第3話 断罪の鐘の幻聴 シーン1:放課後の旧校舎にて
放課後。
部活の掛け声や笑い声が遠くに霞んでいく頃、
校庭の端、取り壊し予定の旧校舎は、
どこかこの世界から切り離されたように沈黙していた。
風も止まり、
夕陽の色がガラス窓に長い影を落とす。
莉々亜は、そこに立っていた。
新しい靴の先が、うっすらと埃を踏みしめる。
——なぜ、ここに来たのか。
理由はない。けれど、身体が勝手に動いた。
まるで“呼ばれている”ように。
彼女が一歩、旧校舎へと近づいた瞬間――
「……ゴォォォン……」
鐘の音が響いた。
どこからともなく、低く、重く、空気を震わせる音。
耳を塞いでも止まらない。
脳の奥に直接、響くような“幻聴”。
莉々亜の瞳がわずかに見開かれる。
(この音……知ってる。)
夕陽の光に照らされて、
校舎の窓ガラスが鏡のように彼女の顔を映す。
そこに、もうひとつの影が重なった。
深紅のドレス、金のティアラ、冷たい微笑み。
“リリアーナ=フォン=エストリア”――
断罪された悪役令嬢。
前世の自分。
「断罪の広場。炎と罵声の中で……
最後に聞いたのも、この鐘だった。」
風が吹く。
校舎の窓が微かに鳴る。
誰もいないのに、誰かが見ているような気配。
莉々亜は目を細め、鏡越しの自分に問いかける。
「また、始まるの……?」
だが返事はない。
ただ、ガラスの奥の“彼女”が、ゆっくりと微笑んだ。
その微笑みとともに、空気がひび割れる。
ほんの一瞬、世界全体にノイズのような揺らぎが走った。
《System Notice:断罪ループ_再起動準備中》
そのメッセージを見たのは、
この世界で――彼女ひとりだけだった。




