シーン2:体育館裏、恋愛演出の発動
昼下がりの校庭の片隅――体育館裏。
春風に舞う砂埃の中、ミナの笑い声が響いていた。
その瞬間。
彼女の足が、落ちていたボールに取られる。
「きゃっ――!」
ノートとプリントが宙に舞い、光を反射してひらひらと散る。
その紙片のひとつを、反射的に掴んだのは朝倉カイトだった。
「大丈夫? 花園さん。」
微笑みとともに差し出される手。
その指先がミナの手に触れた瞬間――
ピコン♪
甘い電子音とともに、空気が揺らぐ。
風が止まり、光が滲む。
そして――
桜の花びらが、ありえないほどの量で舞い上がった。
背景が一瞬ぼやけ、ふたりの周囲だけが柔らかな光に包まれる。
スローモーションのような時間の中、
カイトの声が穏やかに響いた。
「怪我、してないよね?」
「う、うん……ありがとう、朝倉くん。」
再び“ピコン♪”という音。
莉々亜の視界に、ウィンドウが浮かび上がる。
《恋愛イベント発動:Episode 1-2》
《好感度変動中……》
体育館の壁越しに、その光景を見つめる莉々亜。
風が止まり、世界が一枚の静止画のように美しく整う。
「……発動した。Episode 1-2、恋愛イベント。」
彼女の声は小さく、誰にも届かない。
ふと周囲を見渡すと、
近くの生徒たちは誰ひとり、光の演出に気づいていなかった。
昼休みの雑談を続け、笑いながら通り過ぎていく。
(みんな、もう“この世界の仕様”を受け入れている……?)
電子的な風音が通り抜ける。
桜の花びらのエフェクトが、プログラムの残光のように消えていく。
(そうだ……ここは“恋愛を観測する世界”。
私以外の誰も、それを疑わない。)
莉々亜のスマホが震える。
画面には淡く点滅する文字――
《イベント記録:更新完了》
(これで……また、物語が進む。)
カイトが去り、ミナの笑顔が夕陽に溶ける。
莉々亜はただ、それを“観測者”として見つめていた。




