シーン5:夜、自分のステータス画面
夜。
静まり返った部屋の中で、莉々亜は鏡の前に立っていた。
カーテンの隙間から漏れる街灯の光が、彼女の頬を淡く照らす。
BGMは――
第1話で流れたメインテーマ。
けれど、今夜のそれには不協和音が混じっている。
まるで、かつての旋律が壊れ始めたかのように。
鏡を覗き込む。
その瞬間、
鏡面に淡いノイズが走り、
莉々亜の姿と重なるようにシステムウィンドウが浮かび上がった。
《STATUS WINDOW》
名前:篠原莉々亜
役職:元悪役令嬢(記録済)
ルート所属:未確定
状態:観測者モード
タグ:BAD END(確定)
呼吸が少しだけ止まる。
冷たい光が頬に触れ、数字たちが淡々と自分の“存在”を定義していく。
(やっぱり……私の結末は、最初から決まってる。)
呟いた声が、わずかに震えていた。
けれど――その鏡の奥。
莉々亜の後ろに、**もう一人の“彼女”**が微笑んでいる。
金髪の巻き髪。宝石のような瞳。
麗しく、傲慢で、かつて“悪役令嬢”と呼ばれた少女――
リリアーナ・フォルティス。
鏡の中の幻影が、ふっと唇を動かした。
「この世界では、選ばれない者に救いはないの。」
その声は、まるで誰かのセリフの再生音のように響く。
懐かしいのに、冷たく突き放すような声。
莉々亜は目を細め、
静かに微笑んだ。
「なら――救いの定義を、壊すだけ。」
その瞬間、鏡面がひび割れるように光を散らす。
ウィンドウがざらつき、タグの文字が乱れた。
《BAD END(確定)》 → 《ERROR:ルート逸脱》
BGMの不協和が、調和へと変わっていく。
壊れたメロディが、わずかに新しい旋律を紡ぎ始めた。
莉々亜はゆっくりと目を閉じる。
夜の静寂の中、
遠くで――あの“鐘の音”が、再び鳴り響いた。




