シーン3:教室・運命の座席
ざわざわとした新学期の朝。
2年B組の教室には、窓から差し込む春の光と、
新品の教科書の匂いが混じっていた。
「今日から新しい転校生が入ります。篠原莉々亜さんです。」
担任の声が響いた瞬間、
教室の空気が、微かに――揺れた。
莉々亜が前を向いたその瞬間、
生徒たちの頭上に、淡く光るハート型のゲージが一斉に浮かび上がる。
『ピコン♪ 男子生徒好感度+3%』
……見えているのは、彼女だけ。
莉々亜は、柔らかく微笑んで頭を下げた。
「篠原莉々亜です。よろしくお願いします。」
表向きは完璧な自己紹介。
だが心の奥では、ひどく冷えた声が響く。
(また、“始まった”のね……。この数値の波、間違いないわ。)
担任が続ける。
「じゃあ、篠原さんは――花園の隣の席に。」
その名前を聞いた瞬間、莉々亜の背筋が硬直した。
花園。
その姓を、彼女は前世で何度も見てきた。
“ヒロインのデフォルトネーム”として。
視線の先――窓際で手を振る少女がいた。
柔らかい栗色の髪、春の光を映した瞳。
花園ミナ。
「よろしくね! 莉々亜ちゃんって呼んでいい?」
その笑顔は、まるで世界が彼女を中心に回っているように明るかった。
「……ええ、もちろん。」
言葉を返しながらも、莉々亜の目はミナの胸元に引き寄せられる。
そこに揺れていたのは――ハート型の小さなペンダント。
その瞬間、視界にノイズが走る。
《恋愛システムキー:認証中……》
電子音のような、心臓の鼓動のような何かが、世界の底から響いた。
(あの光……間違いない。“ヒロインの心臓”と同じ反応。)
(つまり、この子が――今回の“主人公”……。)
ミナが机を軽く叩いて笑う。
「転校って緊張するでしょ? でも、このクラスは楽しいよ!」
その笑顔が放つ光は、まるで人の心を惹きつけるスキルのようだった。
男子生徒たちのハートゲージが、ふわりと一斉に上昇する。
莉々亜のモノローグが、静かに重なる。
(……そして、彼女が恋をすればするほど、世界は動き出す。)
(“断罪の鐘”が鳴るその日まで――)
窓の外で、風が桜を散らした。
ハートのゲージが、花びらと共に光の粒となって揺らめく。
そして――誰にも聞こえない微かな音。
カラン……カラン……
――“断罪の鐘”の、幻聴。




