未知との遭遇:買い物編3
さておき、そうと決まれば行動だ。というわけで颯爽とふたりと別れて数分、彼女は早くも途方に暮れていた。
色、デザイン、流行、たっぷり取られた特売スペースに見渡す限りのありとあらゆる水着。水着。水着である。
普段身に着けるものをほぼ自分で選ばない、年頃の乙女にあるまじきと言っても良いほど無頓着な新田にとってこの空間は余りにも情報過多でどこから手を付けていいのかまったく見当もつかない。
想像力にはそこそこの自信を持つ彼女だったが、衣服に無頓着な性分なものだから当然と言うべきか自分の水着姿などまともに想像したこともなく買いたい水着のイメージが一向に湧いてこない。
というか別に自分では水着が欲しいわけではないので購買意欲そのものが乏しかった。
「これは……埒があかないな」
暫く売り場をウロウロした彼女は、思い切って適当に何点か商品を手に取ると大して確かめもせずに試着室へと向かった。とりあえず着てみればいい。試着はそれこそタダなのだからというわけだ。
「まずは着慣れたデザインのものから行ってみようか」
早速一着身に着けて鏡を覗き込む。
スク水に近い紺色のワンピースタイプ。ハイレグだが装飾は少なく蛍光イエローのラインがウェストから鼠径部にかけて入っているだけのシンプルなタイプ。一言にすると競泳水着だ。なぜ夏の水着フェアで売っているのかわからない。単にデザインが競泳水着に近いだけかもしれないがどちらにせよ新田にはわからない。
自分の印象としては可もなく不可もない。スク水との違いが彼女には理解できなかった。ぶっちゃけこれを着ていくならスク水で良いのではなかろうか。強いて利点を上げるなら水着を買ったと強弁できるくらいか。
可もなく不可もない。とりあえず購入候補としてそっと脇に寄せて次を試着する。
赤黄橙と暖色系の細やかな花柄の布地。形状だけ見れば下着に見えなくもない、ホルターネックのビキニだ。しかし比較的安定感のある下着を愛用している新田としてはお尻周りや胸元の生地の少なさがかなり不安を煽る。
「それに、だ」
鏡の前でむにっとウエストを摘まむ。ひとに恥じるほどではないにせよ、運動部のようなすっきりした肉付きでないのは間違いない。
「これはやはり若干抵抗があるな……」
着るならば筋トレなりダイエットなりある程度の体づくりが求められる気がする。そしてそんなもの夏じゃなくてもお断りだ。これは売り場に戻そうと先ほどの競泳水着とはわけて置いておく。
次に手にした水着もやはりビキニだった。しかし……。
「うーん、これは」
着る前から失敗を察するデザインだったが、せっかく持って来たのだしとりあえず身に着けて鏡を見てみる。
真黒な、そしてこの上ないのではと思うほどに僅かの布地。年相応の可もなく不可もない(と自分では思っている)程度のふくらみは決して重力に負けることなく瑞々しい張りを保っているけれども、それにしてもその半分以上が覆われることなく露出しているのはいただけない。
それぞれの布地が辛うじて紐で繋がれてギリギリ要所を覆っている。ジャンルで言うならマイクロビキニだった。
「ないな」
冷めた表情ですすーっと片付けて脇へ押しやる。
不二くんはもしかしてこういうやつのほうが喜ぶのだろうか? 純粋な疑問として思考の隅に浮かんだけれども「恥ずかしいけれども彼の為ならっ」みたいな乙女チックな献身の気持ちは微塵も沸くことなくただ漠然と「だとしてもこれは無い」と思っただけであった。
そもそもこれから親にタカって買って貰おうというのにここまで挑戦的なデザインはさすがにありえない。万が一買う日がくるとしても、これを買ったなどと親には絶対知られたくなかった。
「初心だ。初心へかえろう」
自分に言い聞かせて再びワンピースタイプの水着へと戻る。ピンクの布地に白と黄色のハイビスカスがプリントされたそれは、腰回りや胸元を隠すかのように幅広のフリルがこれでもかというほどあしらわれている。
肌の露出は今までの中で一番少ない。身体をしっかりと包み込んでいる水着の形状自体がスク水とほぼ変わらない上にフリルでなにもかも隠されている。
「女児用、とまでは言わないが……」
言わないが、限りなくそれに近い。これを自慢げに不二に見せている自分の姿を想像すると、なんかちょっと違うような気がする。彼の反応に困った生易しい笑顔を想像してしまいそっと脇にのけた。
「もうスク水でいい気がしてきたな。絶対間違い無いし」
しかし散々時間をかけた結果がそれというのも腹立たしい。既に対価は払い始めているのだ。成果を持ち帰らなければ引っ込みがつかない気持ちになっていた。一度ガチャを回し始めると目当てのものが出るまでなかなか止められないあの心理と同じである。
それにどうせ買うのであれば不二に披露して称賛の言葉のひとつも言わせたいという願望が、無意識に近いものではあったけれども確かに存在していた。
ワンピースタイプは私には難しいな。しかしビキニはどれも似たような形状だし露出がな……などと思いつつ新たに手にした水着は、セパレートタイプだが布地がずいぶんと多い。
白地に藍色の朝顔のような花模様がたくさん描かれた水着。
トップスは短めのキャミソールくらい、ボトムスはホットパンツくらいで露出はあれど、試着してみるとビキニよりはやはりだいぶ安心感がある。色と柄も好みだ。新田は名前を知らないがタンキニだった。
これを着てプールサイドに立つ自分をイメージしてみた。派手に過ぎず、地味に過ぎず、なかなか良いのではなかろうか。これにしよう。そう驚くような値段でもないし、親も嫌な顔はすれど買ってくれないってことはないだろう。自分の納得感も申し分ない。
「まったく、水着一枚にずいぶん労力をかけてしまったな」
今回は二階堂の口車にまんまと乗ってしまったが、やはり慣れないことはするものじゃないなと溜息を吐く。なにが女子高生たるものだ。彼女らは毎年こんな買い物を繰り返しているのか? 新田にはとても正気の沙汰とは思えない。
まあ、ともあれ済んだことだ。
無理矢理の外出に言われるままの買い物ではあったけれども、終わってしまえばなにもかもよい思い出。先ほどまでの苦労を瞬く間に思い出に変えつつ試着室を後にするのだった。
~つづく~




