シーン5:放課後・断罪の鐘の予兆
放課後の廊下は、ゆるやかな橙色に染まっていた。
窓の外では、夕陽が校舎を長く伸ばしている。
生徒たちの笑い声が遠ざかり、
残されたのは、足音と風の音だけ。
篠原莉々亜は、ひとり窓辺に立っていた。
――カラン……カラン……。
風に混じって、微かに“鐘の音”が響く。
それは誰の耳にも届かず、
ただ莉々亜の心の奥にだけ、確かに鳴っていた。
(あの音……また、私を呼んでいる。)
胸の奥が、ひやりと冷える。
前世の記憶――断罪の広場、群衆の声、刃のきらめき。
その全てが、鐘の音と共に蘇りそうになる。
彼女は震える指でスマホを開いた。
画面の中に、一瞬だけウィンドウが浮かぶ。
――▶ フラグを壊す
――▶ 何もしない
心臓が跳ねる。
その選択肢は、見慣れた“ゲームUI”のフォントだった。
(……ふざけないで。今さら、従うつもりなんてないわ。)
莉々亜は無言でスマホを閉じた。
しかしその瞬間、画面が赤く点滅する。
《ERROR》
《システム警告:選択肢スキップ検知》
光が弾け、電子音が廊下にこだまする。
スマホが手から滑り落ち、床に落ちた。
「これ、落としたよ。」
しゃがみ込んだのは、花園ミナだった。
彼女は優しく微笑み、スマホを差し出す。
「……莉々亜ちゃん、ちょっと疲れてる?」
莉々亜は受け取りながら、小さく笑った。
「ええ……少し、夢を見てたの。」
ふたりの間に沈黙が落ちる。
夕陽が窓を透かし、ミナの髪を金色に染める。
その光が揺らめいた瞬間――
校舎の影が、まるで“データノイズ”のように波打った。
風の中で、微かに電子的な声が響く。
《フラグ制御エラー……リリアーナ・プロセス、検知》
莉々亜の瞳の奥に、金色の残光がまた灯る。
(……もう、逃げられないのね。)
廊下の奥、誰もいない教室の窓がきしみ、
――カラン……カラン……。
“断罪の鐘”が、確かに鳴った。




