シーン6:エピローグ ― 観測者・天条ルカの視線
放課後の廊下は、朱に染まっていた。
窓の向こうに傾いた太陽が差し込み、
磨かれた床に長い影を落としている。
生徒たちの笑い声が遠ざかり、
やがて、世界が――静止した。
BGMは無音。
時間さえも、息をひそめたように感じられる。
その静寂の中を、莉々亜がゆっくりと歩く。
教科書を抱えたまま、夕焼けの光に目を細めて。
──その瞬間。
廊下の端に、ひとりの男子生徒が立っていた。
黒縁の眼鏡。整った髪。理知的な雰囲気。
天条ルカ。
無口で、クラスでもあまり目立たない彼が、
今だけは、まっすぐ莉々亜を見つめている。
彼の瞳の奥に、淡い光が瞬いた。
それは、莉々亜の見ているものと同じ――
UIの反射。
好感度ゲージ。ルートライン。
そして、システムログの断片。
(……まさか、彼も見えている?)
莉々亜が足を止めた瞬間、
ルカが小さく何かを呟いた。
「……観測者、二人目か。」
その声は、まるでノイズに溶けるように掻き消えた。
誰にも聞こえないほどの小さな声で。
次の瞬間――
画面全体がわずかに揺らぐ。
視界の端に、白い文字が浮かび上がる。
《データ同期中……観測対象:篠原莉々亜》
電子ノイズが走り、
画面がフェードアウト。
残響のように、ルカの視線だけが
最後まで光の中に残った。
──そして、世界は静かに幕を閉じる。




