13話:共に守る約束と平穏
料理決闘の後、ミヤは即座に医務室へ運ばれ、処置を受けた。
(とても懐かしい夢を見た気がする)
カレーのおかげか夢見も良く、スッキリとした目覚めだったが、最初に目に飛び込んできたのは仰天するティーガ。
「お前っ! 大丈夫なのか⁉︎」
「だ、大丈夫も何も、スッキリ……」
「3日意識が戻らなかったんだぞ」
「えっ」
ミヤの体感としては数時間も経っていなかったが、そんな事はなかったらしい。
確かに医務室の窓から見下ろせる景色は、いつもの城下街だ。
「お祭り、終わってる……?」
「とっくにな」
「か、カレーは……」
「先にカレーの心配かよ」
口を突いて出てしまうくらいには、あのカレーは衝撃的だった。
レトルトのルーにパックの米だとしても、ミヤにとっては一番と言って良い程美味しく、心に響いた。
「元気になったのならそれでいい」
よく見れば、ティーガの目の下には隅ができていた。
寝る間を惜しんで看病してくれたのだろうかと、ミヤはハッとする。
「……すみません。ご心配をおかけしました」
「別に良い。やりたくてやった事だ」
ティーガが少しだけ距離を詰めて来た。
丸椅子を、ミヤの手を取れる位置までずらすだけ。かつてのように強引ではない。
「お前を伴侶として迎え入れるって宣言は覚えているか?」
「……はい」
ミヤは丁度それを聞き取って意識を手放した。
今になってじわじわと頬に熱が集まって来る。全く悪い気はしない上、むしろ今は嬉しいくらいだ。
ふと、言わなければいけない事があったと、ミヤは思い出す。
「ありがとうございます……私の気持ちに寄り添ってくれて」
「……おう」
「本当に嬉しかったんです。政治の事があるって念頭に置いても、浮かれてしまう程には本当に」
「……」
ミヤはティーガの手に自分から触れに行った。剣を握って来た硬い皮膚を撫で、包むように触れた。
これだけ自分の気持ちに応えてくれたのだから、次は自分の番だ。
まだ言うべき事は終わっていない。
「伴侶……改めまして、何卒よろしくお願いいたします」
思うまま、心から湧き出て来る気持ちを、ミヤはティーガへ伝えた。
「……抱きしめても?」
「……お手柔らかに」
ゆっくりと、病み上がりの身体を労わるように、ティーガの腕がミヤを収める。
照れと幸せとで心臓が破裂しそうなミヤだったが、ここで逃げてはいけないと、ティーガの胸に寄りかかる。
(あぁ……ティーガ様も)
心臓が大きな音を立てている。自分と同じなのだと、肩の力が抜けていく。
「これから先も、落とし子や俺の妃という立場上、山のような困難に対面するだろう。
だが、俺がお前を守る。共に歩み、打ち払う」
とても心強い言葉が降って来た。
誰かと関わることはあれど、ずっと孤独だったミヤにとっては、何よりも嬉しい言葉だった。
「私も、ティーガを守れるよう努めます」
守られるだけでは不公平だと、ミヤはしっかりと返事をした。
もしも自分の竜力や立場が武器となるのなら、いくらでも武器にして、困難へ立ち向かう。
その覚悟は、自然と出来ていた。
良い空気だったが、突如ティーガがミヤの肩を掴み、距離とをって顔を覗き込んでくる。
「呼び……捨て……」
「一応、そろそろ呼び捨てる努力をしてみようかと……」
ティーガは、さらりと混ぜ込んだミヤの挑戦を、耳聡く聞き取っていた。
これはミヤなりの意思表示であり、好意の証なのだと、ティーガは噛み締めているようだった。
「……キスしていいか?」
「そ、それはちょっと!」
「何でだよ」
不服そうだが、それでもティーガは強引な事はしなかった。
ミヤの顔はトマトのように真っ赤に染まり、既にティーガと目を合わせる事ができなくなっている。
「ティーガさ……ティーガと違って、私は恋愛事に全然慣れてないんです。
距離の近いスキンシップにも慣れてないですし……殆どティーガ様が初めてですし……」
正直、以前の経口での竜力接種のキスも、全くついて行けなかった。
あんなにも濃厚なキスのは初めてだった上、とてつもない羞恥心でどうにかなってしまいそうだった。
情けない話だが、ミヤとしては段階を踏んで慣らして行って欲しい。
「煽ってんのか」
「え⁉︎」
そう伝えたつもりだったのだが、煽っている判定を受けてしまった。
悩ましくキスしたい欲を抑えるティーガが深いため息を付いていると、医務室にロッゾがやって来た。
「王、少しはお休みください」
「……仕事はやってるから好きにさせろ」
「限度があります。もう3日寝てないでしょう」
「えっ、寝てない……?」
寝る間を惜しんで看病してくれたのだろうとは思っていたが、予想以上だった。
「ロッゾさん、ティーガ様にはすぐにでも休んで頂きたいです」
「お、おい、ミヤ」
「勿論です」
心配してくれるのはありがたいが、自分の身も大事にして欲しい。
王が寝不足で倒れるような事があっては困ると、ミヤはロッゾと目配せした。
「そういえば、ミヤ様のおかげで、部族間の新しい争いは落ち着きましたよ。
よくあの場での最善を見出せましたね」
「よかった……」
「クイシャ様も、折を見てお見舞いにいらっしゃるそうです」
不格好でも、多少奇妙でも、あの場で行動できてよかったとミヤは安堵した。
自分の存在が立てた波風だったというのもあり、安心の度合いは一入だった。
そして、クイシャともゆっくり会話できそうな機会が出来て良かったと思う。
「ミヤ、良くなったらまた食事を頼む」
「はい、なるべく早く異世界厨房に行けるようがんばります」
連行されていくティーガを笑顔で見送り、ミヤはゆっくりと穏やかな空気を肺一杯に吸い込んだ。
その後数日は安静という事になったが、自室へ戻れるようになるまで退屈はしなかった。
クイシャとリンカが謝罪に来て、カレーを差し入れてくれた。
医務室がカレー臭くなり、城医たちに揃って怒られた。
勇者様万歳商会の開発したレトルトカレーが、城下町で大人気であるというニュースを、見舞いに来たダスクから聞いた。
(やっぱり平和が一番……)
ミヤは、穏やかで和やかな日々を噛み締めつつ、英気を養っていった。
治ったら予定通り、決闘に勝ったティーガに対して、ちょっとしたお祝いも準備しようとも考える。
(……あ、そういえば、もうそろそろ【竜宝祭】やってるのかな)
そんな中、もうじきデザリアで開かれる祭りの事を、少しだけ思い出した。
次回、一方そのころデザリアです。




