第2話 恋愛フラグの見える日常 シーン1:朝の教室、UIのざわめき
春の朝、ガラス越しに柔らかな光が差し込む教室。
軽やかなピアノの旋律が流れるような、いつも通りの新学期の朝――
の、はずだった。
篠原莉々亜は、静かにドアを開けて教室に入った。
その瞬間、視界の端に小さなウィンドウが次々と立ち上がる。
『好感度+2%』
『信頼度+1%』
『親近感-3%』
淡い色のゲージが、クラスメイトたちの頭上でゆらゆらと光を放っていた。
誰もそれに気づいていない。
ただ、彼女だけが“見えている”。
(昨日より……見える情報が増えている?)
ノイズ混じりの電子音が、空気の隙間を走る。
目の前では、花園ミナが友人たちに囲まれ、明るく笑っていた。
その頭上には、淡く輝く**《メインヒロイン》**のタグ。
まるで神様が指定した役職のように、堂々と表示されている。
(あの子が、この世界の中心――)
莉々亜は自分の席につく。
次の瞬間、机の端にふわりと青いウィンドウが浮かび上がった。
《攻略対象リスト》
朝倉カイト:好感度 22%
天条ルカ:観測中
御影ユウ:未登場
???:データロック中
小さな顔アイコンが並ぶ。
すべて“乙女ゲーム”的な美形ばかり。
(……見える、って、こういう意味だったのね)
ノイズのように、ピアノの旋律がわずかに歪む。
黒板の文字が一瞬だけブレて、“チュートリアル”という単語が見えた気がした。
莉々亜は、深く息をつく。
世界はまだ、普通の学園生活を装っている。
けれど――確実に“システム”が動き始めていた。
(恋愛ゲームの世界は、今日も正常に動いてる。
……ただ一人、私を除いて。)
チャイムが鳴る。電子音と混ざり合いながら、
まるで“起動音”のように響き渡った。




