舞踏会への招待状
正体不明の舞踏会に招待されたのは良いものの、ドレスコードがあるのならば行きたくはないなと思った。まず舞踏会なんて縁もなかった。別世界だ。何が起きてもそんな華々しい場所に行くことはないだろうなと思っていた。だって舞踏会っていうのはあれだろ、きっと僕の家賃すらよりも価値のあるドレスで、美男美女か金持ちのご隠居がいて、風情を無理やり思い出すかのようなクラシックに乗せて、ダンスをしているあの空間だろう。キラキラと鳴っているシャンデリアが、光色にその場を飾って、お高い酒でちびちび飲みながら他愛もない話をするわけだ。お偉いさんが集まれば、うちの娘を貰ってくれないかとか、美形の男に女が群がるとか、それを見かねた男の幼馴染が「私には無理だろうな」と言って外にフラッと出て黄昏れていると、その男が「ここでなにしているんだい」とか言って出てきて、両手に何か持ってそれを幼馴染に渡すんだ。それで幼馴染が悩みを打ち明けて、それを男が見事にフォローして、それで一気にメロい雰囲気になったらだんだん顔を近づけてキスをするんだろう。バックには夜空が広がっていて、微かにクラシックの音楽が鳴る中、飲んでいた酒の味を噛みしめながらキスをするんだ。それから手を取って「踊ろう」と言うんだ。そして建物の中に戻って優雅に踊るんだろう。
おかしな話だ。それだけで自己肯定感が回復するんだったら、ハナからその幼馴染は別に悩んでいない。本当に悩んでいる奴は、諦めて家で寝るんだよ。そもそも幼馴染だって、そんな舞踏会のドレスコード突破しているんだから、その時点で僕よりはるかに人間としては上なわけだ。そんでもって何が悩みだというのだろう、美味い飯があって、素晴らしい演奏があって、いかに自分が庶民よりも上なのかを、ものすごく実感できるその場所で、何を悩んでいる暇があるのだろうか。
招待状は封も開けずに捨てることにした。僕に送ってくるなんてお門違いだ。なんならビリビリに破いてやる。破いて、紙が散らばった。ちらりと見えた手紙の中には
「ディア キャサリン」
と書いてあった。
ここにきて、人違い。僕は少しだけまた想像した。このキャサリンとかいう人物が、それこそ幼馴染的な人間だった場合、彼女は人生の絶好のチャンスを、この僕の手で潰されたことになる。彼女は舞踏会に赴かず、家でしとしと泣くのだろう。
こんな妄想する奴に、招待など来るものか。




