初めての会議と反政府軍 ②
ズルズルという音とともに、『彼』は本来の姿を現した。肌の白い老人。振り返ると、目が青かった。目自体が、というべきか。僕が以前、二回もあった少年。彼と同類の『人』が目の前にいた。これが、サイザンフ星人の最高指導者、バンバルジ首相との最初の出会いだった。
「どうかしましたか?」
首相が驚いている僕に尋ねてきた。「いっいえ、別に」僕はしどろもどろで答えた。首相はにっこりと微笑むと、「では」と言って懐から丸い機械を取り出した。そして、大きな赤いボタンを押すと、鋭いキー!という音とともに五人のサイザンフ星人が現れた。首相が手で示す。
「まずは面通しということで。私はサイザンフ星人最高指導者バンバルジです。彼らを紹介しましょう。サイザンフ使節団の者達です。大抵の場合、私は彼らに言伝を言い渡し、あなた――天馬さんに会いに来て私の言伝を言います。例えば、次の会議の予定日ですね。他にも、いろんな面でも彼らはあなたをサポートしてくれることでしょう」首相はここで言葉を切った。「何か質問は?」
そう聞かれて僕は、そおっと手を上げた。
「あの……。質問とかじゃないんですけど、僕、いっぺん会ってるんですよね。その、首相ではなく、サイザンフ星人に。あなた方と同じように白い肌、真っ青な目をした少年に」
「少年?」首相が覗き込むようにして聞き返してきた。「サイザンフの少年が地球に?それは、何かの間違いでは……」
「――どうやら」コルーパが首相の言葉を遮って言う。「今日は面通しだけでは、すまなさそうです」
しばらく、沈黙が流れた。なんかいけないことを言っちゃったかな?と思いつつ、僕は俯いた。ふと、顔を上げると、首相は眉間にしわを寄せている。使節団も同じように。普段なら笑っちゃうような絵を見ている感じだけど、空気の重さが違う。なんだか、爆弾のスイッチを押してしまったみたいだ。
「……ということは」首相がようやく口を開く。「やはり、『彼ら』が地球に来ていたわけですな?」
コルーパが重々しく頷く。コルーパはいつになく真剣だ。それにしても、『彼ら』って誰だ?僕がそう思ってると、首相が心を読んだように僕の方をちら、と見ると話し始めた。
「ここは、やはり言っておいたほうがいいでしょうな。『彼ら』とは、反政府軍のことです。反政府軍は我々のやり方に不満を持ってます。何しろ、宇宙外交について何も知らない地球と我がサイザンフ星を除くと、そのほとんどが軍事に特化しています。地球は資源も豊富であり、生き物が住みやすい、宇宙には滅多にない軍事拠点になる星です。そして、他の星から程よい距離にあるため、交易拠点にした星は有利な状況に立つことができるわけです。友好的に外交をしているサイザンフ星に不満を持つものが出てきてもおかしくありません。しかし、我が星は民主制なのです。軍隊を持っていることは持っていますが、それでは太刀打ちができないのです。だからといって、独裁制に変えることは容易にできないでしょう。あなたがたを巻き込むことになってしまうからです」ここで、いったん話を止めた。首相は深く息を吸うと、続けた。「反政府軍が地球を取れば、独裁政治が成立してしまう。我が星も壊滅的な打撃を受けることになります。反政府軍および、他の軍事に特化した星は、地球をずっと狙っていました。それを、守ってきたのが我々と……宇宙外交官なのです」
そういうことか……。僕の中の疑問が、ようやくつながり始めた。あの少年が地球に来たのは、いわば『下見』だった。それ以上の目的はなかった。反政府軍と軍事に特化している星は、僕たちの星を侵略しようとしている――!
今の話を聞いて、僕はようやく宇宙外交官の重大さ、今起きていることの重大さが理解できたようだ。コルーパは僕の顔を見て頷いた。勝手に心を読んだようだ。
でも、気になることがひとつあった。それは、自分の中で納得していたはずのコルーパの正体だった。彼は、宇宙人。間違ってないと思う。しかし、僕が宇宙外交官だといった。反政府軍のことも知っている。なにより、サイザンフ星の最高指導者と知り合い。どういうことだ?僕はコルーパの心を読もうとしたがだめだった。がっちりと、心の扉を閉めてしまっている。そうなると、次は首相だった。心を読もうと集中すると、首相がこちらを向いた。
「人の心を勝手にのぞいちゃだめですよ」
え?なんで分かったんだ?……よく考えてみれば、彼は宇宙人だ。もう一度首相の心に入り込もうとすると、扉を閉めてしまった。そして、口を開いた。
「これで、分かっていただけたでしょうか?……と、言っても天馬さんはまだまだ知りたいことがあるようですが?」
首相は僕が言うように促した。
「ええと、いいですか?コルーパのことなんですが。彼は一体なんなんです?」
聞き方を間違えたと思ったときには首相はクククと笑っていた。『なんなんです?』じゃ、物扱いだ。が、首相は気にせず答えてくれる。
「彼は副官ですよ。宇宙外交官の副官」
僕は唖然としていた。そういうことだったのか。つまりは、この間の出来事はすべて彼が仕切っていた、ということだ。なぜ、コルーパが首相のことを知っていたのか。宇宙外交官が何なのかを知っているのかが分かった。
「それで?」僕は首相に聞いた。「反政府軍に対して僕たちは今何をすればいいんです?」
「条約を練り直すか、侵略に備えるか。しかし、天馬さんは奴に一度会っていると、コルーパから事前報告を受けています」
「奴?」僕は真っ先に聞いた。
「天馬さんが二度会ったという、サイザンフの少年です。いや、少年ではないのですが……」僕は首相の言い方が気になった。「今、妙な動きをすれば真っ先に狙われるのは天馬さんです。彼らの居場所が分かった今、うかつに動くことはできなくなったわけです」
それを聞いたとき、少し風が吹いて、ちりんと鳴った。それが合図のように、僕は急に汗が噴き出てきた。どうやら、驚きの連続で今が夏だということを忘れてしまっていたようだ。僕はそばにあったタオルで汗を拭くと、聞いた。
「少年ではないって、どういうことなんですか?」
首相は横にいた使節団の人たちと、ひそひそはなし、コルーパと目を合わせると、軽く頷き、僕の質問に答えた。
「奴は、サイザンフ星人の中でも特別な存在でして、将来有望なサイザンフ星人でした。奴は姿を変えることができます。何にでも。犬でも、猫でも、人間にも。今、この使節団の中にいるかもしれません。誰も信用できない状態なのです」
「あなた達は――信用に値する人物であると?」
「そう思っていただければ結構です。しかし、奴らがこの地球に来ているということを念頭においておかないと、いつ、どんな攻撃を仕掛けて来るのか、細心の注意を払わなくては」
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現在、2nd(よりよい表現に推敲しております)を執筆中です。