勝負にならない負け上手:後攻1
「先輩ゲームしません?」
後輩の不二が言い出したのは期末試験も近付いて来たある日のことだった。
「おや、キミからそんなことを言ってくるとは珍しいね」
部長の新田は手にしていた本を閉じて彼に視線を向ける。
制服を校則通りに着こなして、ひとつ結びの三つ編みに紺色でフルリムのセルフレーム眼鏡という組み合わせは絵に描いたような文学少女のようでありながら、そこに浮かぶ表情はどうにも不遜でふてぶてしい。
「さては先日の負けを根に持ってるのかい」
つい先日カフェでの奢りを賭けたゲームをして、紆余曲折あったものの彼から散々にむしり取ったばかりだ。
不二はにやにやと聞いてくる彼女の態度を流すように軽く肩を竦め「まあそんなところです」と答える。
こういったことは今までなかったのだけれど、どういう心境の変化だろう。ちょっとたくさん集り過ぎたろうか。それとも……そのときの情景を思い出して少し気恥しくなったのですぐに考えるのを止めて頷いた。
「とりあえず話を聞こうじゃないか。ルールと報酬をきちんと詰めておかないとね」
「ゲーム中にパンツの色聞くヤツが出るかも知れませんしね」
「そ う だ ね」
新田の顔が赤く引き攣った。その反応に不二はにこーっと笑みを作って続ける。
「ウミガメのスープなんてどうですか」
「設問に対してイエス、ノーで答えられる質問を繰り返して答えを模索するヤツだっけ」
「それです。ルールも前回のに似てるし結構妥当なんじゃないです? 今回は僕が出題しますよ」
「ふむ」
「答えは不正がないように先にノートに書いておきます。質問はイエス、ノーで答えられるものに限る、というか他の方法では答えません。答えも質問の形で出すことにしましょうか」
「というと?」
「例えば答えがアイスコーヒーだった場合【答えはアイスコーヒーか】という質問になってイエスであれば勝利、という感じですね」
「なるほど」
「制限時間は五分くらいかな、前と同じですし。制限時間内に始めていれば質問の終わりが制限時間をオーバーしてもオッケーとしましょう。前それで微妙に揉めましたし」
「不二くん私は前回は円満に終了したものだと認識しているのですけれど」
新田が急にスンっとして丁寧な言葉遣いになったので半笑いで頷く。
「ええはい円満でしたね。とにかくそこははっきりさせておきましょう。今回も円満に済ませたいですからね。あとは、降参した場合はその場で終了ということで」
「むう……わかったとも」
「賭けるものは……フタバ一回食べ放題はちょっと負担が大きいので、大きかったので、ドリンクとその他一品。くらいでどうでしょ」
「ちょっと時間的に回答側が不利な気もするけれど……まあここは強者の余裕を見せるところかな。あんまり豪遊ばかりしていても体重が心配だしね」
新田は当然勝つとでも言わんばかりに笑みを浮かべるが、しかし不二は気にした様子もなくしれっと返す。
「先輩はもう少しふくよかでも良いと思いますよ」
「うっ、まあ、誉め言葉と受け取っておこう」
「あはは、それじゃちょっと待ってくださいね」
かばんから取り出したノートにサラサラと答えを書き付けて閉じると、スマホでタイマーを五分セットしてお互いに見えるように手に持つ。
「それでは問題です。いきますよー?」