番外編2:リンカの隠し事
※薄くですがGL要素がございます。
厨房係のリンカは、元々王国騎士団の騎士だった。
かつての肩書は、王国騎士団の団長補佐。
グロシュリウス王国屈指の女傑と名高い騎士団長クイシャの、側近のような立場だった。
クイシャとは幼いころから共にあり、親友でもあった。
リンカは、一族と国の未来を背負い戦うクイシャの、様々な顔を知っていた。
凛々しい騎士の顔も、一族の長たる威厳ある顔も。
喜劇を見て笑い、美味しいものを食べてはしゃぐ少女の顔も、一緒にいたから知っている。
だからこそ、リンカは戦場にいられなくなった。
「クイシャちゃん。最近の調子はどう?」
「問題ない。滞りなく侵攻準備が進んでいる。そちらは?」
「特に何も……ミヤ様からカレーのアレンジレシピ教わったくらいかな」
休憩時間の厨房に、リンカとクイシャの2人きり。
お互いが暇な時は厨房に集まりお茶する事が恒例となっている。
仕事の話に食べ物の話、お互いの近況や噂話まで広く薄く共有するだけの、大切な時間だ。
「……お前は、もう騎士に戻る気はないのか?」
これは、毎回クイシャから出てくる話題だ。
決まってリンカは苦笑いしつつ別の話題にすり替える。
だが、今日は少し違っていた。
「うん。アタシね、向いてないなって思ったの」
リンカはカップの中で揺れる茶を眺めながら、ゆっくりと自分の気持ちを言葉にした。
「デザリアに攻め込んだ時覚えてる?
クイシャちゃんがいっぱい敵を倒して、もう、大活躍した時の」
「あぁ」
「でも同じだけボロボロになってたの見て、それでも戦おうとするクイシャちゃんを見て……
もう、耐えられなかった」
病に任せて敵を屠り、血に塗れ雄たけびを上げるクイシャは、物語に出て来る鬼か悪魔のようだった。
槍を振るっている内に無くしてしまいそうな程ボロボロな四肢に、壊れかけの鎧から見える無数の傷。
「槍を握ってるクイシャちゃんもかっこよくて好き……
でも、まったりしている時のクイシャちゃんの方が大好きなの」
幼い時から一緒にいた自分だけが知っている顔だと、リンカは自負している。
厳しい訓練の中で、ふと見せる穏やかな笑顔や、幸せそうに夢を語るクイシャはとても眩しかった。
そんな、綺麗で可愛らしかった大切な幼馴染が、戦いの中で壊れていく。
血と泥に汚れ、苛烈に戦いながら、文字通り身を削っていた。
リンカは悲鳴を上げたいのを堪えて付き従ったが、結局は自分の心に負け、ボロボロのクイシャを自陣へ連れて帰った。
「勝手でごめんね」
「いや……勝手じゃない。あの時は、本当にすまなかった」
クイシャは、何度目かの謝罪をした。
助けられ、意識を失い、次にクイシャが目を覚ました時、リンカは未だかつてない程泣き喚いていた。
語彙はないがありったけの怒りを込めた罵声と安堵の言葉を浴び、騎士にあるまじき愚かな行為だったと、クイシャの中でもしっかり認識できていた。
「うん、だからね、お城でクイシャちゃんを待ってる事にしたの。
帰って来なかったらそれはもう更に泣くし、喚くよ」
あの時の比じゃないよとリンカが笑えば、クイシャも苦笑を零す。
「それは、困る。もう泣かせたくない」
「じゃあ、ちゃんと帰って来て?
アタシだけじゃなく、月の民みんなが泣くよきっと」
「善処……いや、必ず果たそう」
2人は目を合わせ、頷き合った。
この短くも心安らぐ時間を、この先も過ごすための約束だ。
「また仕事でこんな事があったんだよって、ご飯食べながら教えて?
アタシ、料理上手くなったんだよ?」
「元から上手いだろ」
「もっとだよ」
お茶はすぐに無くなってしまう。お代わりを貰う事なくクイシャは席を立った。
少しだけ緩めていた襟首を正し、仕事への体裁を整える。
「……クイシャちゃんは、ミヤ様をまだお嫁さんにしたい?」
騎士の顔に戻りつつあるクイシャに、リンカは最後に1つだけ質問を投げた。
「彼女はもうティーガ王の妃だ」
振り返って淀みなくそう答えてみせたクイシャに、リンカは微笑む。
「そうなんだ……」
よかった。
最後思った言葉をゆるりと飲み込んで、リンカはクイシャを見送った。




