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3話:落ちもの商人

※遠回しですがBL描写がございます。

「そりゃロッゾが悪いなぁ」


 ロッゾと入れ違いでやって来たティーガは、やれやれと首を振る。

 今しがたの出来事を、自分の余計な発言がきっかけだという事も含め、リンカは素直に報告した。

 その上で、ティーガはロッゾが悪いと断じた。

 

「ミヤが想定よりも嫌な奴じゃなくて、拍子抜けしちまっただけだろ。

 どっかで折り合いつけるだろうから、大丈夫だ」

(軽く言うけど、結構長い道のりっぽそうな……)


 ロッゾが取り乱してしまった原因は、リンカ以前に自分だ。

 憎悪の対象と仕事をしなければいけない心労は計り知れない。

 これからもこんな感じで、グロシュリウス王城の人々に迷惑をかけそうな気配もする。

 どうしたものかと頭を巡らせていたところで、丁度良く炊き上がりのアラームが鳴った。


「おっ出来上がったか!」

 

 本当はもう少し蒸らしの時間を持ちたかったが、ワクワクしているティーガを待たせるわけにはいかないからと、しゃもじを用意した。

 蓋を開ければ、醤油とみりんの甘やかな香りが鼻腔をくすぐる。

 鳥と人参ときのこのうまみが詰まったお米は、薄く醤油色がかって艶やかだ。

 これは良い出来だと思う。


「おおー!」

「わぁ……いい匂い」

「炊き込みご飯にしました。

 具は鶏肉と人参とキノコで、少し甘口です」


 軽く説明しつつ、大盛でよそってティーガに手渡した。


「リンカさんにもお分けして大丈夫ですか?」

「いいぜ。良い研究材料だろ?」

「ありがとうございます!」


 一応の許可を取り、リンカの分も普通盛りで準備する。

 箸は無いからスプーンとフォークで。更にカットトマトを綺麗に盛り付け、作業台に並べる。 

 作業台で食べてもらうのは忍びないが、その内食卓も届くだろう。


「お待たせしました。どうぞお召し上がりください」


 ミヤの一声に、ティーガとリンカはすぐに一口頬張った。

 

「うっ……ま!

 仕事上がりに沁みるなぁ……

 トマトも、ドレッシングがいつもと違ってこれはこれで良い!」

「醤油とみりん……すごい。

 根菜の甘味が更に引き出されてますし、そこにお肉の脂が乗って……おいしいです……!」


 感想を述べた後は、2人とも黙々と味わい、食べ続けている。

 その姿が何よりも嬉しく、安心する。

 

(材料が集まってきたら、他のドレッシングも作ってみよう)


 野望は広がっていく。

 感動に浸っている内に、ティーガは勝手に炊飯器からおかわりをよそって大半を食べ尽くしていた。


(早っ……でも、残ってる?)

「少しで悪いが、他の厨房係に持ってきな」

「やったー! ありがとうございます!」


 あぁそういう事かと、ミヤは王の優しさを理解した。


「厨房に残ってる方々は何人でしたっけ?」

「2人です!」


 小さなおにぎりを2つ。さっとラップで包んで、リンカに手渡しておいた。


「おぉ……お米、こんな事まで出来るのですね!」

 

 興味津々のリンカはとても可愛らしい。

 

「そうだリンカ。厨房に飯置いてったら先に応接室へ案内してやってくれ。

 ロッゾが呼んだ()()()()()()が来てる」

「はい!」


 恐らくはこの厨房を作るために協力を取り付けた方だろう。

 

「じゃ、夕飯も頼んだ。夕方過ぎには仕事を終わらせる」

「わかりました……!」


 午後の仕事もたんまり抱えているらしいティーガは、颯爽と執務室へ戻っていった。

 ミヤの方も、商人がもう待っているのならと、リンカにお願いして応接室の方へ向かう事にする。


「ロッゾさんはあぁ言っていましたが、恐らく商人さんは大丈夫ですよ!

 多分いらっしゃってるのは勇者好きで有名な商会の方ですから」

「勇者好き……」


 リンカ曰く、落とし子なら穏やかに付き合える可能性があるとの事だった。

 一生懸命応援してくれるリンカのおかげで、少しだけ肩の力が抜けた。

 長い廊下を抜け、城の入口付近にある応接間の扉を開けば、まずは巨大なリュックが目に入る。


(でっか……何を持って来たんだろ)


 ミヤが気圧されていると、ソファに座っていた商人がミヤの前までやって来て、片膝をついた。


「お初にお目にかかります落とし子様。

 わたしは、落ちもの商人のダスクと申します。

 王とロッゾ様の紹介で参りました」

「え、えっと、ミヤと申します!

 どうかそんなかしこまらずに……!」


 こんなにも恭しく丁寧な挨拶はミヤとしても初めての事で、どうして良いかわからず慌ててしまった。

 そんなミヤの態度に、商人はゆっくりと面を上げた。

 焦げ茶の髪と瞳に、垂れ目とクマ。たぬきのような印象を受ける青年だ。


「貴き方に向けた挨拶で慌てふためくとは……本当に落とし子様ですね」

「は、はい。すみません。まだ慣れてなくて……日本というところから来ました」


 判断基準はさておき、落とし子だと認識してくれたようで、ミヤはほっと溜息をついた。


「その国の名を再び耳にできるなんて……ありがとうございます。

 ……すみません。感動で視界が」


 お世辞のような声色だったが、ダスクは本当に泣いていた。表情は営業スマイルのままボロボロ涙をこぼしており、ハンカチでせき止めている。


「ダスクさんは、勇者様万歳商会の方ですから……」

「勇者様万歳商会⁉︎」


 衝撃の商会名をリンカから耳打ちされ、ミヤは思わず聞き返してしまった。

 何とストレートで凄まじい名前だろうか。

 

「わたしの商会はかつてデザリアにて、勇者様の援助をさせて頂いておりました。

 その際異世界の文化を教えて頂いた関係で、少々古い年代の知識かもしれませんが、それなりに落ちものの扱いを心得ております」

「えっ、デザリアの商会だったという事ですか?」

「その通りでございます。

 勇者様が災厄を打ち払いお亡くなりになられた後、デザリアと神竜教の腐敗に辟易し、グロシュリウスへ移った次第です」

(なるほどデザリアと神竜教のアンチではあると……)

「わたし達は、落とし子様の味方でございます」

 

 商会の名に嘘偽り無し。

 よくわからないままミーユ大陸に落とされ数年、初めて落とし子で良かったと、ミヤは心の底から思えた。


「お近づきの印に、こちらを」


 机にスッと出されたのは、見覚えあるパッケージの箱だ。

 朝ごはんにおやつ、元の世界では様々利用していた家庭の強い味方。

 

「ホットケーキミックスだ⁉︎

 ありがとうございます! 大事に使わせて頂きます……!」


 思わず大声が出てしまった。ミヤの脳内で一気にレシピが展開されていく。


「こちらは……焼き菓子の元ですか?」

「小麦粉やふくらし粉といった材料が混ざった状態で売られてるものでして」

 

 ホットケーキは勿論の事、フルーツケーキやスコーン、肉まんなども作れる優れものだ。


「……ロッゾ様、甘い物が好きなんです。

 だから、もしかしたら打ち解けるキッカケにもなるかもしれません!」


 リンカからも良い情報を得た。ならば、ホットケーキはうってつけだ。

 ティーガの側近であるロッゾとは、どうしても顔を合わせる機会が多いだろう。

 打ち解けられるのなら早めが良い。すぐには無理でも、徐々に態度を軟化させるキッカケになれば嬉しい。


(軟化……それもおこがましいかな。

 仕事上の付き合いだけでも普通にして頂くキッカケに……)

 

 ――ガシャン!

 ミヤがうんうん唸っていると、応接室の外から、何かが割れたらしき大きな音がした。

 慌てて廊下から顔を出してみると、花瓶の破片と共に、苦し気に蹲るロッゾがいた。

 肩で息をしていて、何かに耐えるように背を丸め、時折呻き声が零れている。

 顔は苦悶の表情を浮かべ、真っ赤に染まっていた。


「発作……⁉︎ ロッゾ様!」


 リンカが駆け寄ろうとするが、嫌な気配を感じ取り女性陣を守ろうと、ダスクが割って前に出た。

 その次の瞬間には、ロッゾが音もなくダスクの目前まで迫っていた。

 商会制服の胸倉を掴み、悲鳴を上げる隙も与えず、応接室の隣の空き部屋に引きずり込む。


「ダスクさん!」

「大変だぁ……早く医務室に連絡しなきゃ!

 ミヤ様はともかく応接室に鍵をかけて避難してください!」

「えっ、ダスクさんは⁉︎」

「きっと命は助かるはずです!」

「きっと⁉︎ はず⁉︎」


 かなりふんわりした言い方は気になるが、リンカは全速力で医務室へ駆けて行ってしまった。


(病の発作……一体どういう……)


 リンカの指示通り応接室に籠ったミヤは、思考を巡らせつつ待つ事しかできない。

 ティーガの食欲のように【人の欲】に纏わる事だとして、一応命は助かるようなもの。


(ダ、ダスクさんの悲鳴? ロッゾさんも苦しそうな声が……大丈夫なの……⁉︎)

 

 苦し気だが、どこか甘ったるい。

 壁の向こうから熱のこもった吐息と共に、ダスクとロッゾの声が聞こえて来る。


(……あ)

 

 ふと、その答えをミヤは察し、顔を真っ赤にして俯いて、耳を塞いだ。

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