エピローグ 贖罪とは
贖罪って何なんだろう。
最近、毎日のようにそんなことを考えている。
どうして俺が、こんな思いをしなきゃいけないんだ。
俺は何もしていないのに。
……そう思ってしまう自分が、嫌いだ。
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中学生の頃だった。
クラスに、いじめられている女子がいた。
正直、何も思わなかった。
みんなが集まって彼女をからかって、周りの奴らも笑っている。
俺は別に、面白くもなかった。
というより、何もかもがどうでもよかった。
周りがどうだろうと。
彼女がどうなろうと。
ただ、俺はよく彼女の面倒を押し付けられていた。
みんなが嫌がるから。
俺も別に断らなかった。
早く終わらせて、早く帰りたかっただけだ。
そんな毎日だった。
彼女は、毎日俺に話しかけてきた。
俺は、感情のない返事をするだけ。
それだけだった。
でも、いつからか――
それが少しだけ、うるさく感じるようになっていた。
俺の静かな時間に、雑音が増えたような気がして。
周りの声も、だんだん増えていった。
「あのキモ女と付き合ってんのかよ」
「あそこだけ場違いだよな」
「あいつもヤバいやつなんだよ」
……だるいな。
うるさい。
お前のせいで、俺の平穏が崩れるじゃねぇか。
気づけば俺も、彼女を無視するようになっていた。
それから少しして、彼女は転校した。
ようやく平穏が戻る。
そう思った。
でも――戻らなかった。
次は、俺だった。
……当たり前だ。
あいつがいなくなれば、浮くのは俺なんだから。
なんで俺が。
あいつのせいだろ。
その時の俺は、本気でそう思っていた。
俺は何もしてないだろって。
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それから時間が過ぎた。
俺は、人を観察するようになった。
……いや、違う。
観察なんかじゃない。
あいつも。
あいつも。
あいつも。
みんな俺のことをバカにして、悪口を言っているんじゃないか。
そう思ってしまう。
誰かが笑っていると、
それが全部、自分に向けられている気がする。
中学を卒業して、
あの頃の奴らがいなくなっても――
それは消えなかった。
俺は考える。
俺はどうすればよかったんだ。
あいつらと一緒に、彼女をいじめればよかったのか?
そうすれば、俺はいじめられなかった。
おかしくならずに済んだ。
でも。
あの苦しさを、彼女はずっと味わっていた。
俺はそれを見ていたのに、
ただ適当に返事をして、適当に相手をして。
そして自分が何か言われ始めたら――
無視した。
きっと彼女の中で、
救いだったものが、裏切りに変わったんだろう。
恨まれているかもしれない。
もし、俺が彼女に関心を持っていたら。
もし、ちゃんと理解しようとしていたら。
俺は、一人にならなかったんじゃないか。
そう思うようになった。
俺が一人になったのは、
自分のせいなんだって。
結局、俺はあいつらと変わらなかった。
俺も、いじめていたんだ。
自分ではそう思っていなくても。
きっと、そうだったんだ。
彼女は――
今、何をしているんだろう。
俺のことを、どう思っているんだろう。
答えが欲しかった。
でも。
それって結局、自分勝手だよな。
ただの自己満足だ。
……そんなこと、分かってる。
でも、そうでもしないと
心が壊れてしまいそうだった。
だから俺は、彼女を探すことにした。
でも手掛かりはなかった。
当然だ。
みんな彼女をいじめていた。
いじめていた相手の連絡先なんて、
誰も知るわけがない。
そもそも――
俺は人と、まともに話せない。
もし会えたとしても、
彼女が俺と話したいと思うはずがない。
今日も俺は、下を向いて帰る。
前は向けない。
怖いから。
俺は、誰もいない静かな場所が好きだ。
でも。
何もない空間は嫌いだ。
この違い、みんな分からないだろうな。
……分かってたまるかよ。
そんなことを考えていた時だった。
足が何かに引っかかり、
俺は前につんのめった。
そのまま、地面に顔からぶつかる。
抵抗はできなかった。
する気力もなかった。
きっと周りの人に見られた。
どうせ、笑ってるんだろ。
笑えばいい。
そう思って拳を握りしめた時――
声が聞こえた。
「大丈夫?」
俺は返事をしなかった。
どうせ笑うんだろ。
返事をしたら。
すると、もう一度声がした。
少しだけ、震えた声だった。
「久しぶりだね……元気だった?」
そして。
「リューくん。」
聞き覚えのある声だった。
俺は――
怖くて、立ち上がれなかった。




