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完全な日

作者: 兎文人
掲載日:2025/12/28

男は、今日は「完全な日」だと思った。

強い酒をあおりながら、なんていい日だ、と心の中でつぶやく。

もし君と一緒にいられたなら、まさに完全な日だーーそう思う。

そして、蒔いた種は刈らなければならない、と自分にささやく。

男は静かに、一歩、前へ出た。

***

私は椅子に腰をおろし、窓の外を眺めながらコーヒーを飲んでいる。

今日も、あの男が落ちてくる。

決まった時刻になると、必ず落ちてくる。

最初は何が起きているのかわからなかった。

ただ、毎日同じ時間に、人が落ちてくるのだ。

それ以外には、何も起こらない。

音もなく、叫びもなく、その瞬間だけが世界から切り取られている。

彼は、死んだ瞬間に縫いとめられたみたいに、同じ時だけを繰り返した。


最初は驚き、そして恐怖した。

窓を開けて下をのぞいてもそこに遺体はない。

落下地点へ行っても、何もない。

幽霊だろうか。

屋上に線香を持っていったこともある。

けれど何も変わらなかった。

それでも、やがて慣れていく。

嫌なことがあった日は酒を飲みながら、その「落下」を眺める。

彼はなぜ飛び降りたのだろう、と考える。

考えても、答えはどこにもない。

それでも日々は続き、小さな違いが生まれてくる。

今日は美味しいコーヒーを買ってきた。

今日は満月だ。

今日は雪。

今日は蒸し暑い。

今日は空気が澄んでいる。

今日はやけに騒がしい。

私は今日も窓辺に座り、その落下を見届ける。



ーー運命の時。


男は外へ出て、ふと立ち止まった。


あの時刻だと気づいた。

顔を上げる。

男が、降ってくる。

この角度から見るのは初めてだ、と思いながら、落ちてくる影を見つめた。


だが、それは幽霊ではなかった。

そして、その日の夜、ニュースが流れた。


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