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10話:祭までの道のり

 ティーガは心を入れ替えてミヤを見つめ、判断し始めた。

 誰かのため、しかもそれが自分の好きな相手のためならば、王は無敵である。

 ダスクはそう断じた。


「だって、とても仲が悪かった2つの部族を纏め上げ、今の状態まで引っ張って来た王ですよ?」


 カリスマ性がありながら、爽やかで気さくな太陽のような王。

 まだまだ勉強は足りないが、ティーガの有能さは、今までの交流だけでも充分理解できる。


「そう……ですよね」


 ミヤはじんわりと言葉を噛み締めながら頷いた。

 あとは大丈夫そうだと、ミヤはダスクにお礼を伝えつつ、いくつか故郷の食材を買った。


「ティーガ様が勝ったら、これでお祝いしようと思います」

「とても素敵です。きっとお喜びになられますよ」


 そうだと良いと願いつつ、ミヤはこそばゆそうにはにかんだ。


 * * *


 5日の猶予はあっという間にすぎていった。


 グロッソ族の歴史書とユリス族の歴史書。加えてグロシュリウスの土地に纏わる他国視点の歴史書。更に、グロシュリウス王国成立後の記録。

 猶予期間の間、ミヤはずっと読み耽った。

 特に王国成立の記録は、ティーガやクイシャの置かれた状況を理解するのに必要だと時間をかけた。


(読めば読むほど、争いは起きない方がいい)


 ティーガが実験やデザリア支配の被害者を纏め上げ、ここまで王国を強くした。

 きっかけこそデザリアと神竜教への憎悪だったが、2つの部族が共存できているこの状態は維持されるべきだ。

 ミヤは改めて認識を固めていく。


「どうすれば良いだろうね」

「んなぁん?」


 すっかり部屋になじんだ白猫に尋ねてみれば、気の抜けた鳴き声が帰って来た。

 長年の遺恨と向き合うのは難しい。

 ほぼ部外者で、争いの火種になっている自分が烏滸がましいのかもしれない。

 弱腰になりかけたが、自分が争いの火種なら自分で消す努力をしなければとも思う。


 ――今、私に出来る事を、1つ1つこなすしかない。


 ミヤは気合を入れていつもの制服に着替え、祭りの会場へ向かう。


(街に出るのは初めてだなぁ……)


 大聖堂でのほぼ軟禁生活に慣れてしまったせいか、城から出るという発想が全く湧かなかった。

 一応竜の使いというデザリアと神竜教での立場もあり、出かけ辛かったのもある。

 久しぶりの外歩きの機会を楽しんでみようと思って、馬車の送迎は断った。


「ミヤ様! 早速ですが参りましょう!」


 その代わり護衛も兼ねて、リンカが付き添ってくれる事になった。

 クイシャ側が忙しかったのか、リンカと会うのもかなり久しぶりだ。

 いつも通り明るく元気で、ほっこりとした。

 決闘まで、まだある程度時間の余裕があるが、早めに行って待機するに越したことはない。


「わぁ……」


 王城の建っている高地を下っていく最中、華やかに飾り付けられていた城下町に圧倒される。

 小さな祭りと聞いていたが、城下町全体で色とりどりの屋台がひしめき、活気に満ち溢れている様子が見えた。


「ごめんなさい、今日はクイシャちゃん側で……」

「ちゃ、ちゃん?」

「子供のころから長い付き合いなんです」


 リンカとクイシャは、所謂幼馴染の関係らしい。

 丁度デザリアへ贄を要求するようになった辺りまでは、クイシャ率いる騎士団に所属し、隣で剣を振るっていたという。


「デザリアには酷い事されたんですけどね……それ以上にクイシャちゃんがボロボロになる姿を見てられなかったです」


 病で荒ぶる感情の赴くまま、身がボロボロになるまで戦う幼馴染。

 無理やり気絶させて自陣へ連れて帰ったのは、共に前線にいたリンカだったという。


「勝負は勝負なので全力を尽くしますが、良い感じに終われば何でもいいですっ」


 勝っても負けても、血の流れるような争いでなければ良い。

 リンカは困ったような笑顔に釣られて、ミヤも笑みを浮かべた。


「私もそう思います」

「よかったぁ……無事に終われたら、クイシャちゃんにもミヤ様のご飯食べてみてほしいです」

「はい。政治の事は気にせず……あとティーガ様の出禁は気にせず、遊びに来て欲しいです」

「出禁になってるんですね⁉︎」


 会話が弾むと、時間はあっという間に過ぎ去っていく。もう会場についてしまった。

 中央には様々な食材の並べられた野外厨房が2組。まだティーガやクイシャの姿は無い。


「人が、すごい……」


 会場の周囲は、既に見物客で賑わっていた。

 小さな祭りとはいえ王と騎士団長の決闘。グロシュリウスの有名人を一目見ようと集まって来たのだろう。

 突如開催が決まった祭りだったが、皆しっかりと空気を楽しんでいる様子だ。


「じゃあミヤ様! また後程」

「リンカさんも、頑張ってください!」


 ロッゾから案内を頼まれたであろう使用人がやって来たため、リンカとは別行動となった。

 裏手に通され、審査席へ向かえば、既に自分以外の審査員は席についてた。その中央にはミヤ。両サイドには両派閥が用意した審査員が数名着席していた。


「これより友好祭、料理決闘を開始する!」


 見物客の熱気が一気に沸き立ち、歓声と共にティーガとクイシャが姿を現した。

 魔法で花びらが舞い、光が輝く。それを見てミヤは、故郷で見たオーディション番組をふと思い出した。


「グロシュリウス王国を支える2部族の、平和と共存を願う。

 ……ま、堅苦しいのは程々に、楽しんでってくれよな!」


 ティーガが見物客へ爽やかな笑みを向けると、一際大きな歓声が上がった。

 クイシャは反対側の厨房で不適に微笑むだけだが、その美貌に感嘆を零す民もちらほら見受けられた。


「あ、あれは……!」


 続けて助っ人の登場になった際、ミヤは椅子から転げ落ちそうになってしまった。

 ロッゾが、懐かしくも物凄く見慣れた箱を抱え現れたのだ。


(段ボール……!)


 書かれた商品名はわからないが、恐らくはミヤの故郷の食品であろう。

 ティーガの言う勝算の意味が、漸くハッキリと理解できた気がした。


(で、でも、一体何を作るつもりなの……?)


 恐らくは常温でも保管できるレトルト食品だろうが、本職の料理人であるリンカや、クイシャが作る料理に敵うようなものなのか。

 ミヤは胸元で手を握りしめ、余裕を振りまくティーガを見守る事しかできなかった。

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