シーン3:屋上、観測者の孤独
放課後の屋上。
夕陽が空を赤く染め、金網の影が床に長く伸びていた。
風が髪を揺らし、制服のリボンをかすかに翻す。
篠原莉々亜はフェンスにもたれ、校庭を見下ろしていた。
グラウンドの隅では、ミナとカイトが並んで笑っている。
どこからともなく小さな“ピコン”という音がして、
彼らの頭上に淡いウィンドウが浮かび上がった。
《恋愛ルート確定:Episode 1 Complete》
それは、運命の確定通知。
彼女の視界の中でだけ、現実が“乙女ゲーム”の演出に変わっていく。
(本来なら、私がその隣にいた。
“悪役令嬢”として、彼女を妬み、破滅する役で。)
莉々亜は目を細める。
風が吹き抜け、制服の袖を揺らした。
遠くから部活の掛け声が聞こえてくる。
けれどその喧噪のすべてが、まるで薄いガラス越しのように遠かった。
「でも、今は――ただの観測者。」
呟いた声が、夕焼けの空に溶けていく。
その瞬間、
彼女の頭上にふわりと透明なバーが現れた。
《存在ステータス:傍観者》
《好感度変動:固定》
淡く光るそのウィンドウは、まるで神の烙印のように彼女を縛る。
(動けない……。
どんなに見えても、私は物語の外側の人間。)
遠くで、カイトがミナに手を振っている。
その笑顔が、完璧な恋愛イベントの一枚絵のように輝いて見えた。
莉々亜は目を閉じる。
胸の奥に、微かに“鐘の音”が鳴った。
――カラン……カラン……。
(また、聞こえる……。
運命の音が、私を呼んでいる。)
空がゆっくりと夜の色へと変わっていく。
残照の中、彼女の影だけが少し遅れて揺らめいた。




