宇宙外交官とコルーパの正体 ⑥
「そういえば、聞き忘れていたけど、君は本当に俺が宇宙人だと思っているのかい?」
僕の部屋で、コルーパが睨みつけるようにして言う。だけど、僕はそれどころじゃない。野崎に、コルーパが喋っているところを見られてしまった。あれで、うまく誤魔化せられたのかどうかはわからないけど、あれは痛手だった。
コルーパが、なあ、どうなんだよとしつこいので、まったく聞いていなかった僕は、うん、まあなと適当に言葉を濁す。それがわかったのか、コルーパの視線がやさしくなる。そして、僕の顔を覗く。
「天馬はあの子が気になってるみたいだね。さっきの君の説明もずいぶんと詳しかった。それを踏まえると、君は彼女を良く見ている。それに、話している間、君はあの子から視線をはずさなかっただろう?」
「違う。視線をはずさなかったんじゃなくて、はずせなかったんだ。それに、クラスの中でも、僕は情報通なんだ。あれくらいのことは当然だ」
僕がそういうと、コルーパはそっぽを向いて「つまんね」と吐き捨てるように言った。僕もそっぽを向いて、どうせつまんないですよ!と心の中で叫ぶ。「ふん!」僕はコルーパによーく聞こえるように言う。
しばらくの沈黙の後、コルーパが思い出したように、あ!と声を上げた。何を思い出したかは見当がついている。
「コルーパは、犬の癖に人間の言葉を喋るだろ。それに、あそこに行くまでの間にあった方位磁石。コルーパが方位磁石は宇宙の者だって言ってただろ。だから、ピーンときたんだ。コルーパは宇宙人じゃないかってね」
僕がそういうと、別に驚いた様子もなく、僕に聞いてきた。
「天馬は俺が宇宙人だってことが、真理だとは思わなかったのかい?」
「思わないね。コルーパはあれはテストだって言っていた。世界を崩壊に導くようなことをわざわざ問題にするわけがないだろ?前に、僕は真理に一つ触れてるって言ってたけど、あれは嘘だろ。宇宙外交官を困惑させてテストの答え方を難しくする。僕と僕のおじいちゃん以外、宇宙人だって答えた人はいなかったんじゃないかな。でも、いちいち不合格にしていたら、会議などに間に合わない。だから、仕方なしに合格にしていた。これは僕の憶測だけど、答え方によって会議などの内容が変わってくるんじゃないかな。よりいい答え方を出した人には、より高度な中身をその人の頭に叩き込まなければならない。もちろん、悪い答え方をした人も、会議をやらなければならない。そうしないと、どんどん遅れが出てくるからね」
コルーパはしばらくボーっと聞いていたけれど、僕が顔を覗いたら我に帰ったように、僕と視線を合わせた。
「いやあ、お見事お見事。言うことなしだよ。まさかそこまでわかっているとはね。驚きだよ。君のおじいさんもそうだった」
驚きだよって言っているわりには、あまり驚きの表情を見せない。ということは、おじいちゃんもこのぐらいのことは言い当てたのだろう。それよりも、僕はおじいちゃんのところに行きたい。この犬が、おじいちゃんの言っていた喋る犬なのかどうか確かめたい。
「コルーパ、僕は明日、おじいちゃんの所に行く。いいよな」
僕が確かめるようにして言うと、コルーパは首を振った。
「だめだ。明日は『宇宙友好的条約兼会合出席義務条約改正委員会』があるって言っただろう。覚えてなかったのか?――ああ、これから先が思いやられる」
まったく一言多い奴だ。これから先が思いやられるのはこっちだって!――ああ、会話をしていると、いらいらしてくる。
「それで?その『宇宙友好的条約兼会合出席義務条約改正委員会』ってのはどういう会議なんだ?」
僕が聞くと、コルーパが頷いて話し始める。
「『宇宙友好的条約兼会合出席義務条約改正委員会』っての言うのは、ややこしい名前がついているけど、基本的に新しい宇宙外交官と首相、そして、首相と一緒に来るサイザンフ使節団の面通しということになっている。使節団は首相と一緒に来るか、または重要な用件の確認をしたり、新しい予定の通達をしにくる」
ここまではいいかい、とでも聞くかのように僕を見るコルーパ。僕は頷く。すると、コルーパはまた話し始める。
「『宇宙友好的条約』は、地球とサイザンフ星が友達にあたる関係にありますよ、ということを確認し、その関係を結ぶための条件を確認しあうんだ」
「条件って?」
僕が聞くと、コルーパは睨んできたけれど、ゆっくり教えてくれる。
「条件っていうのは、例えば君のおじいさんが結んだ条件は、サイザンフ星人は地球に許可なく降り立つことを禁ずる。しかし、地球人とサイザンフ星人は互いに助け合わなくてはならない。――つまり、サイザンフ星人は勝手に地球に着ちゃいけないけど、サイザンフ星がピンチのとき、または地球がピンチのときはお互いに助けなくてはならない、ということだ。それで、さっきの話に戻るけど、「会合出席義務条約改正委員会』は首相と、地球人が必ず会合に出なくてはならないという条約の見直し、または改正を行う。今はサイザンフ星が有利なほうに傾いているけれどね。説明すると、ざっとこんなものだ」
僕は唖然としていた。ものすごい宇宙規模の問題だ。宇宙外交官って名前を背負うにはこんなにプレッシャーがかかるものなのか。僕の言動一つ一つに地球の命運がかかってくる。とんだ仕事を引き受けてしまったと、僕は今更ながら後悔した。僕は震える声で言う。
「わかったよ。明日はおじいちゃんの所には行かないよ。でも、その会議はいったいどこでやるんだ?場所がわからなくちゃだめだろ」
「それは、言わなくてもいいと思ったんだけどな。――会議はこの家の二階のこの部屋でやるに決まってるだろう」
この部屋って……。僕の部屋?まさか、勘弁してよ。
……ん?待てよ。宇宙人が来るんだったら、だいぶまずいことになる。なんったって宇宙人だ。お母さんが見たら気絶しちゃうよ。
コルーパに言うと、頷く。
「心配なのはわかるけれど、ぜんぜん大丈夫。サイザンフ星人は、地球人に似ているし、ちゃんと地球人に変身して、君の友達のように平然とやってくるから安心して」
友達のように、平然とやってくるから安心してって言われてもなあ。そうすると、こっちがびっくりして気絶してしまう。ましてや、知らない人が知り合いのようにやってくるだなんて……。これは、相当覚悟しておいたほうがいいな。
すると、僕の心の声が聞こえていたかのように、コルーパがやさしく慰めるようにしていった。
「うん。覚悟は必要だろうね。けれど、そんなに凝り固まる必要はないと思うんだ。誰だって、はじめはみんな同じさ」
コルーパの癖に、なかなかいいことを言うじゃないか。固まっていた筋肉が揉み解されていく感じが全身を駆け巡る。僕は肩の力を抜いて、ふうと大きく息を吐きだす。
しばらくの沈黙の後、家のドアチャイムがピンポーンと響いた。僕は部屋にコルーパを閉じ込め、階段を駆け下りる。ドアを開けるとそこには、クラスメイトの尾方竜介がいた。竜介はクラスの中でも、体が大きく責任感があり、クラスの中でも兄貴的な存在感がある。そのため、男女問わずに人気がある。
彼は何だか面白そうな顔をしていた。「よお」と言うなり、上がらしてもらうよといいながら、僕の部屋に向かっていった。
「いや、そこはちょっとやめろよ」
「何か見られてはまずいものでもあるのかい?」
「いや、別にないけれど……」
だったらいいよな、と階段を上りだす竜介。コルーパを見られてはまずい。僕は竜介にくっつくようにして階段を上る。突然、竜介が階段の途中で立ち止まった。僕は竜介の背中にぶつかって、階段をクルクルと転げ落ちてしまった。
「痛いな……。急に立ち止まるなよ、竜介」
僕は階段の角でぶつけた頭をなでながら言う。ふと、竜介を見ると僕を睨むようにして見ている。――あれ?僕にぶつかられたのがそんなに嫌だったのかな?僕が誤ろうとして、口を開きかけると、竜介の目が急に優しくなる。
「――そういえば、さっき野崎と何か話していたよな」
見られていたのか……。でも、会話までは聞かれてはないだろう。僕は安心して返事をする。
「うん。話していたけれど、何かあった?」
「うん、そうだねえ。聞きたいことは野崎と一緒でたくさんあるんだけどな。喋る犬について。何も、親友に隠し事は必要ないよな」
その言葉に僕は固まってしまった。竜介にもばれてしまったのか。「なっ!」といってくる竜介に、ただ僕は頷くことしかできなかった。
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