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1話:悩める男たち

 オルハの処刑から1週間。

 グロシュリウスのデザリア侵攻は着実に進んでいた。

 長きにわたるデザリアと神竜教への憎しみを晴らす戦いではあるが、血は殆ど流されていない。

 戦争に関係ないデザリアの一般市民たちは、グロシュリウス国境付近の避難所へ殆ど避難済み。

 数少ない犠牲者の殆どは、デザリア王家を守る騎士たちや貴族たちのみ。


 クイシャからの戦況報告を読み進めながら、ティーガはロッゾと共に昼食のオムライスを食べ進める。

 いつもなら早々に皿洗いや夕飯の仕込みに入っているはずのミヤは、何故かこの場にいない。


「まだ喧嘩なされてるのですか?」

「……いや、仲直りはしたが」

「してないも同然ですよ。空気が重たくてたまったものではありません」


 正確には、仲直りは有耶無耶になってしまっていた。

 オルハの件を口実に急ぎ戦争を仕掛けるため、ティーガの業務は暫く多忙を極めた。

 時間を置いた分ミヤの方はしっかりと頭が冷え、いつもの穏やかな態度に戻っていたが、どう接していいかわからなくなってしまったようだった。

 怒りのあまり手を上げてしまった気まずさや、忙しそうなティーガを見て気を使い、最低限の会話で様子を見るばかり。

 ティーガの方も、下手に動いて刺激するのは良くないと、ミヤの出方を伺い一歩踏み込めずにいる。

 

「お前たちは喧嘩するか……?」

「は……?」


 突然自分とダスクについての話を振られ、ロッゾは思わず素で返してしまった。

 

「いや、何でもない」

「……あぁ違いますよ。言いたくないのではなく、あの王がミヤ様にそこまで困窮をと感慨深く……」

「おい」


 誰にも悩む姿を見せず良き決断し、政治でも戦でも勇ましく先陣を切っていくあのティーガ王が。

 長い付き合いの側近は、嬉しそうに微笑んだ。

 

「僕たちはあまり参考になりませんよ。恋人同士ではありませんから」

「あれだけ浮ついた気配出しといて?」

「浮ついてません」

「ただ、自分が相手を怒らせた時は、誠意を見せる事に尽きます」


 大変でしたよ。と、ロッゾは語る。

 事故とはいえ、オルハに襲われ唇を奪われかけた件を「自分を過信しすぎです」とかなり怒られたらしい。

 図らずともティーガと似た内容だった。

 ダスクの機嫌を直すため彼の要求を様々応えた結果、休日中起きる事ができなかったと言う。


「……それで恋人同士じゃねぇのか」

「告白など受けておりませんので」


 目を伏せながらロッゾは語るが、ティーガの認識は違った。

 カレーなど異世界の食文化をグロシュリウスに普及させる政策のため、ダスクと話す機会が増えたのだが、彼は嬉々としてロッゾの事を恋人と称していた。

 これ以上突くと藪蛇になるかもしれないと、ティーガは話題を変える事にした。

 

「……クイシャは、戦争が終わったらリンカにいよいよ求婚するそうだぞ」

「戦争真っ只中に縁起が悪いので、口にするのはお辞め下さい」


 一貫してグロシュリウスが優勢の勝ち戦ではあるものの、戦争中に戦後の幸せな予定を話すのは良くない。

 高らかに語って戦死した騎士たちは大勢いると、ロッゾは首を振った。


「……我々の話は良いのです。ミヤ様ですよミヤ様。

 あの方は人を良く見て判断する方です。

 いつもなら率先して前線指揮に加わるであろうティーガ様が、城に留まっている。

 誠意を示す第一歩は既に踏み出せているのではないでしょうか?」


 自分の身を大事にし、ミヤの悲しむであろう行動を極力避けている。

 彼女が最初から望んでいた一般市民たちの安全は出来る限り確保している上、彼らの帰る場所である家や街をなるべく壊さないよう努めている。

 この結果を、ミヤはきっと理解しているだろう。


「……だといいな」


 王の顔ではなく、恋に悩む一人の男性らしくティーガは笑った。

 ミヤとの仲直りはあともう一歩、勇気が必要なだけだ。彼女の目を見て話すために、時間を取ろう。

 

「きっと仲直りできますよ――」


 ロッゾも釣られて微笑んでいたが、異世界食堂の扉が乱暴に開かれた音で、和やかな談笑は終わりを告げる。

 

「ご歓談中失礼いたします!

 デザリア王国から急遽、クレイン第一王子が関所に……!」

「はぁ⁉︎」


 予想外の人物の名が上がり、ティーガが素っ頓狂な声を上げた。

 愚王と悪名高い現デザリア王の第一子であり、次期国王候補筆頭。

 他の実子たちが貴族たちと迎合し、放蕩三昧している中、彼だけは他国へ留学し政治と商売について学んでいると聞く。

 王位継承権を持つ者の中では比較的マシ。勤勉故に現王や他の実子との連携に押され、流されがちという認識の人物だ。


「すぐ行く。鎧と剣の準備を」

「はい」


 目的は停戦か、あるいは落とし子ミヤか。

 どちらにせよグロシュリウス国王として断固拒否だ。


(オルハの件があったってのに、何考えてるんだ……?

 王子がわざわざ単独で何を……?)

 

 本来なら無礼だと突っぱねても良い突然の来訪だ。すぐに騎士をけしかけ命を奪っても許される。

 だが、ティーガの野生の勘が「会っておいて損はない」と告げていた。


「ミヤには自室から出るなと伝えておけ」


 いつでも第一王子を斬り捨てられるよう準備をしつつ、ロッゾへ告げた。

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