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9話:哀れ惨めの幕引き

 * * *


 その後オルハはより厳重な地下牢へと移された。

 使われなくなり久しいが、倉庫などよりもずっと重い空気がのしかかって来る。

 戦乱続きのグロシュリウスの歴史が、血の臭いとなって染みいているのだろう。


 フルール家のオルハ。

 罪状は内乱罪。王の暗殺未遂に加え、城内の騎士や職員に被害を出した。

 判決は死刑。人を傷つけられる程の竜力を使役する危険性を踏まえ、慎重に執り行われる。

 デザリア王国へは通達済であるが、デザリア側から返答は無い。

 

「今頃お前の尻拭いで必死なんだろうよ」


 ティーガはズタ袋の中でぐったりと横たわるオルハに向けて、そう伝えた。

 近いうちに起こるであろう戦争か、それとも誠心誠意込めての謝罪の準備か。どちらにせよ、一刻の猶予もない。

 グロシュリウスの騎士団は王の号令と共に、いつでも侵攻できる状態だと、オルハ処刑の通達と共に告げている。


(一応フルール家からの嘆願……という名の抗議状は来たが、流石に追い打ちはやめといてやるか)


 今、オルハを助けに来ない事が、フルール家が出した答えそのものだ。

 デザリア王国からではなく、フルール家当主個人から、一応オルハの減刑を乞う書状は届いたが、内容からは当代のフルール家を守りたい旨しか伝わってこなかった。


 オルハの処刑は転じて、フルール家の者がグロシュリウスを怒らせたという事になる。

 近々起こる戦争の一番の原因であり、デザリア王国での立場が非常に危うくなってしまう。

 だから、オルハの罪を許し生かして欲しい。

 願いを聞き入れるのならば、フルール家の財の半分を譲る。


 ――吐き気を催す程身勝手な内容だ。


 思わず破り捨てそうになったが、今後交渉の材料として使えるからとティーガは堪えた。

 オルハにフルール家という付加価値を持たせ、ミヤとの交換要請を出したために、離縁する事もできない。

 打った策が全て裏目に出ているデザリアへ、更なる追い打ちをかけられる。

 

「次生まれた時は、周囲に恵まれるといいな」

 

 肉体が死を迎え天へ昇った魂は、全ての罪を精算した後、別の生物に生まれ変わる。

 グロシュリウスの土着の信仰には、ミヤの世界で言うところの来世という概念がある。

 ティーガ王が最後そう伝えた程に、オルハは哀れだった。

 

「そんな……」

 

 処刑は滞りなく執行された。

 原因不明の吸収能力を考慮し、贄のように血や素材を再利用される事はなかった。

 長らく使われる事のなかったグロシュリウスの地下牢で、敵であるティーガ王の冷たい視線を受けながら、オルハは寂しくこと切れた。


「にゃあん」

「……ん?」


 刑の執行のため最小限の人員しかいないはずの地下牢で、どこからかから猫の無き声が聞こえた。


 * * *


「オルハの処刑完了通達完了いたしました」

「よし、騎士団長へ侵攻開始を伝えろ。

 大々的に結界を破壊し、鎮圧行為は最低限で済ませるように」

「はっ」


 伝令の騎士はすぐさま折り返し戦場へ向かっていった。

 数時間後には、デザリアの醜く脆い結界が壊され始めるだろう。


「いよいよですね……」

「だが、懸念材料もあってな」


 感慨深そうなロッゾに対し、ティーガは執務机に小さな硝子のケースを置いた。

 中には小指の第一関節程の石が収められている。

 

「オルハは死体になった後も、触れた者の竜力や魔力を吸収していた。

 ……その理由が、これだ」


 石は血を思わせる淀んだ赤色で、棘のような形をしている。

 

「首に無理やり埋め込まれてた。

 どういう仕組みかはまだまだ解析中だが、1つわかる事は……

 デザリアはオルハの癇癪を織り込み済みで交換要求を出して来た事になる」


 この石のおかげで、相手に触れたただけで身体中の魔力と竜力を吸い取り、自分の力として使役できるようになっていた。

 現在分かっているのはそれだけだ。

 グロシュリウスの研究所は、大陸全土でも竜力や魔力に関して特に造詣が深い。それでも原理の解明に手こずる程、石に仕組まれた技術は複雑で難解だった。

 そして、弱り切っているデザリアと神竜教が、何故このようなやけくそにも思える一手を打ったのか。

 

「……嫌な奴思い出しちまった」


 情報を重ねて、ティーガはふとある人物を思い出した。

 内政や人間に興味はなく、己が知識欲のままに動く化け物。柔和な笑顔を浮かべつつ非道な実験を行う外道。

 

「大神官ウィゼル……生きていたか」


 かつての敗戦国グロシュリウスの民に竜力の実験を行った首謀者であり、現在は神竜教の大神官。

 神竜教を統べる者だ。

 ティーガとロッゾは、その知識欲の餌食になりかけ、後遺症の病に苦しめられてきた。


「確実に備えておいた方が良いでしょう」

 

 二人は同じ人物を思い浮かべながら、頷いた。

 デザリアが攻め込まれ、贄制度を打ち出した時も静かにしていた彼が、とうとう動き出した。

 ただし、ウィゼルはデザリアのために動くのではなく、自分のために動くのだろう。


(本気でミヤを取り返しに来るか……それとも……)


 行動は、全く読めない。

 だが、彼が動けばグロシュリウス、デザリア双方に影響が出る事だけは確定している。

 ティーガは最大限に警戒を強め、ミヤの護衛強化を考える事にした。

 加えて、喧嘩が尾を引いて気まずい空気を何とかしたい件も、並行して考え始めた。

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