シーン4:昼休み・小さな異変
昼休みの学食は、春のざわめきで満ちていた。
トレイを持った生徒たちが行き交い、カフェ風のBGMがスピーカーから流れる。
――少なくとも、外見上はごく普通の学園の昼。
けれど、篠原莉々亜にはその“普通”がどこか不自然に感じられていた。
空気のリズムが、まるで誰かのスクリプトに沿って動いているような。
「ねぇ、ミナ。よかったら一緒に食べない?」
声をかけたのは、朝倉カイト。
周囲の女子たちの視線が一斉にそちらを向く。
それだけで、空間の温度が少し上がるようだった。
「えっ、いいの? ありがとう、朝倉くん!」
ミナが嬉しそうに笑う。
その瞬間――莉々亜の視界に、また“それ”が現れた。
《ピコン♪ 恋愛フラグ成立:Episode 1-1》
光の粒がふわりと舞い上がり、
ミナとカイトの間に淡いピンクのラインが結ばれる。
周囲の生徒には見えない。
だけど、莉々亜にははっきりと見える。
(……やっぱり。
この世界は、恋愛シナリオに沿って進行している。)
彼女はトレイを手にしたまま、一瞬だけ立ち止まった。
そのとき――
「篠原さんも、一緒にどう?」
不意にカイトが微笑みかける。
その笑顔は完璧で、温かく、誰もが惹かれる“好感度演出”のようだった。
「え? あ、ありがとう。」
断れず、莉々亜も同じテーブルに座る。
カイトとミナが楽しそうに話し始めるその隣で、
彼女だけが沈黙を守る。
箸の音、笑い声、湯気。
すべてが“幸福なイベントシーン”として整いすぎていた。
「転校したばかりで大変だろ? 慣れるまでサポートするよ。」
カイトの声は柔らかく、
しかし、その裏に――“機械的な処理音”が混じった。
――カチ、カチ。
まるでAIが台詞をレンダリングしているような、わずかな電子音。
(……台本。彼も“演じさせられている”の?)
ミナが笑い、カイトもそれに応じる。
その笑顔が交わるたびに、光の粒が弾け、
ゲージが――自動で上昇していく。
莉々亜はトレイのスープを見つめながら、静かに息を吐く。
(この世界はゲーム。恋愛はプログラム。
そして、バッドエンドを迎えれば……また“断罪”が訪れる。)
ほんの一瞬、耳の奥で鈴のような音がした。
――カラン、カラン。
“断罪の鐘”の幻聴。
昼の光の中で、それだけが異様に響いていた。




