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5話:神竜

「……無茶しやがる」


 その匂いと声で、ミヤの緊張がふわりと解けた。


「ティーガ……? どうしてここに?」

「にゃーん」

「タンポポまで⁉︎」


 一緒に抱えられた白くもふもふの猫に気を取られている間に、大聖堂の崩落は終わっていた。

 巨大な大聖堂は一瞬にして跡形もなくなった。全てが瓦礫になり果てた。

 よく見るとティーガの周囲には強力な防御魔法が展開しており、そのおかげで怪我無く瓦礫を抜けて青空の下に戻ってこられたようだ。


「よ、よくも……!」


 ウィゼルの方も何とか防護術を発動させ生きながらえていたが、頭からはおびただしい血を流している。

 抵抗の意思はあるようだが、勝敗は既に決していた。


「私は、もうここには戻りません。

 私の居場所はグロシュリウス……彼の隣です」


 竜力の放出からか足腰が立たないが、ティーガが支えてくれる。

 ウィゼルが何か攻撃を仕掛けてきたが、新たに張られた虹色の結界が全て弾く。


『……ミヤよ、我が愛しき落とし子よ』


 弦楽器を思わせる美しい声が、ミヤの頭の中に響いた。

 不思議とそれが誰から発せられた声なのか、ミヤは理解できた。


「タンポポ……?」


 白い毛並みをたなびかせタンポポがぴょんと地面に降り立つと、小さな身体が煌々と光り出す。


『その間抜けな音で我を呼ぶな』


 メキメキと、光の中の影が大きくなっていく。

 大きさは大聖堂のあった高さまで迫り、骨格がメキメキと変わる。

 最後に翼と鱗が生え、白い竜の形に成った。


「ど、ドラゴン……」

「神竜……?」


 この大陸に語り継がれる神竜。その名にふさわしい荘厳で美しい竜だ。

 青空の下、眩しい日光に照らされ、鱗が輝いている。


『偽りの信仰により、竜の身体を封じ、人々から少しずつ竜力を借り受ける事で惨めに生きながらえて来た……

 それもようやく終わりだ。礼を言う。

 勇者の魂も報われる事だろう』


 竜は首を垂れ、ミヤと視線を合わせつつ礼を言った。


『最後の力を振り絞り呼んだ者が、敵に接収されていった時はどうなるかと思ったが……よく生き延びてくれた』

「あ、あはは……」


 ミヤが助けた時は、竜力不足からの不調と予期せぬ大怪我を負い、絶体絶命だったと言う。

 大聖堂に薄らと残る竜力や、グロシュリウス王城内の一部の人間に宿る竜力を吸い取り、命を繋いでいたらしい。

 いつかのロッゾやクイシャの急な発作はその影響だったと、神竜は重ねて頭を下げた。


『この地に満ちた我が力まで奪われていた。

 ……このままでは地が痩せ果て、滅びに向かうところであった』


 勇者の尊厳を奪い、効率的に竜力を得るためのシステムを構築していった結果、大地を巡る竜力も知らないうちに吸収されていたらしい。

 神竜が放つ竜力が大地に恵みを与え、食物や空気などを辿って再び神竜の元へ帰るという循環が損なわれ、数年後には大陸全土で大飢饉が起きていた可能性もあったそうだ。


「ひぇー……」


 大聖堂を破壊した事が結果オーライであって良かったと思うが、スケールの大きさにミヤは情けない悲鳴を上げてしまった。


『ありがとう……我の希望よ。

 其方の生きる世界に、祝福を』


 神竜は天に向かって咆哮した。心地よい笛のような音色が、地平の彼方まで響き渡ると、さぁっと風が吹いた。

 この先が明るい未来である事を約束してくれるような、心地よく勇気を囁いてくれるような風だ。


「こちらこそありがとう。……えーっと」

『仕方あるまい。タンポポと呼ぶことを許す』

「……あ、ありがとうタンポポ! いつでも遊びに来てね!」

 

 勢いのまま伝えてしまったが、神竜の目は優しく細められた。

 最後ミヤに一瞥し、大きな翼を広げて大空の青へ溶け行くように飛び去った。


「……ははっ、すげぇよミヤ」

「何がなんだか……!」


 2人ともがわけがわかっていない。だが、伝説上の生き物に会い、祝福されたという事実ではしゃいだ。

 ふと、ウィゼルが視界に入ったが、もう抵抗の意思は見えなかった。

 青い空を見上げ、力なくへたりこんでしまっていた。


「欲に踊らされた哀しき獣が……」


 彼の欲は永遠に叶わぬ物となった。大聖堂は跡形もなく崩れ、竜力を得る機能も瓦礫の下。

 神竜からは見放され、ミヤだけでもと抵抗すればティーガに斬られて苦しみながら死ぬ。何もせずとも出血で死ぬだろう。

 全てを悟り、何もできなくなってしまっていたのだ。


「……まずは帰ろう」


 ティーガはミヤへ手を差し出した。

 

「謝りたい事が沢山あります」

「俺も、話したい事が沢山」


 ミヤはその手を取った。長らく剣を振るってきた硬い手を、柔い力で握り返す。

 ミヤとティーガは手をつないだまま、神竜最後の気遣いでグロシュリウスへ転移していった。

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