい事がある」コルーパが言った。「どうして、天馬は俺が喋るのも、突然このうちに現れたのも平然と受け止められるんだ?本当だったら、この俺を家に入れないだろう?今までの奴らはみんなそうだったけど。俺も、それくらいは覚悟していた。なあ、どうしてなんだ。教えてくれ」

 僕は言おうかどうか迷った。なんせ、この事はお母さんやお父さんにも話した事が無い。それに、コルーパが信じてくれるかどうか……でも、僕は決心して言った。

「おじいちゃんなんだ……」

 僕も自分で何を言おうとしているのか。うまく舌が回らない。

 案の定、奴は「へ?」と間抜けな声を上げた。

「だから――喋る犬の存在をおじいちゃんが僕に話して聞かせてくれたんだ。『わしは喋る犬なる物にであった事がある。でな、わしはその犬と一ヶ月間一緒に暮らしたんじゃよ』ってね。もちろん、そのときは全然信じてなかったよ。でも、いざ喋る犬が目の前に現れるとなると……」

「退いたりしなかったか?」コルーパが口を挟んだ。「つまり、俺が最初に喋ったとき――ほら、この家の玄関でさ。そのときに、天馬は退いたりしなかったか?」

 妙な事を聞く奴だ。でも、本当の事を話した方がいいだろう。

「うんとね……。ドン引きだったよ。びびっちゃって、足が動かなくて。で、そのときにおじいちゃんが言ってた事を思い出したんだ。だから、それほど驚かなかったんだ」

 コルーパは、ふーんと言ったきりそれ以上は何も言わなかった。

 そのとき、僕はおじいちゃんが話してくれたときの事を思い出していた。あれは、僕が小学三年生のときだった。今でも鮮明に覚えている。


 僕が静岡のおじいちゃんの家に行ったときの事だ。僕はあまり静岡のおじいちゃんのところに行った事が無かった。だから、そのときにおじいちゃんの家を探検した。二階の書斎に入ると、どこららともなく、おじいちゃんが来た。一体どこから来たのだろうと考えているうちに、おじいちゃんは指を一本立てて言った。

「いいかい、天馬。面白い話を聞かせてあげるから、もう二度とこの部屋には入らないでおくれ。いいかい?」

 いつも年を感じさせないほど、元気なおじいちゃん。その声はいつもより少し慌てているような、そんな声だった。

 僕はそんなおじいちゃんの顔を見て、元気に「うん!」と言ったのを覚えている。

 今更になって思う。一体、おじいちゃんは何を隠そうとしていたのか。何故必死になって僕を止める必要があったのか。その頃の僕の知恵のなさに悲しく思う。肝心の面白い話はそれからしばらく立ってからだった。

 おじいちゃんはその事を忘れていたようで、僕が「ねえ、面白い話って何?」と聞いたところでようやく思い出したようだった。話したくなかったのか、本気で忘れていたのか。どっちだろう?そのとき僕は思った。

 おじいちゃんは特等席の大きな椅子に座ると、しわだらけの手で僕の頭を撫でた。そして、ようやく話し始めた。

「いいかい、今から話すよ。面白い話ってのはね。喋る犬の事なんだ。信じられるかい?おじいちゃんは喋る犬に出会った事がある。そして、一ヶ月間一緒に過ごしたんだ」

 おじいちゃんの話し方はゆっくりで、聞いているこっちがうっかり眠ってしまいそうだった。さすがの僕も、もう、小学三年生だ。そのぐらいの知恵はついている。だから僕は嫌らしく言ってやった。

「おじいちゃん、喋る犬なんて嘘だよ。この世にはそんな物存在しないよ。そんな嘘の話をされても困るなあ」

「おやおやそう思うかい?」おじいちゃんがすぐに言う。「子供は夢を持たなきゃいけないよ。それに、嘘なんかじゃない。おじいちゃんの言う事が信じられないかい?」

 僕は頷いた。「だって、みんなそんな話はもうしないよ。もう三年生だもん。嘘かどうかすぐ分かるよ。だいたい、犬は人の言葉を喋れないよ。犬の骨格では無理なんだ」

 おじいちゃんは眉間にしわを寄せて、ぬっと顔を僕に近づけた。

「じゃあ、嘘だと思っていい。とにかく聞いてくれ。天馬もわかる日が来る」

 その言葉に僕は黙った。おじいちゃんの気迫に押されたからじゃない。確かにそれもあるけど、僕はまだその言葉の意味を理解する事ができなかったんだ。僕は真剣に語るおじいちゃんの顔をまじまじと見ながら、半信半疑でおじいちゃんの話を聞いていた。

「あれは七月三十一日の雨の日だった。道ばたにな、箱がおいてあってその中に子犬がいたんだよ。犬種はわからなかったけれども、寒そうに震えていた。だから、おじいちゃんは持っていた傘を立てかけて、タオルで子犬の体を拭いてやったんだ。

 次の日は晴れでな。おじいちゃんは傘とタオルを取りに行ったんだ。そしたら、子犬はいなくて、傘とタオルだけがあった。さて、どうしたものかと思って家に帰ってみると、玄関口に子犬が一匹座っていた。その子犬は昨日の子犬でな、通じないとわかってても『どうしたんだ?』と声をかけてやったのさ。すると、『これから一ヶ月間お世話になるよ。よろしくね』と喋ったんだ。なあ、不思議だろう?」

 それから先は思い出せない。でも、確か僕はおじいちゃんにひどい事を言った。それで、おじいちゃんがひどく悲しい顔をしていたのを覚えてる。


「おい、天馬。お前のおじいちゃんなんて言う名前なんだ?」

 コルーパの声で現実に引き戻された。

「なあ、なんて名前だ?」

「うーんとね……確か、空野天夢だったよ」僕が言うと、コルーパは首を傾げた。

「テンム……?それって、どう書くんだ?漢字だよ」

 ――相変わらず偉そうな口調だ。僕は犬のくせに、と心の中で呟いた。

「お前、犬だろ。漢字とかわかるのか?わかんないのに教えたって意味ないじゃないか」

 すると、すぐに奴は反論した。

「俺は喋れるだろ?だから、字も読めるんだ。漢字もわかるし、書く事だってできる」

 よくわからない説明だ。喋れるから漢字も読めるし、書けるなんて――無茶苦茶だろ、それ。ちょっとおかしいぞ。でも、優しい僕は、おじいちゃんの名前の漢字を教えてやる事にした。

「天気の天に夢の夢。分かったか?」

 僕が言うと、コルーパは分かったとこっくり頷くと、それっきり何も言ってこなかった。??本当に分かったんだろうか?


読んでいただいてありがとうございます。

徐々に続きを載せていきます。

 

現在、2nd(よりよい表現に推敲しております)を執筆中です。



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