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病で死んだら時間が巻き戻ったので、王女殿下ばかりを優先する婚約者を詰問することにした  作者: 日向 風花


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鍛練場のアイドル

 マグノリア魔法王国軍の主戦力は魔術師だ。基本的には遠距離戦闘が主体である。


とはいえ軍人である以上、近接戦闘に長けた魔術師もそれなりに存在する。


特に王家の警護を担当する近衛魔術師の多くは、肉弾戦にも対応できる花形だ。


「きゃああああああああっ!!!クロエ様ぁ!!!」


「ローラン様すてきぃいいいいッ!!!」


そんな近衛魔術師の鍛練場では、とある新人の訓練中に貴族女性が集まってきて黄色い声援を送る現象が発生していた。


言わずもがな、原因はクロエ・ローラン公爵令嬢だ。


クロエが踊るように魔力鞭を振るうたび、未婚の令嬢から家庭を持つご婦人まで卒倒寸前の歓声を上げる。


艶めかしい笑顔のクロエが声援に応えて手を振れば、本当に失神するご令嬢がでたこともあった。


「よぉ、トリスタン。相変わらずとんでもない人気だな、お前の婚約者は」


仲良くなった先輩の一人が声をかけてきたので、隅っこで木剣の素振りをしていたトリスタンは振り返った。


「ローラン嬢が来るまでは俺らがきゃーきゃー言われていたのになぁ……まぁ、男の俺から見ても格好いいから仕方ねぇけどさぁ」


彼はリュシアン王太子付きの近衛で、新入りのトリスタンやクロエにもよくしてくれている若者だ。少々軽薄なところもあるが、兄のルイを彷彿とさせるこの先輩をトリスタンも慕っていた。


「はは……先輩だって格好いいですよ。クロエ様にはかないませんけど」


「言いやがったな、この野郎」


セリフとは裏腹に、がははと笑う先輩近衛。


「本当に、俺も二人に負けていられないです。少しでも強くならないと」


「そ、そうか……まぁ、人には向き不向きがあるからな。怪我しない範囲で頑張れ」


へっぴり腰で素振りを再開するトリスタンと、華麗な身のこなしのクロエをちらっと見比べた先輩は、生暖かい目をしてその場を離れていった。


残されたトリスタンは、本人の意気込みだけは真剣そのものに木剣を振り下ろす。


が、何度も繰り返すうちに勢い余って手から木剣がすっぽ抜けた。


くるくると回転しながら明後日の方向に吹き飛んでいくのに焦ったトリスタンは、魔法で強風を呼び自分の手元に呼び戻そうとした。


その魔法自体は的確だったのだが、今度は勢いよく自分に向かってくる木剣を受け止めきれず、鳩尾に勢いよくぶち当たった。


「ぐっ……!」


勢いあまって尻もちをつくトリスタンの傍らに、からからと木剣が転がっていく。


「トリスタン!」


痛みと情けなさで腹を抑えるトリスタンに、クロエが駆け寄ってきた。


「あまり無茶をするな。怪我はないか?」


耳に心地よい美声で甘く囁き、クロエがトリスタンを抱き起す。


「クロエ様……」


並の男ならばあまりの情けなさに劣等感を抱きかねない場面だが、幼少からクロエに救われてきたトリスタンが今更この程度で自尊心に傷を負うわけもない。


むしろうっとり頬を赤らめて、世界一格好いい婚約者を特等席から堪能する。


見つめあう二人の姿に、なぜか今日一番の黄色い悲鳴が女性たちの間で沸き起こった。


そんな彼女たちの中から、二人の女性がこちらへ向かって近づいて来る。


「もぅ、ちぃ兄さまったら大丈夫!?」


「ミラさん、走ってはいけませんよ」


ちょうどこの鍛練場を見学していた妹のミラと、付き添いと思われる兄嫁だ。


「ミラたちも来ていたのか」


さすがに気恥ずかしくなったトリスタンがクロエから離れると、ミラはつんとおすまし顔で頷いた。


「いいじゃない。今日は開放日だもの。貴族なら誰でも見学に来ていいのでしょう?」


「そうだけど……兄さまひとりの時は、来てくれなかったじゃないか」


「だってちぃ兄さま、魔法を使わないときは格好悪いんだもん」


容赦ない妹の言い分に、ガクッと肩を落とすトリスタン。


「まぁまぁ、ミラ。トリスタンだって頑張っているんだよ」


「そうですよ。それに、お仕事中のお二人の邪魔をしてはいけません。トリスタンさんの無事が確認できたのだから、そろそろ帰りましょう?」


クロエに諭され、兄嫁から促されたミラは、「はぁい」と返事をして戻っていった。


その兄嫁の後姿を、トリスタンはじっと観察する。


兄嫁は、ミラやトリスタンにも優しい淑やかな女性だ。


父母との関係も良く、伯爵家一家が鉱血病に倒れた時には一人で家政を取り仕切った女傑でもある。


何より、兄のルイとは仲睦まじい夫婦だ。


だが、どうやらミラはクロエに対するほど兄嫁に懐いているわけではないようで、度々二人が微妙な空気になっているのを見たことがある。


クロエはミラが生まれたころから面識のある親族、兄嫁は他家から嫁いできた人なので、温度差があるのも仕方ないことではあるのだが。


(裏切り者が誰なのか、まだわからない。義姉さんも疑わなくてはいけないだろうか……)


そんな風に悩んでいた時だ。


「何なの、この騒ぎは?」


ミラたちと入れ替わりに、近衛の女性を引き連れたレオノールが鍛練場へやってきた。


王女の登場に、近衛たちの表情が緊張でこわばる。


見学の女性たちも息をひそめる中、レオノールは不機嫌な顔を隠そうともせずトリスタンとクロエに向かって歩いてきた。


「どうせまたお前たちが原因なのでしょう?」


「これはレオノール王女殿下、ご機嫌麗しく」


「はっ、ご機嫌麗しいわけないじゃない、見てわからないの?」


恭しく一礼したクロエに対して吐き捨てるようなレオノール。クロエファンの女性たちが殺気立つ中、トリスタンが間に割って入った。


「王女殿下。このようなむさ苦しい場所に何か御用でしょうか?」


「この女とずぅっと一緒なんて退屈でしょ?わたくしとお出かけしましょ、トリス」


「自分はまだ予定していた鍛練が終わっておりません。そちらの方々をお連れになっては?」


「こいつらは今から仕事上がりなんですって。無理やりわたくしの護衛になったくせに、使えないわよねぇ」


トリスタンがレオノールの背後にいた二人の女性を示すと、王女は詰るような眼をして振り返った。近衛の女性たちは申し訳なさそうに頭を下げているので、これから非番なのは本当らしい。


トリスタンは王女に対して舌打ちしたい気分で頷いた。


「承知しました。ですが、自分一人ではお守りするにも限度があります。せめてもうあと一人は警護の者を」


「なら私が行こう」


クロエの申し出に、案の定レオノールは嫌な顔をした。


「なんでわたくしがお前なんかを連れ歩かなきゃならないのよ!?」


「では、他に殿下の護衛を勤める者がいないか確認しましょう」


彼女がざっと鍛練場を見回すと、近衛魔術師たちは視線をそらした。


クロエが王女付きの近衛に就任してから既に数日が経過している。


レオノールは王妃に元の美男近衛たちを呼び戻してくれるよう訴えたらしいが、エウラリア王妃から近衛の人事について横やりが入ることはなかった。


この機会にレオノール付に配置換えされてはたまらない、関わり合いになりたくないといわんばかりの近衛たちを見渡し、クロエは肩をすくめた。


「先輩方はお忙しいようです。では、わたくしで決まりですね」


「お前!わたくしにトリスを取られたくないからって図々しいのよ!!」


トリスタンの腕にぶら下がって悪態を喚き散らすレオノールの顔を覗き込み、クロエは微笑んだ。


「左様ですとも。わたくしは強欲なので、婚約者の愛もあなた様をお守りする栄誉も、どちらも失いたくないのです。さ、行きましょう」


その場はすっかりクロエのペースで、トリスタンとレオノールは彼女に背中を押されて歩き始めた。

~一方そのころ、ミラと兄嫁の確執の真相~


ミラ「はぁ……クロエ姉さま、格好良くて素敵だったなぁ……」

兄嫁「そうですね。トリスタンさんも麗しくいらっしゃって、お似合いの二人……」

ミラ「あの二人って」

兄嫁「本当に」


ミラ「クロ×トリは実質薔薇!!!」兄嫁「クロ×トリは実質百合!!!」


ミラ「えっ?何を言っているの、義姉さま」

兄嫁「あら?あなたこそ何を言っているの、ミラさん」

ミラ「百合なんて解釈違いだわ!クロエ姉さまは私の王子様なんだから!」

兄嫁「わたくしだってトリスタンさんのこと、もう一人の義妹だと思っていますわ!」

ミラ「義姉さまは何もわかっていないわ!ヘタレどんくさいちぃ兄さまを颯爽と助けてくれる、クロエ姉さまは最高に格好いい乙女の理想のスパダリなのよ!!!」

兄嫁「クロエ様が格好いいのは認めます。けれども彼女はあくまでも女性。儚げヒロインのトリスタンさんを優しく包み込む女神です!」

ミラ「違うもん!ちぃ兄さまは男の人だもん!!男同士が一番尊いもん!!!」

兄嫁「ふふっ、まだ青いですねミラさん。女性同士の愛の魅力がまだわからないとは……」

ルイ「あの、ヒートアップしているところ悪いんだけど。クロ×トリって何?」

兄嫁「クロエ×トリスタンの略ですわ!」

ルイ「魔術師の名前を省略するの、この国では結構な侮辱行為だからやめたほうがいいんじゃない?」

ミラ「うっ……これは、なんというか、カップリングを表す記号だからセーフ!セーフなのよ!」

兄嫁「そうですわ!本人たちに呼びかけるわけではないのですから大目に見てくださいまし!」

ルイ「えぇー……。そこは団結するのか……」

ミラ「時々意見の食い違いはあるけど、私たちはクロ×トリを愛でる同士だもの!」

兄嫁「根本的なところで分かり合えないけれど、ミラさんの発想力にはわたくしも一目置いていますわ」

ルイ「そもそも、クロエ様が攻めでトリスタンが受けなのは二人とも変わらないのか?」


ミラ「当り前よ!」兄嫁「当然ですわ!!」


ルイ「トリスタン……兄ちゃんはお前の味方だからな……トリ×クロNLだっていいよな……(ほろり)」


譲れない戦いが、そこにある……!

解釈違いで度々もめるだけで、ある意味とっても仲良し義姉妹です。

あとがきのノリでカップリングだの薔薇だの百合だの書いたけど、ミラも兄嫁さんも特に転生者とかではない!はず!

兄嫁で転生者って一作目のあのお方と被るしな!


ルイ「本編で俺の嫁ちゃんが裏切り者だったらどうしようって真剣に悩んでいるトリスタンが哀れなんだが」

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