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病で死んだら時間が巻き戻ったので、王女殿下ばかりを優先する婚約者を詰問することにした  作者: 日向 風花


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7/15

最愛の婚約者と大切な家族を奪われたので、世界をやり直すことにした

 ローラン家の家宝の一つに、「並行世界の水鏡」と呼ばれる魔道具がある。


時戻しの魔法を使った者が見た未来を映し出す魔女マグノリアの傑作で、かつての魔王との戦いにも活用された。


過去に戻ったトリスタンは、この魔道具を使ってこれから起こることをローラン公爵や父であるリシャール伯爵へ訴えた。


「トリスタン、よくぞ娘のために戻ってきてくれた。君の献身に感謝を」


「王女殿下がクロエお嬢様を見殺しにするとは……もはやあの姫は我が家の恩人に非ず!」


「そうだとも、伯爵。我が一族は王妃と王女を決して許さぬ」


未来を知った父親たちのレオノールへの怒りは凄まじいものだった。


その日のうちに親族へ招集がかかり、王妃と王女への徹底抗戦を呼びかけた。


同時に国王や王太子にも協力を要請し、二人ともこれを了承。


リケッツアと連絡する暇を与えず王妃とレオノール王女を拘束、幽閉した。


あとは冬の初めごろ、クロエの鉱血病をレオノールに治療させれば一件落着だ。


誰もがそう考えて気を緩めていた秋のこと。


クロエが死んだ。


公爵家の研究室で、何者かに殺害されたのだ。




 思いがけないタイミングで自分の死を知らされて、クロエは息をのんだ。


恐怖はあったけれど今は震えている場合ではないと自分を律し、トリスタンに尋ねる。


「いったい誰が、なぜ?どうやって?」


公爵家では秘匿性の高い研究も扱うためクロエが一人きりになることはあるが、そのぶん研究室の警備は厳重だ。


クロエ自身も魔法戦闘に長けており、そこらの狼藉者に後れはとらない。


「今俺が保持している記憶の範囲ではわかりません。けれど、推測はできます」


「……リケッツアの諜報暗殺部隊か」


クロエが口にしたのは王妃の故国の特殊部隊だった。


リケッツア通商連合国は、国土としてはごく小さな都市国家である。


そのため他国より圧倒的に人口が少なく、軍隊も国内治安維持の警察程度といった規模だ。


ならばいかにして国家を安堵してきたのかといえば、大陸中に情報網を巡らせる諜報機関と、公式には存在を否定されている暗殺部隊の暗躍による。


その気になれば軍に守られた王の首すら狩るという玄人の暗殺者に狙われたのだとしたら、さすがのクロエも太刀打ちできなかっただろう。


「公爵閣下も同じようにお考えになりました」


クロエの推測に頷き、トリスタンは続きを話した。




 クロエの二度目の死を知った時、トリスタンは彼女を守れなかった自分のふがいなさに荒れ狂った。


「もう一度、時を戻します!どうか魔道具の使用許可を!!!」


半狂乱で訴える娘の婚約者に、ローラン公爵は首を横に振った。


「冷静になりなさい、トリスタン。なぜこのようなことになったのかわからないまま戻れば、同じことを繰り返すだけだ。まずは王妃の尻尾を掴まねば」


公爵とて娘を失った怒りと悲しみで心中穏やかではいられないだろうに、論理を重んじる魔術師の長らしく合理性を説いた。


「それに、時戻しの魔法なら私が使おう。二度も禁術の代償を支払っては、君が無事でいられるかわからないからね。私の魔力でも半年くらいなら戻れるはずだ」


ローラン一族は総力を挙げてクロエの死の究明に取り掛かったが、調査もままならぬうちに事態は激動を見せた。


クロエの死から間を置かず、今度は国王が暗殺者の凶刃に倒れたのだ。


同時に王太子には毒が盛られ、意識不明の重体。


この緊急事態に、親リケッツア派の臣下たちは王妃とレオノール王女を幽閉先から救出した。


「あぁ、なんとお労しい国王陛下!そしてわたくしのかわいそうな王子!娘が死んだことを逆恨みしたローラン公爵のせいに違いありません!」


幽閉を解かれた王妃は堂々と公爵を誹謗した。


言いがかりも甚だしかったが、やつれた美女が涙ながらに夫の遺体や瀕死の息子に縋りつく様は、何も知らない者には大いに同情を誘った。


公爵が王妃や王女への徹底抗戦を一族へ呼びかけていたことも信憑性を高めてしまった。


いつの間にか事実は王妃の妄言にすり替わり、公爵は国王暗殺および王太子毒殺未遂の大罪人とされた。


「あの毒婦も、息子の命までは奪うまい。王太子殿下さえお目覚めになれば私の嫌疑も晴れるはずだ。どうかそれまで、時間稼ぎを頼む」


出頭を命じられた公爵は、主だった家臣らに言い残して城に向かった。


そして、魔法卿ともあろう人が取り調べも裁判も受けられず、弁明の機会を与えられないまま即刻処刑された。


後継者と当主を立て続けに失ったローラン家とその親類縁者は、逆賊の汚名を着せられ粛清されることになる。


公爵夫人が刑に処されたのを皮切りに、先見の魔女マグノリアの血族は次々と捕えられ、惨たらしく殺されていった。




 両親の死と一族虐殺を聞いたクロエは、思わず「嘘だ」と呟いていた。


「私たち一族の大人はみな、熟練の魔術師だぞ……?宮廷魔術師を相手にしたって、簡単に殺されるはずがない!」


「多勢に無勢だったのです、クロエ様。王妃は、統帥権を持つ王太子殿下の意識不明を理由にマグノリア国内へ他国の軍を手引きしました」


「リケッツア軍を?多勢に無勢というが、あの国の軍隊は数の上ではそこまで脅威ではないだろう?」


「いいえ。あの毒婦がマグノリアに引き入れたのは、レガリア軍です」


突然出てきた第三国の名前に、クロエは驚愕した。


レガリア騎士王国。それは隣国スノーレイクを挟んだ大陸西部の軍事大国だ。


かつての大陸統一帝国が前身となっているため高圧的で、よその国からはおおむね嫌われているが、特にマグノリアとは犬猿の仲だ。


武力と伝統を重んじるレガリアと、魔法と技術革新を至高とするマグノリア。


まず国柄からしてそりが合わないし、国を興した初代同士も勇者と聖女が間を取り持たねば喧嘩が絶えなかったといわれている。


「レガリア国軍ならマグノリア侵略の名目ができれば喜んでやって来るだろうけれど、どうやって?」


地理的にレガリアがマグノリアに攻め入るにはスノーレイク国内を通過しなければならない。


しかし、苛烈な性格だと噂のスノーレイク女王ヴィクトリアがそんなことを許すのだろうか。


「転移の魔法なら可能です」


「!」


「クロエ様が……殺された、とき。転移の魔法陣に関する論文が、奪われていました」


「私たちの研究成果が、外敵を招き入れたというのか?」


二人が開発した本来の転移の魔法は、移動できる場所や距離を厳格に制限する予定だった。


論文を奪った何者かは、研究途中でまだ不十分だったその制限を除去してレガリア軍を送り込むのに使ったのだ。


「だが、転移の魔法には膨大な魔力が必要だ。軍隊を送り付けるほどの魔力なんて、魔法に疎いレガリアに用意できるわけがない」


「俺も、そう思っていました。けど、あの、外道ども……!殺した公爵ご一家の、遺体を、利用したのです」


激情をこらえるようにトリスタンが拳を握った。


クロエたちが開発した転移の魔法は設備と魔力があれば誰でも使えるように調整したものだが、大本はマグノリアの血統魔法だ。


直系の血族の心臓や血液は、効率の良い触媒になったことだろう。


両親や自分の亡骸で作られた魔法陣からレガリアの兵があふれる様子を思い浮かべ、クロエは吐き気がした。


「皆、勇敢に戦いましたが、血族は次々に殺されるか捕らえられました。両親も兄夫婦もレガリア兵に殺されて、でも、戦って死ねるなら、まだましだった」


惨状を語るトリスタンの声は、怖気が走るほど平坦だ。


「俺とミラは捕まって、あいつら、小さなミラや親族の幼子まで、血を搾り取って城壁に吊るした……!」


「そんな……」


暗く沈んだトリスタンの目は、もはやクロエを映していない。


「俺は、レオノール王女の『お気に入り』だったので。生かされて、その様子をずっと見ていました」


クロエは知っている。トリスタンが年の離れた妹をどんなにかわいがっていたか。すべて話せ、などと言ったことを初めて後悔した。


「トリスタン……ごめんなさい、もういいんだ、それ以上思い出さないで」


自分自身を傷つけるみたいに話すトリスタンへ、けれどもクロエの声は届かない。


「ミラが殺された時、俺の良心も一緒に消え失せたのです」


――ちぃ兄さま助けて、痛いよ、痛いよぉ!!!


泣き叫ぶ妹の声や親戚の子供たちの断末魔が脳裏にこだまする中、トリスタンは自分の血で牢の壁や床に転移の魔法陣を描いた。


体は衰弱し精神もとっくに狂っていたけれど、トリスタンの魔術師としての才覚が魔法を成功させた。


「あいつらがレガリア軍を呼び出したように、俺も奴らを破滅させる何かを呼びたかった。そう考えていたら、魔法は魔の森の奥地につながったようでした」


魔の森とは、勇者が魔王に聖剣を打ち込んだ封印の地だ。クロエは非常に嫌な予感がした。


「繋がったのはほんの一瞬だったので、魔王そのものが顕現したわけではないと、思います。おそらく魔王の力の末端か何か」


トリスタンが呼び出したのは、黒く蠢く肉の塊だった。


それはひどく邪悪な怨念をまき散らしていたが、クロエと家族を奪った者たちへの憎悪に染まっていたトリスタンには、心地よく感じられた。


「俺は呼び出した魔王の一部と同化して異形の怪物に成り下がり、レガリア軍を殺して回りました」


レガリア撤退後はレオノールを捕らえ、時間をかけて嬲り、止めに来た者たちを殺し、王妃も苦しめて殺した。


殺し、殺し、殺して、いつの間にか息を引き取っていた王太子の亡骸を発見しても何も感じなかった。


そうして血まみれの城を一人でさまよっていたころ、ふと気が付いた。


王も公爵も亡くなり、時戻しの魔道具の使用条件が無意味になったこと。


前回の経験で、魔道具の保管場所と使い方はわかっていること。


二度も禁術の代償を支払えば無事でいられるかわからない、という公爵の警告が頭をよぎったがどうでもいい。


クロエと家族が再び笑ってくれるなら、自分の命や尊厳など惜しくなかった。


トリスタンはもう一度、世界をやり直すことにした。

執筆前に覚悟はしていたつもりだけど、タイムリープものって頭使いますね。

他作品ではあんまり使わなかった部分の脳をフル回転して書いています。

が、すでに何らかの矛盾を引き起こしてそうで怖い。

整合性を損なわずタイムリープものが書ける人、尊敬します。

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