シーン2:通学路・出会いのフラグ
春の風が、桜の花びらをはらはらと舞わせていた。
篠原莉々亜は坂道を上りながら、少し大きめの制服の袖をそっと直す。
転校初日の朝――胸の奥が、妙にざわついていた。
通りの向こうでは、集団で歩く女生徒たちが歓声を上げている。
「キャー! 朝倉くん今日もかっこいい〜!」
「見て見て、笑った! 目が合った〜!」
莉々亜が顔を向けると、そこには光を背にした一人の少年がいた。
金髪めいた茶髪、柔らかな笑み。
整った顔立ちに自然と集まる視線。
――まるで、王子様そのもの。
朝倉カイト。
学園中の女子が憧れる、生徒会のエース。
……そして、リリアーナ=フォン=エストリアがかつて攻略対象にした“王子ルート”の相手。
胸の奥が、ぞくりとした。
まさか――そんな偶然、あるはずが。
その瞬間、坂の上から勢いよく転がってきたサッカーボールが、莉々亜の足元へ。
「あっ――!」
避けようとした時にはもう遅かった。
彼女の身体はバランスを崩し、
次の瞬間――
どんっ。
衝突。
胸板にぶつかった感触。
反射的に顔を上げると、至近距離にカイトの顔。
春の光が、彼の髪を縁取っていた。
「ご、ごめん! 大丈夫? 転校生さんだよね?」
やわらかな声。
誰が聞いても好感を抱くような“完璧なトーン”だった。
――その瞬間。
頭上に淡いピンクの光が走り、文字が浮かぶ。
『ピコン♪ 好感度+10%』
空間に、電子的な効果音が響いたような気がした。
しかし周囲の生徒たちは、何も聞こえなかったかのように通り過ぎていく。
莉々亜の視線だけが、静止した世界の中でその“文字”を追う。
(……フラグ、が立った?)
(まさか、またこの“恋愛システム”が――)
心臓の奥で、嫌な記憶が疼く。
“フラグ”が積み上がり、やがて“断罪イベント”を呼び寄せる――あの世界の構造。
「ええ。大丈夫です。お気になさらず。」
表面上は微笑を返す。
その笑みの裏で、莉々亜は冷静に距離を取った。
(私の目的は恋じゃない。……今度こそ、この世界を壊さずに終わらせるために。)
桜の花びらがふたりの間を舞う。
恋愛ゲームのイベントCGのように――美しく、しかし不穏に。




