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病で死んだら時間が巻き戻ったので、王女殿下ばかりを優先する婚約者を詰問することにした  作者: 日向 風花


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14/15

大量人事整理

 それから十日ほどは、何事もなく時が過ぎた。


否、トリスタンの精神的にはトラブル続きだった。


レオノールの一日のスケジュールは、ざっくり分けると午前中は家庭教師によるお勉強、午後からが自由時間だ。


勉学の内容は歴史、魔法、社交術に舞踊など無難な科目ばかりで、レオノールは案外真面目にこれらの授業を受けている。


内容も極端に難易度が低いということはなく、傍で授業を聞くトリスタンは髪一本分だけ王女を見直した。


(一日中、好き放題しているのかと思った)


王女に侍っていたころの記憶を持っていないトリスタンは、レオノールのことをほとんど知らない。


幼少のころ同性のクロエは友人候補として城に上がることもあったが、トリスタンはそのおまけでごく偶に同行する程度だった。


王家と魔女マグノリアの一族の血を引く子供の存在は忌避されるため、男子のトリスタンはレオノールの傍から遠ざけられてきたのだ。


レオノールの双子の兄、王太子リュシアンの方がまだ交流があるくらいだ。


もっともクロエと同じ頻度でレオノールに会ったとしても、意地悪ばかりの王女と仲良くなれた気はしないが。


そんなことをつらつら考えているうちに午前は終わり、レオノールにまとわりつかれながら昼餐となる。


午後からの王女様はたいていお忍びで城下へ出かけ、違法すれすれの賭場やいかがわしい社交場に身分を隠して出入りし、派手に散財を重ねている。


特に全ての護衛を撒いて姿を消したときなどは、本気で焦った。


そんな風に護衛たちを振り回しておきながら、城に戻るとまたトリスタンにべたべたとすり寄ってこられて鬱陶しいことこの上ない。


とある夜などもう少しで寮の自室へレオノールに侵入されそうになり、何をされるのかと思うと吐き気が止まらなかった。


王妃の茶会が開かれた午後もあったが、エウラリア王妃がニコニコと見守る中、派閥の令嬢たちがレオノールを持ち上げ、マウント合戦や見目麗しい令息の噂話、敵対派閥の令嬢たちをあげつらう様子は別の意味で胃痛がする。


やんわり断っているというのにめげずに近づいてくるレオノールの付きまとい、嫌がらせばかりで業務の足を引っ張る先輩方。


仕事の合間にエウラリア王妃とリケッツア、親族に潜む裏切り者の背後関係を探ってはいるが、こちらの結果も芳しくない。


実家やローラン邸に顔を出して心を癒しておかなければ、ストレスで視野はますます狭くなっていたことだろう。


王女に侍っていたトリスタンが婚約者へのフォローを怠るような精神状態だったのも、忌々しいが納得はできた。




 その朝も、トリスタンは憂鬱な一日が始まると思っていた。


近衛の寮で朝食をとった後は、舞踏のレッスン場までレオノールを護送するため部屋まで赴き、王女専属の侍女に取次ぎを頼む。


程なくして贅を尽くした王女の私室に通されると、トリスタンは露骨に眉をひそめた。


時間ギリギリを狙ってきたというのに、いつもは大勢侍っているレオノールの護衛が一人もいないのだ。侍女の姿はあるが男はトリスタン一人きり、大変不愉快である。


「いらっしゃい、トリス!早くわたくしに会いたくて一番乗りで来てくれたのね!?」


派手なドレスを纏ったレオノールがわざとらしいくらい満面の笑みで駆け寄ってくるのを避け、トリスタンは冷ややかに尋ねた。


「他の護衛たちはどうしたのですか?」


「それが聞いてよ、この時間になっても誰も来ないのよ!」


てっきりトリスタンを嵌めるために示し合わせたのかと思いきや、この状況はレオノールにとっても想定外らしい。


レオノールがいらいらとした様子で悪態をついていると、部屋の外で何か押し問答をする気配がして、困惑した様子の侍女が


「近衛魔導士の方々が到着されました」


と告げた。


「遅いわね!ぐずぐずしていないで早く連れてきなさい!」


レオノールの命令に侍女がかしこまって扉を開けると、近衛の制服姿の女性たちが入ってきた。


「遅参いたしまして申し訳ございません、王女殿下!」


全く謝意が感じられないはきはきとしたしゃべり方で入ってきた先頭の女性に、トリスタンもレオノールも唖然とする。


「……は?」


「本日付で王女殿下の近衛魔術師として就任いたしました、クロエ・ローランと申します!よろしくな、リシャール先輩!」


「はああああああああああああっ!!!?」


レオノールへ優美に一礼し、トリスタンにはいい笑顔でグッと拳を突き出して見せたのは、彼の愛しい婚約者殿だった。


よく見ればクロエが背後に連れている近衛の女性たちも見覚えがある。ローラン家の派閥で、魔法と運動に秀でたご令嬢たちだ。


女性王族の護衛としてはトリスタンより彼女たちのほうがずっと適性があるだろう。


「ちょっ、な、えっ、聞いてないわよ!?トリスタン!!?」


「自分も何も知らされていません!どういうことですか!?」


まさかレオノールと気持ちが通じ合う日が来るとは思わなかった。混乱極まる二人に、クロエはにこりと笑う。


「先日レオノール殿下に我が家を訪問いただく栄誉を賜りましたでしょう?わたくし驚きましたの。噂には聞いておりましたが尊き王女殿下の護衛が、まさか本当に男性ばかりだったなんて!間違いがあってはいけないと父に相談させていただきましたところ、国王陛下も事態を重く憂慮されたようで私共が近衛に就任することになりました」


笑顔で圧をかけながらクロエが一気にまくしたてる。


ローラン公爵家は野心もなければ地位や名誉への興味も薄いとはいえ、この程度の工作は造作ないのだ。


「いつものみんなはどうしたのよ!?」


「新人のトリスタンより優れた魔術師が一人もいないのですもの。全員クビです」


「はああああああああああっ!!?勝手なことをしないでよ!!!」


半狂乱になったレオノールがクロエに向かって突進する。


クロエはすっと切れ長の目を細め、まるでレオノールとダンスでも踊るように彼女の手を取ると、くるりと互いの位置を入れ替えて、彼女を横抱きにした。


そのまま壊れ物のようにレオノールを長椅子へ横たえ、優しく、しかし抵抗できないように両手を頭の上で拘束する。


「ちょっと、放しなさいよっ!」


「レオノール殿下。女のわたくしでさえ、可憐で華奢なあなた様を簡単に抑え込めてしまうのですよ?あの者たちが殿下に邪心を抱いて襲い掛かってきたらどうなさるおつもりだったのです?」


レオノールの耳元に唇を寄せ、女性にしてはハスキーな声音で囁くクロエ。


ほかの近衛の女性たちが黄色い悲鳴を上げ、侍女たちまでが羨ましそうに見つめ、なんだかんだレオノールの頬も赤く染まっている。


俺は何を見せられているんだ、とトリスタンが遠い目をする中、クロエはふっと悩ましげな笑い声を残して体を起こした。


「御身に触れた無礼をお許しください、レオノール殿下」


恭しい手つきでレオノールを助け起こし、跪いて許しを請うクロエは、どんな貴公子よりも王子様だった。


(俺の婚約者が美しくてかっこよくて王子様で女神すぎる……麗しさで目が潰れそう……!)


ときめきすぎて心臓が止まりそうなトリスタンとは反対に、レオノールはさすがに冷静さを取り戻していた。


一瞬でもクロエにみとれそうになった自分をごまかすように、きつく睨みつける。


「許すわけがないでしょう、無礼者。……お母様に、言いつけてやるから」


「ご随意に」


レオノールの負け惜しみも、子猫の威嚇のごとく受け流すクロエ。


「本日の最初の予定は、舞踏のレッスンでしたね。エスコートいたします。お手をどうぞ、姫?」


元来中性的な美貌のクロエが近衛の制服姿で手を差し出す姿は、どんな乙女も恋に落ちそうな破壊力である。


レオノールは真っ赤になってプルプルと震え、扇でその手を叩き落とした。


「馬鹿にしないで!トリスタン、来なさい!」


「やれやれ、振られてしまったよ。ここは先輩にお譲りしよう」


クロエの許可が出たのでトリスタンはのろのろとレオノールに近づき、極めて事務的に手を差し出した。


「なんで?なんでこんなことになるのよ……!?」


レオノールもそれどころではないのか、トリスタンの手を取りはしたものの、いつものように豊満な体を押し付けてくるようなことはしない。


これはこれで地獄のような空気の中、近衛の一行は王女をレッスン場まで送り届けることになった。




 レッスンが始まると、その間はレオノールから解放される。


トリスタンが業務上の引継ぎを装ってクロエと話をしたい旨を申し出ると、ダンスの講師を務める貴族夫人も、クロエが連れてきた近衛の女性たちも快く送り出してくれた。


いたずらが成功した時のようになんだか楽しそうなクロエを庭へと連行し、念のため防音の魔法も発動させる。


「クロエ様!いったい何を考えておられるのですか!?こんな敵地の真ん中のようなところへ」


唇にたおやかな指を押し当てられて、トリスタンはむぐっと黙った。


「王家の血統魔法を調べたいと言っただろう?王妃陛下や王女殿下の動向を探るにも、近衛の身分は都合がいいし」


「危険すぎます!」


「そうだよ?何も知らされず、一人で全部背負われる無力感と恐怖が少しはわかったか?」


腕を組み、鋭くこちらをにらみつけるクロエにトリスタンは何も言えなかった。


「……と、あなたを虐めるのはこのくらいにしておこうか。父上たちが事情をご存じとはいえ、このまま一人で突っ走ったら前回の二の舞だぞ?」


「その、申し訳ありません……」


日に日に自分に余裕がなくなっていく自覚はあったので、トリスタンは素直に謝った。よろしい、とクロエが頷き、声を潜めてトリスタンの耳元に唇を寄せる。


「まぁ、私が本気で諜報するわけではないさ。今、父上の手の者が城に入っている。私たちの仕事は彼らがやりやすいように、表で派手に動いて警戒の目を引き付けることだ」


トリスタンは目を見張った。公爵家の諜報員は、能力自体はリケッツアに劣るかもしれないが玄人だ。


自分たちが下手に調べまわるより、確かにいい仕事をしてくれることだろう。


「すまないな、トリスタン。こんなにやつれるまで一人にしてしまって……絶対に裏切らない者を見定めていたら、潜入までに十日もかかってしまった」


「いいえ、充分早いと思います」


「そう?なんなら私一人だけでも先に来て調査を始めたかったんだけどな。近衛魔術師なら堂々と城の書庫に入ることもできるし」


「クロエ様」


「そう目くじら立てるな。これからはちゃんと情報共有するし、本当に危ないことはしないから」


クロエのお転婆ぶりを知るトリスタンとしては、彼女を信じたいがどうにも疑わしい。そんな彼の気持ちを察したのか、クロエは肩をすくめた。


「あとはそうだな、せいぜい王女様の前でいちゃいちゃして見せようじゃないか?前回の意趣返しというやつだ」


クロエは獰猛な笑みを浮かべて、レオノールがいるレッスン場の窓を見上げた。

十話以上も鬱展開と説明回を続けて悪かったな。

こ こ か ら が 本 番 だ !


まぁ、レオノールは単体ならそこまで脅威じゃないんだよ。

ラスボスは他にいるっす(唐突なネタバレ)

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