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病で死んだら時間が巻き戻ったので、王女殿下ばかりを優先する婚約者を詰問することにした  作者: 日向 風花


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3/3

血族の使命

 翌日、一人の少女がクロエを見舞いにやってきた。


マグノリアの血族に顕著な青い髪を持つ少女、ミラ・リシャール。伯爵家の長女で、トリスタンの年の離れた妹だ。


「お見舞いを許してくださりありがとう存じます、ローラン公爵令嬢。こちら、わたくしが鉱血病の時に喉を通った果物です」


普段のミラは明るく溌溂とした美少女なのだが、今は罪人のように項垂れてしまっている。


「よく来てくれた、ミラ。私のほうこそ、こんな姿ですまないな。以前のようにクロエ姉さまと呼んではくれないのかい?」


寝台の上で身を起こしたネグリジェ姿のクロエを、負い目に満ちた目で見つめるミラ。


「今のわたくしに、そんな資格があるのでしょうか……」


「たとえトリスタンとの婚約がどうなろうと、君は私のかわいい妹分だ」


クロエはミラが生まれたころから妹のように可愛がってきた。その気持ちは今でも揺らいでないと両腕を広げて示して見せれば、ミラは遠慮がちに近づいてくる。


「クロエ姉さま、本当にごめんなさい。姉さまが苦しんでいるというのに、兄がお見舞いにも来ないなんて……」


「君が謝ることじゃないよ、ミラ」


公爵家への忠誠心が強く善良なリシャール一家が、次男に怒りを募らせているのは知っていた。


しかしトリスタンは城の近衛寮に移って滅多に家にも帰らないらしく、伯爵たちは咎める機会も減っていた。


「姉さま、わたし、姉さまが本当の姉さまになってくれるのが、とても楽しみだったけれど……我慢しないでね。あの、あんぽんたんのバカちぃ兄なんて、捨てちゃっていいから、絶対に元気になってね」


「もちろんだとも。お見舞いありがとう、ミラ。持ってきてくれた果物で栄養をつけて、姉さまはきっと元気になるからな」


ミラは今にも泣きだしそうな声だったけれど、辛いのはクロエだと自覚しており決して涙は見せなかった。


「どうして、優しい姉さまがこんな目に……鉱血病に怯えながら魔法を継承しなければならないのでしょう」


「魔王の脅威に備えるためだ」


声を震わせるミラへというより、自分に言い聞かせるようにクロエは言った。




 魔王封印の勇者ウィリアムは、偉業の示す通り強い人ではあったのだろうが、人外じみた武力の化け物だったわけでもないらしい。


むしろ、一癖も二癖もある仲間たちを鼓舞して導いた人徳や統率力。


武力よりも人柄によって勇者になり、大国スノーレイクの王にまでなった人物だ。


だから魔王は討伐ではなく封印するのが精いっぱいだったといわれている。


魔女マグノリアはそんな勇者を「時空の操作」という特異な血統魔法によって助けた英雄だ。


この希少な魔法が世から失われることは、人類が魔王への対抗手段を一つ失うことを意味する。


魔王の封印が解けた時に備えて、マグノリアの一族はどんなに苦しくとも血統魔法を手放してはならないのだ。


「本当なら、魔女マグノリアは国を興すべきではなかったのだろうな」


クロエはぽつりとつぶやいた。


魔王との戦後、英雄の多くはそれぞれ国を興している。


しかし魔法の後遺症で盲目になったマグノリアに女王など務まるはずもなく、本人も国づくりには消極的だったらしい。


ところがマグノリアの一番弟子であったルフェーヴル王家の始祖が、崇拝する師の国を作ることを熱望した。


面倒な王様業はすべて自分が引き受け、自らの血統に治療魔法を刻んで子々孫々支えるから大丈夫だと説得し、マグノリア魔法王国の建国を半ば強行してしまったのである。


それはたぶん当初は純粋な配慮だったのだろうけれど、ローラン家とルフェーヴル家の主従関係が逆転した現在は歪みを生んだ。


「スノーレイクの臣下になった戦士ウッズワードのように、わが一族も勇者の庇護下で魔法研究でもしていれば、ルフェーヴル家との関係がこじれることはなかったかもしれない」


「姉さま……」


「すまないな、ミラ。今更たらればを語ったところで意味のないことだった」


クロエが力なく微笑むと、ミラの付き人の女性が遠慮がちに口をはさんだ。


「お嬢様、恐れ入りますがそろそろお暇いたしましょう」


「……そうね、あまり姉さまのお体に障ってもいけないわ。姉さま、お顔を見せてくださってありがとう。また来るね」


帰っていくミラに笑顔で手を振ったクロエは、柔らかな寝台の上に横たわると魔力を体に巡らせ自己診療を試みた。


体の中に、砂粒のような魔力の鉱石がいくつもあることはわかる。これが日に日に大きくなっていくだろうということも。


(これを分解する魔術が、私にも使えれば……)


鉱血病を知った時から、同じことを何度考えたか知れない。


マグノリアの一族の体にできる魔鉱石は魔石とは似て非なるもので、通常の魔術では壊せないのだ。


分解することができるのは鉱血病の治療を血統魔法として保持する王族か、隣国スノーレイク神聖王国の癒しの聖女様くらいのものだろう。


政略結婚が必要になるルフェーヴル王家は、血族間での婚姻を繰り返してきたローラン家やリシャール家ほど血統魔法が濃くない。


その結果、王家の血統魔法を扱えるのはレオノール王女だけになった。


かといって、スノーレイクの聖女に頼る手も使えない。


聖女の力が発揮できるのはスノーレイク国内のみで、外国人のクロエが聖女の治療を受けるには煩雑な手続きと長い移動が必要だからだ。


(移動だけなら何とかなったかもしれないが……)


昨日発表する予定だった新魔法が脳裏をよぎり、クロエはふと思いなおした。


マグノリアの血筋に受け継がれる時空操作の魔法を研究し、クロエとトリスタンが開発したのが転移の魔法だ。


現代の技術では完全再現は不可能と言われているスノーレイクの国宝に、魔女マグノリアが勇者ウィリアムに贈った転移の魔道具がある。


その魔道具に込められた魔法を、膨大な設備と魔力で不完全ながら再現したものだ。


まだまだ改善点が多いとはいえ、実用化できればマグノリア国内の流通を握る王妃とリケッツアの影響力を大幅に削ることができるはずだった。


(スノーレイクに移動できたとして手続きに時間と金がかかるのはかわらないし、そもそも当代聖女のヴィクトリア様は治癒の術が不得手らしいが)


つまり聖女の手を借りるという手段はどう頑張っても詰みで、クロエが助かるとすればレオノール王女の協力を得るしかない。


それは王女に疎まれているクロエにとって、奇跡でも起こらなければ無理な話のように思えた。

前作でアレクサンダーがスノーレイク歴代最強の王みたいなことを言われていましたが、勇者だった初代王とどっちが強いのか問題。

何をもって「強さ」とするかにもよりますが、ウィリアムは個人の武力以上に人望とか統率力で勇者になった人なので、実は単体の戦闘力でみるとアレクのほうが上です。

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