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5話:鼠の反乱

「この状態はオルハの仕業か?」

「はい。魔力や竜力を吸い取って、自分の力として振るっているようです……

 原理は、わかりません。牢番たちを吹っ飛ばすくらい……強力な……」


 リンカは簡潔にオルハ逃走までの経緯と注意事項を説明した。

 オルハの身体に触れてしまった事で魔力を吸い取られと思われるが、条件は未知数である事。封印をもろともせず、吸い取った力をそのまま行使していた事。

 兵士たちは命に別状はないものの、その場から動けなくなる程衰弱してしまった事。

 今のオルハが危険である事は、充分理解できた。

 

「ありがとう。リンカはミヤと共に避難を。

 扉や壁が分厚い医務室へ非戦闘員を避難させはじめているだろうから、ミヤとリンカも向かえ」


 多少顔色が良くなったとはいえ、リンカには治療が必要だ。

 自分の避難も含め、医務室へ向かうのが最適解だろうと、ミヤは気合を入れた。


「わかりました。リンカさん、失礼しますね」


 対格差があり、リンカを背負う事は難しいが、肩を貸すくらいならできる。

 ミヤはよろめくリンカを支える形で、運ぶ準備をする。

 

『王国騎士団に告ぐ!

 ()()()オルハを至急捕縛せよ!

 既に厨房係リンカや牢番数名に重傷を負わせている。生死は問わない!』


 その間にティーガは魔法で音声を拡張させ、王城全体に指示を行き渡らせた。

 オルハにも聞こえるようわざと城内放送の体を取り、プレッシャーをかけていく。

 

「……よし、これでクイシャが死に物狂いで仕留めにかかるだろうから、時間の問題だ」

「そうですか……?」

 

 吸い取り能力は厄介だが、クイシャならやれる。

 それだけ圧倒的な武であり、予想外の戦場でも立ちまわるだけ戦慣れしているのだろう。

 その上、親友を傷つけられたのだ。

 どす黒い殺気を背負ってオルハを追い詰めていくクイシャの絵面はホラー映画のようだと、ミヤは想像して身震いした。


「ティーガは……」

「俺はここで指示を飛ばす。移動しない方が良い」


 オルハは元々ミヤの代わりに送り込まれている。

 情報が少ない現在でも、王に要求を通そうとするか、ミヤに復讐をしに来るかの懸念がある。

 勢いのままどちらかへ向かってきた場合、ティーガが直接確保するつもりのようだ。


「で、でも竜力を吸い取られたら、発作は……」

「俺の場合は問題ない。むしろ喰らった上で仕留められるなら重畳だろ」

「どこがですか⁉︎」


 確かにティーガなら、発作を起こしても食欲で凶暴になるだけかもしれない。

 だがそれでもと、ミヤは首を振る。


「なるべく苦しんでほしくありません……

 竜力や魔力を吸い取られるようでしたら、魔力切れの症状も出ます」

 

 肉を切らせて骨を切るような真似はして欲しくなかった。

 ティーガやティーガが強いからまかり通ってきた事だろうが、ミヤの私情としては怪我や苦しみ無く終わって欲しいと思った。

 

「……お前の気持ちはわかったよ、叶わねぇな」


 ティーガは、困ったように笑う。気を張り詰めなければならないが、嬉しくてたまらない。

 ミヤの頭をさらりと撫でて、一度気持ちを落ち着けるように深呼吸をした。

 

「はぁ……騎士たちが片付けてくれるようなら任せる。率先して前には出ない。

 だが、オルハの行動が読めない以上、医務室から離れていないここにいる。

 クイシャは騎士の義務を果たすだけだし、リンカを傷つけられたから恐らく率先して動く。

 安全第一である」

「……わかりました。どうかご無事で」

 

 行動方針が決まりいよいよ動くというところだったが、突如ドォンという音が地響きを伴って異世界厨房に響いた。

 

「ま、まさか、城を壊して……?」

「街に出ねぇだけありがたいと思っておくか」


 城の最上階あたりでの爆発だろうと推測し、更に懸念点は増えていく。


(オルハさんは何をしようとしているの……?)


 確かな事は、グロシュリウスに危害を加えようとしている事だけ。

 震源に行けばオルハは簡単に見つかるだろう。なるべく早く確保される事を祈るのみだ。


「ともかく急ぎ医務室へ向かいます」

「頼む。指示があれば飛ばす」


 今できる自分のやるべき事をやろうと、ミヤは医務室へ向かった。

 幸いにも階段の上り下りはなく、廊下を渡り切れば医務室だ。リンカのふらつきはあるが肩を貸すだけでしっかり歩けている。


(急がなきゃ――)

 

 しかし、突如進行方向の天井が崩れ落ち、衝撃と粉塵で立ち止まってしまった。


「は、離れて……」

「リンカさん無茶は駄目です!」


 ミヤはリンカがふらふらの状態で盾になろうとするのを止め、どうすれば良いか思考を巡らせる。

 ただ天井が崩れてきただけなら、壁伝いに行けば瓦礫を避けていける。万が一更に天井が崩れても当たる確率は少ないはずだ。

 ミヤはともかく前進しようと決めたが、天井と共に落ちて来た人影を確認して、血の気が引いてしまう。

 

「ロッゾさん⁉︎」

「ミヤ様……⁉︎ 来てはいけません……」


 そこには、息を荒げてぐったりと動けなくなっているロッゾ。

 そして、彼に跨り恍惚とした表情のオルハがいた。


「あら、あらぁ……随分とまぁ苦しそうねぇ」


 ロッゾの胸倉を掴んで、端正な顔を覗き込む。

 充分堪能した後愛おしげに目を細め、熱の籠ったため息を吐く。

 

「お婿さんは何人いてもいいわ……綺麗な顔だから、いるだけで華やかになるわね」


 ミヤやリンカの存在に気付かず、空想と現実の区別がついていないような発言を呟いている。

 浮かべている笑顔も、口が裂けてしまいそうな程つり上がり、背筋がぞわりとするような異様な雰囲気だ。

 ロッゾの方も脱力しているが頬は上気し、悩まし気な顔をしている。

 

(だめだ、ロッゾさん発作も……!)


 魔力切れと発作の同時発症。

 今さっき話していた懸念が、目の前で起こってしまっていた。

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