シーン4:放課後、時計の変化
放課後の教室。
窓の外は茜色に染まり、机の影が長く伸びている。
ほとんどの生徒が帰ったあと、
教室には莉々亜の小さな呼吸音だけが残っていた。
カーテンが揺れ、光がちらつく。
その瞬間、
――チチッ、チチチッ。
妙な電子ノイズが混じった。
耳を澄ますと、それは壁際の“時計”から聞こえてくる。
莉々亜が視線を上げた。
教室の壁にかかる、何の変哲もないアナログ時計。
だが――その文字盤が、ゆっくりと変化を始めた。
数字のフォントが、ゲームのようなドット調に。
針の動くたびに、きらりと小さなエフェクトが走る。
まるで誰かが、現実にUIスキンを上書きしているかのように。
(……時間そのものまで、取り込まれていくの?)
秒針が止まり、空気が凍りついた。
静寂の中、莉々亜の視界に――
淡い選択ウィンドウがふわりと浮かぶ。
▶ 介入する
▶ 見守る
ピアノの旋律が微かに歪む。
電子音が混じり、まるで世界のプログラムが息をしているようだ。
莉々亜は無意識のうちに、手を伸ばした。
その指先が、ウィンドウの光に触れようとする。
――しかし。
指はすり抜けた。
水面のように波紋を描き、何も掴めない。
「……私は、もうプレイヤーじゃないの?」
声が静かに教室に響く。
返事はない。時計の針は止まったまま。
ただ、ウィンドウの端に小さく文字が浮かんだ。
《アクセス権:剥奪済み》
教室の明かりがちらつく。
机の上のシャープペンが転がり、カラン、と乾いた音を立てた。
外では部活の掛け声。
普通の夕暮れ。普通の放課後。
でも――この教室だけが、
“現実のふりをしたゲーム空間”になっていた。
莉々亜はそっと目を伏せ、
胸の奥でひとつ息をついた。
(なら、私は……何者なの?)
秒針が再び動き出す。
ピコン、と小さな効果音が響く。
時間が“セーブデータ”のように再開された。




