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ワクワク文化祭レビュー:後編3

「恋愛悲劇とはなんだったのか。新訳とか斬新な解釈じゃなくて完全に有名作品のパロディバラエティだった。悪く言えば原作を流し読みしただけのタイトルにあやかりたい脚本家が作った実写映画のような酷い内容だったが、まあ、面白いかつまらないかだけで言えば面白かったよ」


「適当な理由を付けて有志の参加者に肉体系バラエティを強いる、ある意味文化祭的な舞台でしたね。一番やる気の見えないメイド長が一番出番が長かった気がします。あとろみおのがいねんがみだれる」


 ふたりは演劇の終わった体育館を後にして図書室で行われているメイドカフェへとやってきた。

 なかなか盛況だけれども並びがあるわけでもなく入ってしまえば席を空けろと急かされもしないようなので快適そうだ。

 メイドカフェとはいえその服装はミニスカートや胸を強調したものではなく、露出の少ないクラシックスタイルだった。元が図書室なこともあって店内は静かな雰囲気を保っている。


「もうちょっときゃいきゃいした感じの出し物かと思ったけどなんか別の意味で本格的だねえ」


「そうですね。でもまあ良かったんじゃないですか?先に回った出し物がアレとアレでしたし……」


「ああ……それもそうだね」


 プロレス同好会と演劇部の出し物を思い出して生ぬるい笑みを浮かべる新田。

 そこへ大きな人影がやってきてコーヒーとケーキをテーブルに並べる。


「お待たせしました。ホットコーヒーといちじくのチーズムースです」


「ありがとう」


 そういえば図書委員にはやたらと背の高い女子がいたけど、こんな野太い声だっけ? と思って視線を向けると、そこには女子ではなく、熊のような巨体の男子生徒がメイド服を着て立っていた。

 あまりのビジュアルに思わず噴き出すふたり。


「ははは、これは、ああ、すまない、はは、そういえばキミも図書委員だったね、いやあははは」


「新田さんさぁ、ちょっと笑い過ぎだって。気持ちはわかるけどさぁ」


 爆笑する新田にメイド男子がおっとりと抗議する。


「すまないね、は、は、ちょっとあまりにもインパクトがあったものだから」


「いやぁ俺は反対したんだけどね?」


 大きな肩をすくめて視線を向けた先には彼ほどではないにせよ周りから頭ひとつ身長の抜きん出た女子生徒の姿。最近彼と付き合っていると噂になっている二年生だ。


「絶対メイドカフェやりたい一部男子とやるなら男子も全員参加でクラシックスタイルは譲れない女子全員が意地の張り合いで引かなくてさぁ」


「男子は全員じゃないところがミソだね」


「女子はやりたくないわけじゃないってところもね。おかげさまでご覧の有様だよ」


「そりゃあご愁傷様だ」


 同情の笑みを浮かべてコーヒーをひと口啜った新田が目を丸くする。


「これは美味しいな。不二くんも飲んでみたまえ」


「ええ? 珍しいですね」


 先輩普段コーヒーの味なんか話題にしないですよね? そう思いつつ不二もカップに口をつけ、おお、と感嘆を漏らす。


「フタバでもインスタントや缶コーヒーよりはずっと美味しいですけど……もうひとつレベルが上っていうか、詳しくはわかりませんけど、なんか凄いですね」


 ふたりの視線を受けてメイド男子が頷く。


「実は学校近くの個人経営の喫茶店から応援にきてもらってるんだよねえ。プロの味ってやつ。ちなみにケーキ類は家庭部から融通してもらってるよ。うちは本当にメイドが給仕をしてるだけさ」


「家庭部はともかく喫茶店からの応援なんてよく通ったね」


 新田の疑問にメイド男子が声を潜めて答える。


「なんでもそこのウェイトレスさんが事情があって学校に通ったことがないとかでさぁ、イベントの手伝いでもいいから学校の雰囲気を経験させてやりたいってマスターから頼まれてね。生徒会に直談判さ。まあ、事情を話したら生徒会長も快く協力してくれて助かったよ」


「なるほどね。良い話じゃないか」


「そう言ってもらえるとありがたいなぁ。まあそんなわけで俺はまだ仕事もあるから、ごゆっくりどうぞ」


 熊のようなメイド男子が去っていき、改めて落ち着いてコーヒーとケーキを楽しむ。

 聞けばケーキを提供している家庭部にもパティシエ由来の生徒がいるとかなんとか。探せば一芸秀でた人物というのは存外どこにでもいるものである。


「それにしても、だ」


 新田がカップを置いて半笑いで不二の顔を見る。


「なんでしょう?」


 彼は上機嫌でケーキを頬張っている。


「ずいぶんとまあ、機嫌がいいね」


 なにかいいことでもあったのかい? と新田が問うと、彼は少しだけ考えてから着ぐるみパジャマの被り物の頭で頷いた。


「そうですね、先輩の知られざる一面というか、そういうものを見られたので?」


「そんなものあったかな……」


 不可解な顔で首を傾げる新田。


「ありましたよ、梯平先輩とか仲良さそうじゃなかったですか。それに今喋ってた先輩だって」


風巻(かざまき)くんね。彼は読書仲間というか、まあそんなとこだよ」


「梯平先輩は?」


「弓子とは腐れ縁しかない。付き合いだけはそれなりに、それこそあんなチャラチャラした感じになる前からだから結構長いよ。別に仲が良いわけでもないけどね」


 面白くなさそうに言う新田だが、焼きそばパンを買いにいったときにふたりが話すのを見ていた不二には、とてもそうは思えなかった。

 そもそもそれなりに仲のいい自信がある自分でも姓にくん付けでしか呼ばれないのに彼女らはお互い名前を呼び捨てだ。まあ梯平は初対面の不二をいきなり呼び捨てにしていたけれども、新田が誰かを名前で呼んでいるところを見るのは初めてだった。


「そうかなあ。結構似た者同士って言うか」


「それは聞き捨てならないな。あのアバズレと私のどこが似てるって?」


「アバズレっていまどき使いませんよ……行動が奇抜なところとか」


 しばしの間があった。


「わ、私はいつもじゃないし」


 反論が来たが声が震えている。自覚はあるのだろう。


「その辺は細く長くと太く短くの違いと言いますか」


「つまり私のほうが奇抜さでは上だと、そういいたいのかな?」


「あ、いやあそういうわけでは……まああれですよ。腐れ縁も縁のうちです」


 むっとした新田の声色に危険を覚えた不二は慌てて弁明を口にする。


「そういうことを言っていたわけではないと思ったけれども……」


 追及を続けるのかと思いきや、なにか感じるところがあったのか口を閉ざしてコーヒーを啜る新田。

 緊張感がしばしテーブルを支配する。

 少し温くなったコーヒーを飲み干してカップが空になった頃、彼女が再び口を開く。


「まあ、それはそうかも知れないかな。なにぶん長い付き合いだからつい悪し様に言ってしまいがちだけれども」


 そう言って窓の外に向けられた彼女の視線は、とても穏やかなものだった。

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