表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/36

3話:猫と王

「……はぁ、とんでもねぇ奴が隠れてたもんだ」


 ティーガは剣を収めた。第一王子クレインの提案を呑み、口調も普段の気さくなものへと変わる。

 暑いからと兜を脱ぎ、素顔も晒した。


「こりゃまた随分な美青年だね」

「褒めても何も出ねぇ。さっさと話終わらすぞ」


 外交の相手としては楽しそうだと認めたが、緊張は続く。

 会話の内容次第では、再び剣を持たなければならない。


「ウィゼルは、ミヤ君を手元に置いていたから大人しくしていたにすぎない。

 うちとしても危険視していたが、彼が齎してくれた恩恵は計り知れない。

 ……犠牲も計り知れない」


 クレインはまず、ウィゼルの名前を出した。

 自身の過去やオルハの件もあり、思わず眉が動いてしまうが、落ち着いて話を聞く。

 第一王子は、憂いの表情で手元を見つめ、ため息を付いた。

 

「その辺りは今、報いを受けているところだ。

 だから、停戦は望まないよ。デザリアも神竜教も、贖う時が来たんだ」


 これから治める我が家を健やかな状態に戻すためにも必要な事であり、犠牲は出るが未来を考えれば仕方のない事だ。

 クレインの言葉に嘘は無いが、少しばかり苦しみが滲み出ていた。

 

「無関係の民は生かす。刃を向けるのは歯向かう奴と、遺恨のある者たちだけだ」


 彼の憂いを和らげる言葉を、ティーガは丁度持っていた。

 ミヤが持たせてくれた言葉だ。

 

「……感謝する」

「礼なら我が伴侶に」

「落ち着いたら、我が国が行った非礼を改めて詫びさせてくれ」

「考えておこう」


 戦争はまだまだ続くが、今ある遺恨を全て壊したその先で、いつか。

 クレインはティーガの言葉に笑みを浮かべ、再び頭を下げた。

 そして、懐から一通、神竜教の封蝋が押された手紙を取り出す。

 

「あとは、嫌だろうけど、ウィゼルから手紙を預かっている」


 グロシュリウス王国はウィゼルに入国禁止令を出している。

 一応は遵守しているていを取り、小賢しくも独断で動くであろうクレインを予測して、手紙を持たせたのだろう。

 渋々受け取り中身を確認すれば、予想通りの内容だった。

 延々とミヤの返還を求める旨と、オルハの失態に関する謝罪。それだけならすぐに破り捨てて終いだったが――。


「やられた……」


 手紙の追伸として「ミヤを少し預かる」という言葉が躍っていた。

 

「そんな、検閲した時には書いてなかった」

(あの狸爺多少なら竜力が使えるからな……)

 

 やりようはいくらでもあるだろう。だが、ウィゼルも大分切羽詰まっている事が見て取れた。

 ミヤを無理やり攫おうなら、ティーガ率いるグロシュリウスが黙っていない。戦争中の今行おうものなら、攻撃が苛烈化する可能性が高いというのに、今を狙った。


 ――本当に、国はどうでもいいんだな。


 自身に余裕がないのなら、周囲を巻き込んででも行う。結果で正当性を見せ、有耶無耶にしようとする。

 ティーガは手紙を握り潰し、床のゴミとして転がした。

 

「第一王子殿はここにいろ。今国に戻るのは危険だ」

「いや、だが」

「貴殿には、未来のデザリアを率いてもらう義務がある。

 ……どんな思惑を抱えていようと、少なくとも現状よりはマシだ。

 それに本来は、亡命のために来たんだろ?」

「……お見通しか」


 クレインは観念して笑みをこぼした。

 城に待機していた騎士に連れられ客間へ向かうのを見送り、ティーガは急ぎミヤの部屋へ向かった。

 窓から爽やかな陽光と風が差し込む部屋には、猫が一匹。その傍らには手紙が落ちていた。


(高度な転移魔法と竜力による強引な防護の突破の合わせ技……やけくそだな)


 この城には魔法による諜報防止策として、外部からの魔法を弾き、城中に警報を鳴らす防護魔法が張り巡らされている。

 それが反応しないよう、動物や自然の風を利用して極限まで魔法の気配を薄め、ここまで運んだのだろう。

 その上で最悪なのは、ミヤが手紙を読み「少しでもデザリアに行きたい」という気持ちが掻き立てられた場合転移させる魔法を仕込んだ。


 手紙の内容は、奉仕活動で炊き出しを行った一般市民たちが逃げ遅れており、神竜教大聖堂を間借りさせているという事。

 彼らの命運は、ミヤにかかっている事。


(嘘だろうがな)


 ミヤも罠だと理解しただろうが、心はどうにも逆らえない。

 彼女の善良な心を利用した卑劣な策に、怒りが滾々と湧き上がる。


「にゃあん」


 ティーガの怒りに水を指すように、猫は一鳴きした。

 身軽にティーガの手元から手紙を奪い取り、床に転がして、前脚を置くと――。

 

「……お前、これ、転移魔法が」


 手紙に仕込まれた転移魔法が再び機能し、光り出す。

 こんな事が可能なのは、ミヤのように強力な竜力を持ちながら、その操作の術を心得ている者だけのはずだ。


「何なんだお前はッ」


 猫を捕まえる前に、ティーガの身体は手紙へ吸い込まれて消えてしまった。

 

『私の愛しい子らを頼む』


 転移魔法特有の光の渦に揉まれながら、ティーガは微かにそんな声を聴いた。

 正体を考える暇などなく、すぐにデザリア王国の神竜教大聖堂前に放り出される。


(なんだ……竜力が満ちてる?)


 グロシュリウスが負けてすぐ、ティーガは一度だけここに来たことがあったが、その時とは全く違う。

 今は空気に莫大な竜力が乗り、重力が増したかのような感覚に見舞われる。

 

「貴様何者だ⁉︎」


 禍々しい鎧のティーガを見つけた騎士と神官たちが、わらわれと大勢詰めかけてくる。

 かつて見た憎らしい鎧や法衣だ。それは今も昔も変わらない。

 変わらず、憎い。


「どけ」


 愛用の剣を魔法で呼び寄せ、敵の波を一太刀で吹っ飛ばす。

 瓦礫と立ち上がれない者たちで出来た道を渡り、ティーガは大聖堂の奥、竜力が濃く感じる方を目指した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ