宇宙外交官とコルーパの正体 ⑦
「なあ、どうすればいい?」
僕は二メートルほど前で正座をしている竜介に気づかれぬように、小声でコルーパに聞く。竜介もこっちをじっと見ているから、なるべく口を動かさないように正面を向いて話さなければならない。これが、なかなか難しい。
「こういうときに、石の力を使ってみるんだ。練習だと思って、彼に『あなたは何も聞いていない。何も知らない』と暗示をかけるようにして言うんだ。ポイントは相手の目から視線を離さない事。それと、体の中にある意志の力を感じること」
そんなんで、誤魔化す事ができればこんな苦労はしないよ、と思いつつ。竜介の目をまっすぐ見据える。
「それで、この犬が喋るのかな?」
竜介が尋問するかのように聞いてくる。口調はやさしいんだけど、目が笑っていない。まったく身動き一つとれない状態だ。これじゃ、早く暗示にかけないと――。
僕はコルーパに言われたとおり、石が手の中に入ったときの感覚を思い浮かべる。
「あなたは何も聞いていない。何も知らない」
すると、竜介は目がうつろになると、しばらくボーとしていた。僕は恐る恐る声をかける。「竜介?」すると、はっと我に返ったように目をぱちくりさせると、驚いた様子で周りをクルクルと見回した。
「あれっ?俺はどうしてここにいるんだ?」
竜介はそう言いながら階段を下りていく。そして、ドアを開けると、「お邪魔したな天馬」と言って行ってしまった。
僕は静かに部屋に戻ると、コルーパを抱き上げた。
「いやあ、こんなにもうまくいくとは思わなかったよ!」
「ああ、分かったから降ろしてくれ」
僕はコルーパを降ろすと、今にも踊りだしそうな気持ちを抑えて座りこんだ。まだ、興奮状態だ。半信半疑でやってみたのに、まるで台本通りのようにうまくことがすんだ。こんなことがあってもいいのか。
「うまくいっただろ。俺を信じてくれればいい。必ずとは言わないけれど、ほとんどが問題なしで、通るものばかりだ」
僕は、「ああ、そうだけど……」と、あまり安心できない。まだ、野崎の一件が僕の中で居座っていて、うかうかしてられない。
「いつまでも心配してたって、埒が明かない。ここは行動を起こすべきだと思う。それは、明日の会議であり、次の会議であり、野崎さんのことでもある。だから、その前にすべきことは――」
「何だ?」僕が聞くと、コルーパはにやりと笑って、
「君にとって今すべきことは、とにかく寝ることさ」
そうだな。今回はコルーパの意見に賛成だ。ここは、休憩を取って次なる挑戦に挑むとしよう。僕は、深く頷いて、コルーパに部屋を出て行ってもらう。べっちに横たわり、目をつぶる。
これでいいのか?これでよかったのか?僕は宇宙外交官になってよかったのか?僕は、いつも、余計なことばかり考えてしまう。でも、今回ばかりは余計なことは考えないようにしよう。――僕は、これでいいんだ。僕は宇宙外交官だ。
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