第4話 フラグの破壊者 シーン1:朝――繰り返される日常
軽やかな朝のメロディが、廊下のスピーカーから流れていた。
鳥のさえずり、教室から聞こえる笑い声、窓辺をすり抜ける風。
一見、どこにでもある平穏な学園の朝――のはずだった。
だが、その音は途中で唐突に途切れた。
「……ブツッ。」
微かなノイズが残響し、空気の温度がわずかに変わる。
リリアは足を止め、廊下の先を見つめた。
教室の中では、生徒たちが“昨日と全く同じタイミング”で笑い合っている。
黒板に書かれた文字も、机の並びも、ミナが落とすペンの音さえも――同じ。
「……また、同じ日。」
教室のドアに手をかけた瞬間、デジャヴのような光景が脳裏をよぎる。
――昨日も、彼女はこの扉を開けた。
――昨日も、ミナは同じセリフを言った。
『おはよう、リリアちゃん! 今日はちょっと寝不足で~』
耳が覚えている声が、寸分違わず同じ音程で響く。
笑顔も、頬の角度も、同じ。
世界が“再生”されているのだ。
「……リセットされたのね。」
彼女はつぶやいた。
視線を上げると、壁にかかった時計の針が午前八時を指している。
その秒針が、一歩進むたびに――
画面のノイズのように、わずかに震えた。
カチ、カチ、カチ。
その音が異様に耳に残る。
進んでは戻り、戻っては進む。
リリアは静かに息を吸った。
胸の奥で、冷たい感覚が広がる。
> 「世界が、七十二時間で巻き戻るように組まれてる……。」
呟きとともに、視界の端で誰かの笑顔が途切れた映像のように瞬く。
データの読み込みが追いついていない、そんな錯覚。
彼女は一歩、教室の中へ踏み込む。
すると――空気が一瞬、軋んだ。
世界のフレームが、ひとコマ遅れた。
そのわずかなズレを感じ取ったのは、リリアだけ。
周囲の誰も気づかない。
ただ、彼女だけが知っている。
この朝が、“二度目の朝”であることを。
「……始まったわね、また。」
リリアは鞄を握りしめた。
秒針が震える。
“再生された日常”が、音もなく動き出した。




