第5話 鏡の中の管理者 シーン1:鏡の前の対峙
夜の旧校舎。
廊下の蛍光灯はひとつ、またひとつと明滅を繰り返し、
奥の部屋だけが、まるで“呼吸している”ように微かに光っていた。
リリアは足を止めた。
その部屋の中央――割れかけた鏡が、月光を吸い込んで震えている。
ひび割れの間から滲むのは、冷たい光。
まるで、血管のように脈打っていた。
(鏡の奥に、誰かがいる――)
(“私”の影が、こちらを見ている。)
指先がわずかに震える。
鏡の向こうの“それ”は、リリアと同じ形をしていた。
同じ髪、同じ瞳、けれど――何も宿していない。
人形のような無表情で、微笑む。
鏡面が淡く光を放ち、声が響いた。
アマリエ:「ようこそ、創造主の欠片。私の心臓へ。」
その瞬間、空気が変わった。
校舎の壁が、まるで液体になったように波打ち、床のタイルが光の粒へとほどけていく。
リリアの身体がふわりと浮かび――
鏡の中へと吸い込まれた。
時間が逆流するような眩暈。
耳の奥で、電子ノイズが囁く。
言葉とも、祈りともつかぬ声が、幾重にも重なっていた。
《Welcome Back. System_Origin Detected.》
視界が反転する。
上下も前後もわからないまま、落ちていく。
最後に見たのは、鏡の向こうに立つアマリエの姿。
リリアーナと同じ顔――けれど、魂だけが違う。
そして世界が裏返り、白い光がすべてを飲み込んだ。




