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その眼鏡獰猛につき1

 あれは入学して間もない頃のこと。新学期の定番行事としてこの学校でもご多分に漏れず生徒を体育館に集めての部活紹介の時間が取られていた。

 運動部のデモンストレーションなどは華やかというよりは騒々しいと感じてしまう新入生、不二の目を引いたのは運動部に比べて迫力で見劣りしがちな文系部の中でもさらにひとつ地味な、ただひとり手ぶらで登壇した女子生徒だった。

 ひとつ結びの三つ編みに規定通りの制服と靴下、紺のフルリムセルフレーム眼鏡の、文学少女という型から直接取り出したような姿だ。


 そこそこ真面目に聞いている不二にとっても文芸部と言えば幽霊部員ばかりの名ばかりの部活というイメージが強くあまり面白い紹介にもならないだろうなと、率直に言ってなんの期待していなかった。

 もちろん周りの生徒も同様でまったく注目を集めていない。

 それどころかこの部の紹介は休憩時間とでも言わんばかりの緩んだ空気が広がりつつあるなか、しかしまったく臆した様子もなく彼女は口を開いた。


「文芸部二年の新田です。新入生の皆さん初めまして。今日は部長不在のため代わりに私が紹介させて貰います」


 これまた型通りの挨拶から始まった紹介だった。のだが。


「ところでキミたちは高校生にもなってひとの話を静かに聞くことも出来ないのかな。そこの後ろを向いて喋っている金髪くんキミのことだぞ。それから三人隣で熱心にスマホ見ているピンク髪ワンレン女子、黙っていればなにをしていても良いわけではないよ」


 突然名指し同然に態度の指摘を始めた先輩生徒に対して場が一瞬で静まり返った。気弱そうとまでは言わずともいかにも大人しそうに見えた女子生徒が不意に剥き出した牙に、新入生はみんな凍り付く。

 逆に当の先輩、新田は薄い笑みを浮かべていた。不敵で、冷笑的な。

 場を見守っている先生方も苦笑いするばかりで黙っているあたり、彼女の気性は周知の事実なのだと知れた。

 新田は満足そうに館内を一望するとマイクを握り直す。


「では続けます。私たち文芸部はみなさんが察している通り大半以上が幽霊部員の、しかしだからこそ静かに読書や創作に打ち込める環境が整っています。もちろん幽霊部員としてとりあえず籍を置きたいというひとも歓迎です。実習棟三階の一番端、文芸部室へ是非どうぞ。以上です」


 実に淡々とした調子で身も蓋もないクラブ紹介を終えて、彼女は静まり返った空気の中を降壇した。

 静寂。今まで合間合間にあった私語を、この時だけは誰も始めようとはしなかった。

 しかしほんの少し余韻の間を置いて、議事進行をしていた生徒会役員がなにごとも無かったように次の紹介を促す。すぐに次の部が出てきて自分たちの紹介を始め、それに伴って空気も元のようにまた緩んでいった。

 それ以降はこれといったアクシデントもなく穏やかに部活紹介は無事終了し、そのころにはほとんどの生徒が文芸部のことなど忘れていた。

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