第一章 prologue
ここからが第一章。prologueをお楽しみくださいませ。
これは始まりを告げる一つの点にすぎない。
時は過ぎ、彼の神秘の時代は、魔法と未知、揺らぐ理の支配する時代は終わった、終わってしまった。
・・・そのはずだった。
遥か昔、彼方に過ぎし刻より存在してきた神秘の顕現の象徴ともいえる魔法使い、或いは魔女。奇蹟ともいえる領域に踏み込んだ、そのひとりの魔法使いがその御業によって世界の理を歪にねじ曲げるまでは。
魔法使いは騙る。
「人ってさ、自分のところからしか識らないし、知ろうとしないし、他者のことなんて想像でしか解ろうともしない」
魔法使いの愛弟子は尋ねる。
「じゃあ、ししょー。人の認識は間違っているってこと?」
魔法使いは語る。
「いいや。誰しもが歪んでいるってだけさ」
ため息に似た、ある種の悟った音が虚空に響く。
「絶対的な"解"なんてありはしないんだから」
それでも魔法使いは告げる。
ーーそれでも、"命題"に"解"が正しいか確かめられなくたって、忘れずに掴み続けることはできる。
愛弟子は訪ねる。
「師匠。どうして、選択を選んだのですか」
その声に応えようとして、口を開く。開こうとする。重くなってしまった唇を開けて、声を上げようとする。しかしいつまで経っても音が意味を結ぶことはない。
次第に苦しくなり、呼吸が荒れる。視界が暗くなる。ただそれでも声だけは責めるように木霊し続ける。
せめてなにかを伝えようと手を伸ばしーー
ーー目を覚ます。
寝覚めたとき特有の倦怠感が無視されて、魔法使いに覚醒をもたらす。
「はあっ、はあっ、はあっ・・・」
暴れる心臓と肺の、次いで血流の騒音と振動の中で、今の幻覚を回想する。
愛すべき弟子に限って、と考えてしまいたくなる。いや、"あの"弟子ならば、とも考えてしまう。彼ならば夢の住人として出てくるだろう、と。
「…まったく、君はまだ目覚めていないのか」
よくできた弟子の、数少ない…いや意外とあるかもしれない瑕にあたる性質に思考を巡らす。
まだ彼を送り出して数日であることを思いだし、それもそうかと納得させられる。
君には目覚めてもらわなければ。たとえどれほどの茨が君を突き刺すとしても。
ーーただし願わくば、君を、偽りなく識ってくれる隣人が、君のそばにありますように。
まぁ、あの封都の、あの学院ならば心配は不要だと思う。
…まぁ、でも? 親代わりの身としてはなんだか心配事であることにはかぎりなく、やっぱり不安である。所謂、マトモな人生を歩ませたとは言えない彼である。
…その原因はほぼ確実に己にあるけれど。
そうしてふと気づく。
「…あ」
入学祝いと称してーー決してたまには労いの贈り物を渡そうと思ったわけではない、ないのだがーー用意した"それ"が、未だ部屋に残っている。
いやはや歳は取りたくないものだ。
「さて、船に置きにいくよりは、直接封都まで送ってしまうか」
だが、考えてほしい。多くの神秘が姿を表舞台から消した現代。魔法使いの配達方法が一般的なそれに当てはまるか。
そして当然のように魔法を、奇蹟の御業を行使する。
万物の源とも呼ばれる水を虚空から生み出し、指の一振りで勇魚へと転じさせる。
クォーーン、という鳴き声を幻聴させた勇魚は"贈り物を受け取り、高濃度の魔力によって翡翠色に透き通る体内に保管すると、如何なる理によってか空へと浮き上がる。
そうしてこの星の七割を占める大海へと、潜航していった。ただ、主の願う指令を果たすために。
たがしかし、もう一度考えてほしい。果たして現代において斯様な魔法による空想的な生物が現れればどうなるか。
勇魚が運ぶのが贈り物だけでなく、ちょっとした騒動になるのはもう少し後の話。
これは"解"を探しに往く物語。
多くの旅、その一つの旅路が夜空に軌跡を残す流星の如く、輝きを放ち始めるのだ。
忘れようがない、いつしか忘れられる旅路が。
再度お伝えしますが、本作は現代が舞台です。まだエピローグなので、次回から始まる第一章本編からが本番です。次回から本格的に主人公登場です。
長編になると思いますが、完結まで読了、お付き合いしていただけると幸いです。
更新頻度については未定ですが、作品内部と現実と時間をリンクさせて書いてゆければ、と考えています(できるとは言っていない、ここ大事)。
<予定>
次回:第一章 01.宵拵えは杖になりうるか
00/00.00:00 投稿予定