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春暁ペナルティ1

 文芸部でも数少ない活動している部員である不二が部室の扉を開くと、そこにはいつも通り部長である新田が先に来ていた。

 それだけならまさにいつも通り、特筆することなどなにもない。

 むしろ彼女が不二より遅くきたことなど一度もないし、不二が部室を訪れたときに居なかったことだって一度もない。

 確かに三年生の教室は二年生の教室よりも文芸部室に近いのだが、それにしたところでこの一年以上ただの一度も例外はないのだから、これは特筆に値するのではないだろうか。


 閑話休題。


「こんにちわー」


 いつも通りの挨拶をしながら部室に入った不二に対して、新田の返事はない。普段なら挨拶を欠かすひとではないのだけれど、と不思議に思いつつ扉を閉める。


 窓際一番後ろの席に横座りした彼女は半開きにした窓枠にもたれかかって脱力していた。どうやら読書しながらうたた寝してしまったようで、読みかけの本は開かれたまま机の上に置かれ無意識にか左手で抑えたままになっている。


「いい陽気だから眠くなるのもわかりますけどねえ。先輩、せーんーぱーいー」


 不二は手近な机にかばんを置くと正面に立って声をかけてみた。しかし返事はもちろん、起きる気配もない。聞こえるのは小さな寝息ばかりだ。


「いくらひとの出入りがないからって、不用心だなぁ」


 若干の戸惑いを覚えたもののこんな機会は滅多にない。日頃傍若無人な先輩の無防備な姿でも観察して過ごそうと思い立ち、不二はその場にしゃがみ込むと自分の膝に頬杖をついて彼女を見上げた。

 窓から吹き込むそよ風に揺れる髪、僅かにずれた眼鏡。今までじっくりと見る機会は無かったのだが、まつ毛は長くて多いほうだ。

 いつもならやたらと眼力(めぢから)があってじっと見ることは憚られるけれど、それも閉じられている今は穏やかそのもの。

 緩んだ口元、小さなくちびるは薄っすらと濡れて…と言えば聞こえもいいがはっきり言えば少しよだれが垂れかかっている。

 さらけ出された白い首筋とわずかに乱れて掛かる髪のコントラストがなんだか妙に扇情的で、無意識に生唾を飲み込んだ。


「僕もいちおう男の子なんですけどねぇ」


 言い訳のように小声で呟きながら視線を下ろしていく。

 窓枠と椅子の背もたれに身体を預けた姿勢から脱力しているため、制服がところどころ引き吊れていつもは隠されている女性らしいラインが浮き上がっていた。

 細い首と肩、緩やかながらもしっかりと存在を主張する膨らみを経て線は再びか細く収束していく。

 数センチほど捲れたセーラー服の下にはキャミソールかなにか薄手の肌着を着込んでいるようで、お腹のあたりがちらりと見えていた。

 その密着した薄布から微かに見通せる肌の色彩でも年頃の男子には充分刺激的だ。

 過不足ない年相応のシルエットが寝息に合わせて静かに上下しているさまを見ているだけで、鼓動が高鳴り息が浅くなるのを感じる。


「早く起きて、くださいよー……」


 言葉の中身とは裏腹に小さな声で呼びかけながらさらに視線を下げていくと、上着と同じようにやや捲れ上がったスカートの裾から露わになっているひざと太ももに目が釘付けになる。

 普段は隠れて視界に入ることのない柔らかそうな肢体。いつもならしっかりと組まれている鉄壁の両足は、今目の前でひっそりと誘うように緩く内股に開かれている。

 あとほんの少し姿勢を下げればその奥に隠された、おそらく今を逃せば永遠に知る機会のない秘密を垣間見られる。そんな気の迷い、いや想いが不二の心に沸き上がった。

 自分の欲望のために今まで積み上げてきたもの全てを賭けるつもりか? たとえ先輩に気付かれずともやってしまった時点で自分で打ち崩して捨ててしまったも同然だぞ?良心がそれ以上踏み込むことを制止する。

 それに対して煩悩がささやく。ここで行動しなけりゃ漢じゃねぇぞ。びびってないでガツンといったれ! だいたいオマエと先輩との関係ってそんな清く正しく仰々しいモンかよ!


 葛 藤 終 了


 その間わずかコンマ二秒。反乱上等下剋上、チャンスがあれば許される。いや、許されないけど怒らない。先輩はそういうひとだ。

 というわけでいざゆかん秘密の花園へ! 不二が背を丸めて頭を下げかけた刹那。


 視界を下から上に影が掠めた。


 掠めた影を境に視界に映っていた景色が一瞬で刷新され、同時に鼻先に強い熱を感じる。

 力いっぱい振り上げられた新田の右足の上履きの裏が自分の鼻の頭を擦り上げていったことを理解するまでたっぷり一秒。


「あっつぁぁぁあっ!?」


 不二が摩擦に悲鳴を上げて鼻を抑えうずくまるのと、新田が振り上げた足をそのまま音でも聞こえそうなくらい鋭く組むのがほぼ同時だった。


「ははは、まあ不二くんも男の子だからなぁ」


 恐る恐る見上げると、満面に薄っぺらな笑みを貼り付けた新田が見下ろしていた。

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